学園、そして出会い。ついでに甘い空間
「ふぅ...やっと一息付けるな...」
大きく息を吐き、食堂の席に着く。
現在地は学園の食堂だ。もちろん貴族たちが使うところとは別である。
一回リディアと一緒に貴族用の食堂に行ったらものすごい勢いで睨まれて帰ってきたよ。
一体俺が何をしたって言うんだ...。
とまぁそんなわけで平民用の食堂にいるわけだ。
リディアは俺と来たそうにしてたがさすがに王族が平民用の食堂に行くわけにはいかないらしく、貴族用の食堂の警備をしていた騎士さんたちに引き留められてた。
「よっ!お前がハルトだな?」
「あぁ?誰だよ...」
後ろを見てみると、妙におびえた顔の赤髪のツーブロック野郎が立っていた。
「そ、そんな睨むなって...」
「あ?..あぁ、目つきは生まれつきだ。別に睨んでるわけじゃないぞ」
俺は肩を竦めながら視線を落とす。
「そうなのか?はは、悪いな」
そんな俺に対して何処かホッとした顔をしている赤髪が隣に座る。
てかお前誰だよ....。
「ん?俺が誰だ見たいな顔してんな?」
「おま、心読むなよ。きもいぞ」
「お前、結構辛辣なんだな....」
そう言って悲しそうな顔をする赤髪。
てか本当に誰。
「おっと、話ずれたな。俺の名前はアレン。一応男爵家の次男だ」
げっ、貴族かよ....。
お貴族様が俺に何の用だ...?
「お前、実技試験ですげぇ技使ったんだろ?どうやってやったんだ?教えてくれよ!」
そう言って目を輝かせながら詰めよってくるアレン。
男が詰め寄ってきてもむさくるしいだけなんだが....。
「詰め寄ってくんなって。むさくるしい。なんでお前に教えなきゃならんのだ」
「お前、一応俺貴族なんだぞ?いきなりため語って...」
「お前、俺が貴族相手に敬うような態度をとると思うか?」
そう言って自分を指す俺。
アレンは俺をジッと...いや、目を見た後、何か考えるそぶりを見せて...。
「思わんな。そんな目つきならまだ盗賊のほうがましだぞ」
いい笑顔で言い切った。
そして俺はゆらりと立ち上がり、そのままアレンの脇腹に指を当てた。
「おい、何すんだよ。くすぐったいだろ?」
「安心しろ。痛いのは一瞬だけだ」
「え?だから何を...」
笑顔のまま魔力を指に纏わせ、スタンガンの如く、指先から微弱な電流を流す。
当然指が振れてるアレンの脇腹にも電流が行くわけで...。
「アババババババババッやめっアババババババババ」
数十秒間電流が流れた後に動かなくなった。
ハルトは動かなくなったアレンを見ると、どこか満足したような顔でおでこをぬぐった。
そして注文した食堂の料理に手を付け始めた。
今回注文したのは、日替わりAセットだ。
出てきたのは野菜炒めにコンソメスープらしきもの、そしてパンだ。
まだ暖かい野菜炒めの匂いが食欲をそそる。
そのまま口に頬張ると、野菜のシャキッととした感触と主に、たれの味が効いた肉の味が同時に染み渡る。
そしてそのままパンに口に入れる。
うん、うまい。
◇◇◇◇◇
食い終わった頃もまだ動かないアレンを見て、少しやばいと思ったが、微弱な電流を流したら「ここはだれ?!私はどこ?!」とか意味わかんないこと言いながら起き上がった。
俺を見つけるとそのまま突っかかってきそうだったので軽くあしらって退散した。
リディアに早く会いたいなぁ。
◇◇◇◇◇
食堂を出て中庭らしきとこで休憩してると、飯を食い終わったリディアがやってきた。
「あ、おーい、リディア...?」
背後にイケメンを引き連れて。
そしてそのイケメンと楽しそうに話しながら。
引き攣ったよ。盛大に頬が引き攣った。
ほんと、ピクピクした状態で動かないの。
リディアもこちらに気づいたらしく、小走りにこちらにやってきた。
「ん、ハルト。どうしたの?」
「な、何でもないよ。ところで、そこのイケメンは誰かな?」
いまだに引き攣ったままの笑顔でリディアに問う。
リディアはそんな俺を見て、少し考えたそぶりを見せる。
しばらくすると、「ああ」と言い、俺に向き直る。
「ハルト、私はハルトが好き」
思わぬ言葉に少しびっくりする俺。
「え?あ、ああ、俺もリディアが好きだぞ」
戸惑いながらリディアにしっかり愛情を伝える。
リディアは嬉しそうに微笑むと、俺の腕にしがみつく。
「ん、私はハルトのもの。ハルトは私のもの」
よくわからないリディアの言葉に苦笑しながら、再び本題に戻す。
「んで、リディア。そこのイケメンさんは誰だ?」
このイケメンさっきから俺に殺気を当ててくるんですが。
怖い、怖いよ!しかも睨んでくる!
ん?俺?俺は生まれつきこの目つきだからいーの。細かいこと気にしてると禿げるよ?
「ん、この人はアーガス・リディーネ。リディーネ伯爵家の長男」
ほえー、伯爵家か。
結構高い地位なんだな。
「初めまして。ところでリディア様、そちらの目つきの悪い男は誰なんでしょうか?ずいぶん仲がいいように見えますが」
そういい俺を睨むアーガス。
おいおい、だから睨むなって。
こっちも本気で睨むぞ?!こちとら"ヤ"がつく職業の方にも負けない目つきしてるんだぞゴラァ!!
「ん、彼はハルト。私の婚約者」
「っ、ほ、ほう。婚約者ですか。それにしては貴族には見えませんが」
効いてる効いてる。
どうだ?うらやましいだろ?リディアはいい子で王族のお嬢様だけど、家事も料理も結構できるすごい子なんだぞ!
入学前に食べたリディアの肉じゃがもどきはめっちゃおいしかった。
また機会があるときに作ってもらおっと。
「ん、ハルトは貴族じゃない。でも好きだから関係ない」
「で、でも平民と王族の結婚は厳しいんじゃありませんかな?アルベルト国王もそれをさすがに許したりはしないでしょう」
見事なドヤ顔を決めるイケメン。
こいつ、見た目はさわやかなのにしつこいなぁ。
「ん、お父様公認だから大丈夫。なんの問題もない」
一瞬にしてドヤ顔が崩れ落ちるアーガス。
そのまま悔しそうな顔をすると、「で、では、失礼します」と言ってどっかに行った。
「ハルト」
「ん?どうした?」
「キスして」
「ブッ」
いきなりの注文に思わず吹いてしまった。
き、キスか....。
実はまだしてないなんて言えない。
「はやく」
リディアに急がされる。
ここでか...?
「で、でも学園内だと誰かに見られるかも...」
「上等。私たちの愛を見せつける」
えぇ....マジですかい...。
これは腹をくくるしかなさそうだな...。
「わ、わかった。行くぞ」
「うん、来て」
目をつむり、唇をわずかに突き出すリディア。
リディアの唇に自分の唇を重ね合わせるように、優しくキスをする。
それと同時に、どこかからは「キャー!」と聞こえ、またどこかからは殺気をぶつけられる。
時間として数秒だろうか。唇を重ねてる間は数時間と時間を延ばされた気がする。
ゆっくり唇を離すと、リディアは「もっと」と言ってきたが、さすがに遠慮した。
リディアはむぅっとしてたが、俺が帰ったらまたしてあげるからと言うと、嬉しそうに笑みをこぼした。
◇◇◇◇◇
その日は帰ったらリディアにせがまれてキスをした。
そして夜は....まぁ、初めての激しい夜だった、ということだけは伝えておこう。