国王、そして学園③
その後の3日間はこの世界についての基礎知識を勉強したり、騎士団の訓練に混ぜてもらったりした。
勉強の成果としてこの国とスキルについて分かったことがある。あと魔法。
この国は初代国王が作り出した結界によって、一日中夜の状態だということ。
スキルは持っている人は少ないが、スキルは魔力障壁などでは絶対に防げないこと。
防げるとしたら聖魔法の"聖結界"という結界だけであること。
スキルを魔力障壁では防げないって知ったときはまさかと思った。
魔力障壁を厚くすれば防げるぞ、とリディアに一回言ってみたが、そもそも体にぴったり魔力障壁を纏わせること自体が不可能らしい。
できるのは自分を箱のように囲むか、球体状に囲むかしかできないらしい。
さらに言えば厚くしても防げない、ということだ。
魔法は火・水・風・土の4つの属性があり、それが基本属性らしい。
特殊属性に光・闇・回復・召喚がある。
使い方としては詠唱をして魔法陣のイメージ力を高め、その魔法陣で魔力を形にして火を作り出すとか。
さらに読み進めて分かったことは、どうやら詠唱は必要がないということだ。
要するに、イメージ力さえあれば、詠唱など必要ないということだ。
火の魔法を使いたければ、魔法によって生み出される結果をイメージし、魔力を形に変えるだけだという。
この世界の住人は詠唱が当たり前になってきているから、無詠唱はほぼできないんだとさ。
魔力の練り方は魔術と全く一緒だった。
体内にある魔力を感じ、それを全身に循環させる。
基本的に魔術と何も変わらんな。
魔法のほうが少し優秀じゃね?とか思って初級魔法の【火球】を使ったら魔術のほうが威力が高かった。
しかも消費魔力も魔術のほうが少なかった。
俺はその時思ったよ、魔術たん!一生使い続けるよ!ってな。
騎士団の訓練はなかなかだった。
日本という平和な国では格闘術や剣術を使うことなんて滅多になかったからな。
人相手に久しぶりに使ってみたが数回ほど躱されたり、防がれたりしてしまった。
【雷光】を使ってみたらやっぱりこの世界だと魔術の効果が高まっているらしく、しばらく練習しないとまともに使えなかった。
明日の朝には学園がある隣国に出発するらしい。
その国の名前は"ミルトン王国"というらしく、騎士団や冒険者が強いことで有名らしい。
「ハルト、まだ起きてる?」
あら、もうそんな時間だったのか。
一日中夜だから時間間隔狂うなぁ。
「ああ、起きてるよ」
そう言って俺は部屋のドアを開ける。
ドアの向こうには白色を基調としたネグリジェ姿のリディアがいた。
白の中に真紅の瞳が一層目立って見える。
「どうした?」
「ん、少しハルトと話したくて」
「そっか。まぁこっち来いよ」
そう言って俺はじぶんのベットの隣をたたく。
「ハルトは、どうしてあの森にいたの?」
リディアが首をかしげながら聞いてくる。
「んー、....まぁリディアになら話しても大丈夫かな。実は――」
俺はリディアにこの世界に来たきっかけを話した。
話し終わるとリディアは少し驚いた表情で「そう..」と言っていた。
「リディアこそ、どうしてあの森にいたんだ?」
今度は俺が問う。
「....私には妹がいる」
そう言ってポツリポツリと話し始めた。
妹がいると知ったときはびっくりしたね。
曰く、妹は5年前...7歳の時に、とある事故で視力を失ってしまったらしい。
ヴァンパイアの再生能力をもってしても視力は回復しないから、万能薬である"エリクサー"を作るために材料を探していたらしい。
回復魔法での治療もほぼ不可能だとか。
「...それ、治せるかも」
「本当?!」
リディアがものすごい勢いで食いついてきた。
びっくり。
「お、落ち着けよ。まだ可能性の話だ。確実に治るわけではない」
「ご、ごめん。でも、治るかもしれないって...」
「まぁそれは妹さんの様子を見てからだ」
「わかった、部屋に案内する」
そう言ってリディアは俺の手を引っ張る。
妹がすきなんだなぁ...。
◇◇◇◇◇
話を聞く限りだと、角膜が完全に乾燥してるだけな気がするんだよな...。
「ここ。ルディア、入るよ」
どうやら妹さんの名前はルディアというらしい。
リディアと似てるな。
部屋の中は真っ暗だった。
リディアにあかりを付けてもらうと、部屋にはテーブルとベットと水差し以外、何もなかった。
テーブルの上には気休め程度の花が置かれてるだけだ。
「姉さま?どうしましたか?」
ベットの上にいるルディアが目をつぶりながらリディアに話しかける。
「ルディア、もしかしたら目が治るかもしれない」
「ほ、本当ですか?!」
少し上ずった感じでリディアに問うルディア。
「うん....ハルト、お願い」
「ああ...【リカバリー】」
【リカバリー】は俺がこの世界に来てから編み出した魔術の一つだ。
系統としては水に入る。
編み出したって言っても一から作ったわけじゃなく、怪しい爺さんからもらった本と、魔法陣を頼りに作ったんだが。
本の中身には人体の構造について書かれており、断面図や魔法を使うとき何をイメージすればいいかが描かれていた。それを魔術版に返還したって感じだな。
部位欠損やケガだけではなく、病気も治す優れモノだ。
効果は発動者の魔力量による。
瞳の上に透明なゼリー状のレンズ上にかぶせる感じで修復していく。
異世界効果でうまくいってくれればいいんだが、などと考えながら治療を続ける。
「.....よし、終わったぞ」
時間として10分ほどだろうか。
初めての治療にしてはなかなかうまくいったと思う。
「ルディア....目を、開けてみて」
「はい、姉さま」
そう言い、ゆっくりと目を開けるルディア。
何度か瞬きをした後に....。
「見える....!見えます!姉さま!」
そう言ってリディアに抱き着いた。
俺は無事治ったことに安どの息を吐き、リディアは目が治ったルディアと抱き付き合って涙を流して喜んでいる。
少し騒ぎすぎたせいか、「どうかしたか!?」と言いながらアルベルトとピラールさんが飛んできたが、俺が事情を説明すると「ハルトぉ!よくやったぁぁ!!」とか泣きながら両手を握ってブンブンしてきた。痛い痛い。
ピラールさんは娘二人を抱きしめて嬉しそうに笑いながら泣いていた。
◇◇◇◇◇
一通り泣き終わったあと、俺たちは全員で最初に来た部屋――王座の間にやってきていた。
「さて、ハルトよ」
「なんだ?」
「今回のことについて報酬を出そうと思うのじゃ」
報酬か。
この世界の硬貨は持ってなかったからちょうどいいな。
生活費も欲しいし。
「わかった。ありがたく頂戴しよう」
「ああ、そうしてくれるとありがたいのじゃ。金額としては、白金貨50枚ほど出そうと思う」
白金貨50枚か....50枚!?!?!?
この世界の通貨はこんな感じだ。
銅貨1枚・・・10円
銀貨一枚・・・100円
大銀貨1枚・・・500円
白銀貨1枚・・・1000円
金貨一枚・・・10000円
大金貨一枚・・・100000円
白金貨一枚・・・1000000円
大金貨10枚分の白金貨が100枚....5千万!?
異世界来て初めての報酬が5千万かよ...。
「もちろん、受け取るじゃろ?」
「...わ、わかりました」
受け取るから!受け取るから一家全員で【魅了】掛けようとするのやめて!
そんな感じで異世界初の報酬を受け取ったのだった。
学園あと少し出ますから...!
タイトル詐欺とかいわないでぇ!