死神vs主神
裂け目を出た瞬間見たものは酷いものだった。
【解体】の能力で体を壊され息絶える兵士、大剣により首を刎ね飛ばされ倒れる兵士。
だが同時に神の人形を相手に数人で対当して打ち勝つ兵士もいた。
だがその数は少数。人類はだんだんと劣勢に追い込まれていた。
「これは...かなりまずいな...眷属共、神の人形だけを蹴散らせ。それと今回は周囲に被害が及ぶから人間がいるところでのミサイル、ガトリング砲、その他の兵器は使用禁止だ」
眷属たちが一斉に「クルルゥ!」や「ウォン!」などの抗議(?)の声を上げるも、俺が後に放った一言でそれは歓声に変わった。
「この戦いが終わったら生き残った奴に新兵器を搭載してやる。だから絶対に生き残れ」
俺は眷属たちに散開するように指示し、俺自身はリディアとティアのもとに移動する。
兵士たちは突然やってきた金属製のグリフォンやウルフに驚き警戒をするも、そのグリフォンやウルフが神の人形を一撃で仕留めると歓声を上げた。
どうやら事前にリディアから説明があったらしく、そのおかげで兵士たちの士気は高まりつつあった。
俺は追い詰められてる兵士を助けながらもリディアとティアのもとへ向かう。
「リディア、ティア!無事か?」
「...ん、ハルト!」
「ハルトさん!待ってましたよ!」
二人は肩を大きく上下させながらも目立った傷はないようだ。
どちらかといえば戦闘での疲労のほうが多きようだな。
「二人は一時的に前線から撤退しろ。後は俺が引き継ぐ」
「...ん、その言葉に甘える」
「私もさすがに限界でしたからね。後はお願いしますよ!」
「おう。さっさとこの戦いを終わらせてお前たちと俺の故郷に帰る手段を見つけるよ」
軽くキスを交わしながら別れを告げる。
二人は急いで前線から撤退し、俺はパイソンを構える。
襲ってきた人形の数は10。
全員が少しタイミングをずらしながら大剣を構えて襲ってくる。
「パイソンを使う必要もねぇな。俺の新しい魔術の実験台になってろ」
俺の周囲にスパークが迸ると、上空から漆黒の稲妻が10体の人形目掛けて降り注ぐ。
ドゴォォン!!
轟音と共に雷は人形に命中し、人形は塵となって消える。
この魔術は死神魔法と雷魔術の混合魔術――【黒神雷】。
神の人形との戦いの中で開発した魔術だが、コントロールが甘いのでまだ実験段階だ。
俺は次なる得物を求めて戦場を駆け巡る。
ふと、一つの冒険者パーティが人形に殺されかけているところが目に入る。
俺は人形にばれないように気配遮断を使い、高速で背後に接近する。
そのままパイソンで頭を撃ちぬいてもよかったのだが、頭を突き抜けて前にいる冒険者に当たっても困るので、ガシッと人形の首を掴む。
人形は振り返ろうとするも、その前に首を握る潰すべく手に力を入れる。
ブチン、という音共に人形の首が取れ、地面に落ちる。
「す、すまない。助かった」
「通りかかったから助けただけだ」
助けた冒険者パーティはなぜか全員が女性で、リーダーと思われる金髪の剣士風の女性がお礼の言葉を掛ける。
俺はそれにぶっきらぼうに答えながら背後から近づいてくる人形に銃口だけ向けて風穴を開ける。
「俺は行くけど、次は気をつけろよ」
「あ、ああ」
ハルトは踵を向けて走り去る。
その場に残った冒険者パーティは...。
「ね、ねぇ。今のって...」
「ああ、話に聞いた『死神』だろうな。あの黒髪に特殊な魔道具、間違いない」
気の強そうな女性の問いに対して、リーダー風の女性が答える。
「正直、あの『死神』もAランクって聞いていたのでなめていましたけど...同じAランクでも次元が違いますね」
魔法士風の少女が先ほどの光景を思い出しながらしみじみとそういう。
「だね..。私たちですら苦戦した神の人形相手に気づかれないように接近して首を握りつぶしちゃったもんね」
大きな盾を持った活発そうな少女が若干興奮気味に話す。
『死神』の二つ名がハルトの知らぬ間にどんどん拡散されていくのだった....。
◇◇◇◇◇
ドパァン!
戦場にパイソンの銃声が響く。
ここは前線の中でも最前線。
次元の裂け目に最も近い場所だ。
そこには勇者たちとクラルス、暴れまわっている神獣がいた。
勇者たちは既に神の人形と対当しているため1対1でも難なく殺している。
だが神獣とクラルスは複数の人形を相手しており、必ず人形のほうが潰されるか灰になるか首を刎ねられている。
『む?マスターではないか!』
フェルニのその一言で反応するものが複数。
特にクラルス。
「ボスゥ!お待ちしていやしたぁ!」
「ボス!人形どもを皆殺しにしやぁしょう!」
カルヴェとアスだ。
リナは気づいているが、戦闘に集中したいようで剣を振り回している。
他のクラルスはこちらに来たいが人形が邪魔で行けないといった感じだ。
「うまく戦えているようだな。この調子で頼むぞ」
「「へい!」」
盗賊の下っ端のような返事をしながら戦場に戻っていく。
『マスターよ、妾も頑張っておるのだが?』
「おお、お前もよくやるよなぁ...。人形が可愛そうになってくるわ」
『マスターが言える口じゃないと思うんじゃが...。リディアとティアはどうしたのかのう?』
「披露しているようだったから一時的に下げさせたぞ」
『うむ。いい判断じゃ。疲労したまま戦えば注意力が疎かになってしまうからな』
『主のほうはどうだったのだ?』
「ヴェルか。神の人形を20万以上相手してきたが、俺はほとんど何もしなくても眷属と兵器たちが終わらせてくれたぞ」
『相変わらず、主の眷属と兵器はぶっ壊れ性能だな』
『まったくじゃ。神獣でも苦戦するような能力を持つゴーレムを何千体も生み出せる錬成師がどこにいるというのじゃ』
「ここにいるだろ。怪我しないように頑張れよ」
『『了解』』
神獣たちのほうは大丈夫そうだな。
ドーラは....。
「ご主人様~!!」
いつの間にか人の姿に戻ってこちらに走ってくる。
進路を塞ぐように立っている人形はドーラの魔法によって吹っ飛び、そのまま動かなくなる。
「ドーラ、お前着物で走りずらくない?」
「大丈夫です!この着物は特殊素材なので伸縮性が抜群なんですよ!」
「お、おう...」
「それより!ご主人様はお怪我などをされてませんか?」
「大丈夫だ。ドーラこそ大丈夫か?」
「今更人形如きに後れを取るような実力じゃないですよ。これでも神獣の中では一番強いんですからね」
ふふん、と胸を張るドーラ。
とにかく、無事で何よりだ。
「...ご主人様」
「ああ。この気配はあの声の時と同じだな」
何かを感じ取ったドーラが、俺に声を掛ける。
俺もそれを瞬時に察知し、ドーラに同意するように頷く。
「主神様のお出ましだ。随分早いがな。フェルニはほかのところに支援に当たれ」
「承知しました」
襲撃から6時間ほど。
お出ましには随分早すぎる。
『反逆者よ、神の人形相手にこれほどの抵抗を見せるとは意外でした』
「やっと部屋から出てきたか。引きこもっててもいいことないもんな」
主神の言葉を無視し、俺はややおどけた風に言う。
その言葉に少しいら立ちを見せる主神だったが、すぐさま表情を取り繕う。
『その余裕はまだ続くのですか。主神である私が出てきたからにはすぐにその余裕はなくなるでしょう――なぁっ?!』
主神は驚いた表情をする。
なぜならハルトが目の前にいたからだ。
『ここは上空ですよ?!しかも主神が視認できない速さなど――ギャァ?!』
女神らしからぬ声を上げながら顔を抑えるミルクーレ。
ハルトはパイソンのグリップ部分をミルクーレの顔面に殴りつけたのだ。
「殺し合いはもう始まってんだよ。ちんたら喋ってないでかかって来いよ」
『こ、このっ!来てください、私の子たち』
ミルクーレの周りに魔法陣が浮かび、その中から天使たちがぞろぞろと出てくる。
おそらく物量で抑え込むつもりなのだろうが...。
「来い、眷属共。天使たちを蹂躙しろ」
俺は新たに眷属を呼び出し、天使たちを蹂躙するように命令する。
召喚スピードは俺のほうが圧倒的に早く、眷属たちは出てきた天使にミサイルやガトリング砲を放ち数を減らしている。
『またそのゴーレムですかっ!忌々しい!そんなゴーレムなど私の神言で押さえつけて差し上げますよ!【動くな】』
神言を自信満々の表情で繰り出した主神だが、俺の眷属共にはなんの変化もない。
それはそれぞれに俺の死神魔法――【絶対服従《デム・ハーム》】を付与しているからだ。
この魔法の効果は絶対服従、つまり主以外の支配を受けないというものだ。
それは勿論女神も例外ではない。
「どうした?早く止めてみろよ」
『死神魔法は私が使えなくしたはずじゃ....?!忌々しい死神め!』
睨みつけながら新たな魔法を放つ動作をするミルクーレ。
『ならあなたを直接狙えばいいわけですね?――【メテオ】』
ミルクーレの上空に100mほどの巨大な隕石が出現する。
『この魔法は神魔法の一つ。この魔法はいかなる敵も必ず殺せる魔法です!これを防ぐとこは不可能...馬鹿な?!』
俺は飛んできた隕石をまるで小石を払うように手に【リフレクション】を付与し、ミルクーレに隕石を撃ち返す。
ミルクーレは魔力障壁と神結界を使って何とか防ぐも、熱でやられたのか少々服が焦げている。
「その魔法、面白そうだな。――【メテオ】」
『この魔法は私しか使えないはずなのに...?!どうしてっ?!』
悲鳴じみた絶叫を上げるミルクーレ。
俺の上空には500mほどの隕石があり、それをミルクーレに向かって落とす。
ミルクーレは必死に防御するも、俺の【黒神雷】での牽制攻撃に集中力を削がれ、魔力障壁をメテオが突き破ってしまう。
『ウギャァァァッァァァァ!!!』
神魔法の隕石に焼かれながら地面に落ちるミルクーレ。
だがそれで主神が死ぬわけもなく、僅かだが意識があるようだ。
「まだ生きてたのか。この死に損ないが」
『私は...この世界の神....!神を束ねる、ごふっ....主神、なるぞ...!』
怨念を伴わせながら言葉を発すミルクーレ。
その姿はもはや神などではなく、まるで悪魔のようだ。
「お前は既に神などではない。さっさと死ねや」
俺はミルクーレの心臓に【神殺】を付与した弾丸を撃ちこむ。
『げほっ....ごふっ....私は....神なのにぃ....!!!』
大量に血を吐き出しながら恨めがましく俺を睨むミルクーレ。
だがその眼の光は徐々に薄くなり、やがて消えてしまう。
終わったか、と思っているところに突然...。
――許さない....許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
ミルクーレの声が頭に響く。
思わず頭を押さえてしまうと俺の心臓目掛けて一本の腕が突き進んでくるのが目に入る。
俺はとっさによけようと体を捻るも、一歩遅く心臓を鷲掴みにされる。
その腕はミルクーレのもので、先ほど殺したのになぜか生きてるようだ。
そのまま心臓を潰されるも俺はその隙に後ろに飛び、心臓を再生する。
「なんで生きてんだよ。もしかしてあれか?ラスボスには第2形態がありますってやつ。そんなテンプレ要らないっての」
俺はそんな愚痴をこぼしながら構える。
こいつの今の力は決して俺が蹂躙できるほど弱くない。
下手すれば俺が死んでしまうレベルの強さを持っている。
『ゆる...さない...』
生気を感じさせない目でこちらを睨むミルクーレ。
体からは先ほどから出ていた神々しい光ではなく、どす黒い霧があふれ出ている。
さしずめ、堕神といったところか?
「さすがに簡単にはいかないか....じゃあ始めようか。堕2ラウンドを」
両者が同時に駆け出す。
死神と堕神の戦いが、たった今始まった。




