音響魔法の使い方 5
「ふふふ、ルファだけでは思ったようなダメージを与えられていなかったようだけど、威力が段違いね。あっさりと勝負あったわ。おとなしくとどめをさされなさい」
シータ(姉)が勝ち誇っている。とはいえ、もちろんプヨンは大人しくやられるつもりはなかった。ただ一方で、逃げるにしても、怪我をした状態じゃ厳しい、少し時間を稼ぐ必要があった。
「くっ、こんなにダメージを受けてしまうとはな。だけど、なぜ、仕掛けてきたの?」
プヨンは、なぜ、自分やハリーが狙われたのかが気になっていた。
「なぜって、それはさっきも言ったけど、失敗した間抜けのしりぬぐいよ。もどったら、私たちが片を付けてあげたわと・・・うふふ、私たちが上だとわからせてやるのよ」
シータ(姉)とルファ(妹)は、おそらくニードネンに勝ち誇る自分たちを想像しているのか、ニヤニヤしている。
そんな話をしている間に、プヨンは、こっそりと傷を治そうとする。
「ラパロトミーマイステン」
略するとラパロだが、皮膚回復などの軽度なリパリ―に対して、骨折や軽度な開腹手術程度を効率よく治療できるようになっていた。
プヨンは、大急ぎで膝の骨の治療にあたった。痛みはほぼないが、傷をなおすまでには多少の時間はかかる。うまく、会話を引き延ばしたい。
「くっ。たしかに、この状態じゃ戦っても厳しい。しかも、そちらは2人だし。でも1つだけ聞きたい。なぜメサルの件がからむの?理由を知りたい」
「それは・・・、まぁ、いいでしょう。今から来世に旅立つだから、教えてあげるわ・・・」
プヨンは、骨格部分の修復が終わり、まわりの組織の修復を始めていた。
「ふふふ、聞きなさい、私たちが目指すのは、天才の転生による来世のための政治よ。そして、理想的な世界を実現するのよ」
「て、転生?転生だって?転生って、生まれ変わるとかいうこと?」
転生という言葉に、プヨンは思わず聞き返していた。
「そうよ。私たちは、今の知識を持ったまま生き続ける方法を見つけつつあるのよ。私たちを導いてくださる方の指導のもと、崇高な世界を実現するのよ」
なにやら、シータは自分の言葉に酔っているように見える。ルファも、そんな姉を尊敬のまなざしで見つめていた。
「そ、そんなことができるんだ。自分たちの知識を持ったまま生き続けるか」
「ふふふ、恐れ入ったでしょ。では、そろそろ・・・」
プヨンはシータの説明を聞いて、知識を持ったまま生き続ける術があり、そして、自分たちの理想的な国家をつくろうとしている、そう理解した。
同時に、体力は多少消耗しているが、足の治療は完了していた。まだ完全に組織は固定されていないが、それなりに活動するのは差し支えないはずだ。
シータとルファは一通り話終えると、再び、プヨンの両側に立ち、構えに入った。プヨンは、覚悟を決めたように黙ってうなだれるが、そっと動きを読む。
「なかなか潔いはね、もっと仲良くしたかったけど、残念ね、ここでお別れよ」
シータがつぶやき、シータとルファは、腕の
「ダブルランジュバン」「ダブルランジュバン」
「アクアウォール」
プヨンは、2人のキャスティング完了にあわせ、それぞれの中間位置に水壁を作り出した。
超音波は材質の変わる面で反射される。空中を飛んできた超音波は、水面にあたり、多少減衰はするものの境界面で反射された。先ほどよりも強力な2人の超音波は、そのまま2人のほうに返っていった。
「えっ」「きゃう」
反撃を予測していなかった2人から悲鳴があがる。
プヨンが反射させた超音波は、精密な狙いがつけられるわけではなかったため、効果は限定的だった。
シータの衝撃波は、シータの足の手前に着弾し、地面から土ぼこりが舞う。一方、ルファは運悪く、跳ね返った衝撃波をふくらはぎに受けていた。肉がはじけ飛び、血が飛び散っていた。
「な、なんで?どうなっているの?」
まさか、反撃されるとは思っていなかったシータは、何が起こったかわからず戸惑っている。
プヨンは勢いよく立ち上がり、このタイミングを逃さず、続けて、プヨンは2人に稲妻を落とす。
「リスワイフ」
ただ町中で万が一にも殺してしまうと、それは犯罪になってしまう。ここは手加減を加え、逃げるまでの時間を稼ぐことにした。高圧ではあるが、電流を絞る。
バシッ。バシッ。
「ひゃうっ」「ひっ」
高圧にはじきとばされ、2人は地面に打ち付けられた。電流が少ないため致命傷にはなっていないが、完全にしびれていた。
「・・・な、なんで・・・」
感電で一時的にしびれたため、シータもルファも思うように体が動かず、はいつくばっている。
プヨンは、ここで、念には念を入れて、2人の腕の皿、おそらく、水晶板と2人の足元に、
「シスターンリーベン」
水を多めにかけた上で凍らせた。これで、氷が融けるまで、衝撃波も出せないし、足が凍って動くことはできないはずだ。
「つ、つめたい・・・」
相手の攻撃を封じたあと、プヨンは、ルファの前に移動した。
「ねぇ、冷たい?許してほしい?」
「つ、冷たいです。た、助けて」
「じゃぁ、もう、僕のこと狙わない?」
「そ、それは・・・」
シータもルファも完全にしびれているようで、まだ手足に力が入らないみたいだが、素直に負けは認められないようだ。
「しかたないなぁ、くらえっ」
プヨンは、ルファのほっぺをもって、おもいっきりひっぱってやった。
「むにむにー」
「い、いたいー。ほっぺがのびるー」
ひとりしきりほっぺむにむに攻撃をしたあと、プヨンは走って空き地をでていった。
「あ、あんた、今度会ったら覚えておきなさいよ」
シータの強がった声が聞こえたが、
「とりあえず、不審者として報告しておくから、そこにいるように。またねー。」
と返しておいた。治安維持のためにも不審者として連れて行こうとも思ったが、相手の人数が完全には把握できていないため、応援がくる可能性もある。プヨンとしては、急ぎこの場を離れたいと思った。ただ、不審者は間違いない。通報はする必要があった。あとは、警備の人たちに任せようと思った。
プヨンは、急いでその場は離れはしたが、ユコナには伝えておくべきだと思った。
(ユコナは送ってやらないとな。1人のときにさっきの2人に出合うと、かなり危険な気がする。護衛所にいるはずだから、怪しい2人が空き地にいると報告のついででちょうどいいや)
プヨンは、町の入口の詰所のほうに引き返していった。




