国王、そして学園④ ~最終章~
残りの4日間は隣国を移動するための時間として使われた。
隣国まで4日じゃ間に合わないんじゃないかと思ったが、王家が使っている【ヴァンパイアホース】という魔物を使うから全然問題ないとのこと。
【ヴァンパイアホース】は不死身の馬みたいな感じだ。
馬と違うところは個体数が少なく、背中に大きな羽が生えていることだ。
あと見た目も少し黒っぽい。
馬よりも膂力があるらしく、隣国までは2日もかからないらしい。
途中で魔物が出てきたりしたが、すべてヴァンパイアホースに蹴散らされてしまった。
異世界の旅路と言えば、盗賊はつきものなのだが、さすがに王家を襲うほど野蛮なことはしないらしい。
たまに馬鹿な盗賊が突っ込んでくることはあるそうだが。
「ハルト、見えてきたよ」
リディアにそう言われ、馬車の窓の外を見ると、ルシアーノ王国ほどではないが、なかなか立派な壁に囲まれた国が見えてきた。
「だな。検問所みたいなところは通るのか?」
「ん、王族は通らなくても大丈夫。でもその代わりにあっちを通る」
そう言ってリディアは検問所の隣にある豪華な馬車がずらーっと並んでいる、如何にも貴族専用です見たいなところを指さした。
「げ、あそこ通るのかよ」
「うん、あそこは貴族専用。だけど王族は優先的に通れるから早く行ける」
「そ、そうか。...てか悪趣味な馬車が多いな...」
自分の財力を見せつけるためか、サファイヤやダイヤモンドなどのありったけの宝石をくっつけた馬車がここからでもいくつか見える。
貴族って厄介ごとの匂いしかしないよな....。
◇◇◇◇◇
「これはこれはリディア王女殿下、ご機嫌麗しゅう」
ほーらやっぱり来たよ。
さわやかイケメン系の貴族だったら「お、イケメンだな」程度に思うけど、さすがにでっぷり太ってめっちゃ汗かいてるおっさんがこっちに来たらさすがに誰でも警戒するよな。
「...えぇ。それで、用はそれだけ?」
さすがのリディアもこのおっさんには険悪感を抱いたらしい。
表情では分かりにくいけど、普段の言動を聞いてる俺ならわかる。これは嫌な相手に向けて喋る冷たいリディアだ、とな。ふはは。
「まさか。家の子とのお話、聞いてもらえましたかな?」
「...まぁ一応」
「それはそれは...では、その話は呑んでいただけますかな?」
「...それは無理。私にはもう婚約者がいる」
そう言ってリディアは俺を見る。
ああ、そうだった。今はリディアの婚約者だったな。
唐突だったから実感がなかったよ。
「ほほう....そちらのお方がですか...」
太った貴族――もうデブでいいか。
デブは俺のほうを見て目を細める。
「失礼ですが、お名前をお聞きしても?」
「あ、はい。ハルトです。そしてリディアの婚約者です」
俺はなるべく普通に挨拶を返す。
ここで煽ったりなんかしたら話が余計にこじれそうだしな。
「貴族の方では――無いようですね。...平民、婚約者の座を譲れ」
「...は?」
おおう...貴族じゃないってわかったらいきなり態度を変える典型的な性悪貴族か....。
てか王族の婚約者によく言えるな...俺だったら絶対そんな風に言えないわ。
「聞こえなかったか?婚約者の座を譲れと言っているのだ。本人が嫌がるならまだしも、同意すれば婚約者の座を変えるのはたやすい」
てか俺って貴族でもなんでもないけど王族と結婚って大丈夫なのか?
....国王が許可したから大丈夫か。
ちなみに国王は留守番中だ。
「儂も行くのじゃ~~!」とか言っていたが笑顔のピラールさんにどこかに引きずられていったよ....。
「えっと、婚約者の座を譲ることはできません。俺もリディアのことが好きですし」
うわ~、自分で言っといてなんだけどかなり恥ずかしいな...。
「これだから平民は....いい加減に...ヒッ!!」
デブはしりもちをついて後退っている。
どうした?と思い隣を見ると、軽蔑や怒り、その他諸々を含んだ瞳で、さっきをまき散らしながらリディアがデブをにらんでいた。
「...目障り。消えて」
そうリディアが一言言うと、デブは体形に見合わない速度で一気に馬車の中に戻ってしまった。
「...ふぅ」
リディアが小さく息を吐く。
「大丈夫か?」
「うん。..ああいうやつは慣れない」
「はは、俺もだよ...」
俺はそういいながら苦笑する。
リディアもそんな俺を見てか、静かに微笑んでいた。
◇◇◇◇◇
やはり王族の馬車だったのか、他の貴族の対応を後回しにし、俺たちが乗ってる馬車を優先的に通らせてもらった。
学園での受付は思った以上にスムーズだった。
筆記試験はかなり前に終わってるらしいが、実技試験のほうは入学式当日に行い、そこでクラスを決めるそうだ。
てか筆記試験がもう終わってたことに驚き。
俺とリディアが出会う前に終わってたのか....。
入学式は今から2週間後らしい。
その間に、制服の繕ったり、日用品を買ったりするらしい。
いよいよ学園か。
楽しみだな。
俺は静かに学園への期待を募らせていった。
やっと学園に入ってきました....