ダンジョン、そして天族
ブオォン!ギャァ!ブオォン!ギャァ!ブオォン!ギャァ!ブオォン!ギャァ!
「なぁハルト、そろそろ俺達にも魔物を回してくれよ」
そういったのは勇者である和希だ。
ハルトは先ほどからこちらに攻撃してくる魔物をライ〇セーバーで片っ端からぶった切っているのである。
「だから魔物を殺したいなら前に出ればいいだろ?ほら、お前勇者なんだし突貫して来いよ」
そういって指さすのは巨大な虫が一か所に集まって何やら蠢いている場所だ。
でもこちらには反応しないので誰も近づかないようにしている。生理的に無理なのだ。
「いや、あれは無理だって。ほら、真ん中にいるの絶対Gだろ。3mぐらいあるけど」
「おい、Gとか言うなよ。せっかく見ないようにしてんだから」
54階層は所々こういうでかい虫型の魔物が一か所に集まってることがある。
しかし襲ってくるのはミノタウロスだったりでかい蛇の魔物だったり...。
「おい!なんかあるぜ!」
そう声を上げたのは勇者メンバーの一人、"野村 健司"だ。
クラスは槍使いだ。
そんな野村の声にクラスメイト達がぞろぞろと集まる。
「なんかの魔法陣か?」
「でもこんな魔法陣見たことないわよ」
「あれじゃね?失われた文明とか?」
上から順に"尾田 和人" "藤崎 優美" "秋山 慎司"だ。
クラスは軽騎士、投擲手、重戦士だ。
俺も気になり魔法陣を見てみる。
この魔法陣は...。
「これ、空間魔法の魔法陣だぞ。効果は転移だ」
「転移?それに空間魔法ってなにかな?」
「ラノベとか読んでる奴ならわかると思うが、簡単に言うとアイテムボックスが使えるようになる魔法だ」
クラスの一部の男子が「ああ、なるほどね」という顔になる。
それでもわからない女子や男子には一部の男子が教えているようだ。
「つまりだ。これに魔力を流すとどこかに転移をするってわけだ。...っておい勇者、お前何してんだ」
「なにって...魔力を流してるんだが?これで転移すればさらに強い敵と戦えるかもしれないんだろ?」
「お前馬鹿か?どこに転移するかもわからないんだぞ?最悪、トラップの可能性もある」
勇者がその事実に気づき、慌てて魔力を流すのをやめるも時すでに遅し。
魔法陣は起動していた。
魔法陣の周りにいた者たちが全員光に包まれ、光が収まる頃には誰もいなかった。
◇◇◇◇◇
「んで馬鹿勇者。この状況、どうするつもりだ?」
「...見た感じ、ここは90階層のボス部屋」
「90階層って...ベヒモスとかヒュドラですよね?」
一面真っ白な部屋に転移させられた俺たちと勇者一行。
そこは90階層のボス部屋であるらしかった。
「ブルルォアァァァァァァァァァ!!!」
「やっぱり、ベヒモスだよなぁ...」
安定の如く出現したベヒモスにやれやれと首を振るハルト。
そしてベヒモスを見て固まる勇者一行。
「ま、まずい!全員退避しろ!」
ベヒモスを見た勇者が退避するように指示を出すが...。
「退避ってどこに退避するんだよ。ここ、ボス部屋だぜ?出口なんてねぇよ」
「な...!?く、くそ!どうすれば....」
さすがに俺たちもここから出なきゃいけないので今回は仕方なく手を貸すことにする。
これで戻れるとは限らないがな。
「...はぁ。仕方ないから今回だけは手を貸しておく。だが勘違いするなよ?これは貸しだ。必ず後で返せ」
俺はベヒモスに露骨に駆け出し、ライ〇セーバーを一閃。
牙が2本とも切られ、痛みで咆哮を上げるベヒモス。
そんなベヒモスの口の中に前と同じく手榴弾を数十個入れ、アッパーカット放ち口を閉じさせる。
ベヒモスの喉は手榴弾によって焼け、下あごが無くなるベヒモス。
俺はアイテムボックスからナパーム弾を取り出し、シリンダーにいれる。
「汚物は消毒じゃァァ!」
世紀末なセリフを吐きながらわざとゆっくりと発砲するハルト。
着弾した弾丸は一斉に発火し、ベヒモスを火だるまに変えていく。
熱さで暴れまわるベヒモスだが、次第に抵抗はなくなり、後に残ったのは燃えカスと骨だけだった。
「す、すげぇ...」
「圧倒的だったね...」
それぞれ感慨の声を漏らす勇者一行。
直後、ゴゴゴゴゴ!!という音と共にドアが開く。
だがそのドアは次の階層に行くドアしか開かなかった。
「...行くしかない、か」
「そうみたいだね...」
「肝を括るしかないわね」
「おっしゃ!気合い入れてけよお前ら!」
それぞれが扉の奥に潜っていく。
そしてその先に待っていたのは――。
――銀色の翼を生やした天使だった。
◇◇◇◇◇
「おい!そっちに行ったぞ!」
パイソンを遠慮なく発砲させながら勇者たちに指示を出す。
絶賛交戦中だ。
この天使たちは天族というらしく、神に作られた人形だとかなんとか。
この情報は先ほど得たものだ。
翼を撃ち抜いて落下させた天族の一人をごうも...尋問して集めた。
んで、その神ってのがフェルニたちが言ってた女神らしく、名は"ミルクーレ"というらしい。
神に作られた人形ということはあって、しっかり五感もあるらしい。
顔は全員同じで、銀髪に整った顔立ち、両手に3mぐらいある大剣を持って戦っている。
そして何より厄介なのはこいつのスキルだ。
こいつのスキルは【解体】というらしく、触れたものを片っ端から壊していく防御にも攻撃にも使えるぶっ壊れスキルだ。
この神の人形どもを殺すにはスキルを上回る攻撃力で攻撃するか、防御される前に殺すかしかないようだ。
こちらは死者こそは出てないものの、騎士団のほうは既に戦える状況ではない。
「神の裁きを。死になさい、反逆者」
そして先ほどからこのようなことを言いながら俺を中心に攻撃してくるので厄介この上ない。
俺は突っ込んでくる敵をライ〇セーバーでぶった切るか至近距離でパイソンをぶっ放すかライフルで狙撃するかで倒している。
手榴弾は威力不足なのだ。
俺の眷属たちも出しているが、3体でようやく神の人形を1人相手どれるぐらいなので状況はあまりよろしくない。
神魔法を使えば楽なのだが、どこまで通用するのかわからないし、何よりこれを見られたら人形どもに何をされるかわからない。
ドパァン!!
1発分の銃声で16発飛んで行く弾丸。
それらは神の人形の眉間を正確にとらえており、さすがに神の人形といえども雷は避けれないのか全員頭を撃ち抜かれて死んでいく。
ガガガガガッ!!という音と共にガトリング砲が炸裂する。
銃声が鳴るたびに神の人形は一体、また一体と数を減らしていく。
残りは30体ほどだろうか。
俺は無人特攻機を15機ほど出して特攻させる。
それぞれがミサイルを放った後に特攻し、猛烈な爆発音を響かせる。
神の人形もそれには耐えられないらしく、一気に数を減らしていく。
残り5体ほどという所で、人形たちの動きが変わる。
まるで何かを敬うかのように跪き、胸の前で両手を握る。
すると上から神々しいまでの光が降り注ぎ、一人の女性が降りてくる。
「私の名は大天使ミカエル。主神ミルクーレ様の命により、反逆者を断罪する」
俺に目を向けながら淡々とそう言うミカエル。
「大天使ミカエルが命ずる。【断罪せよ】」
ミカエルがそういうと、無数の魔法陣から神の人形が次々と出てくる。
これはたぶん神魔法だな。天使であるミカエルが使えるということは神に近い立場にいるのか?
こっちもそろそろ全力でやらなきゃまずいみたいだな...。
俺は無詠唱で【神罰】を発動し、ここにいる神の人形が全員爆散するように設定する。
「【神罰】」
待機状態を解除すると、召喚された人形が次々と爆散していく、跡形も残さず消えてしまう。
「なっ?!その魔法はまさか...?!」
次々と爆散していく人形どもに目を見開くミカエル。
相手が神魔法を使ってくるとは思わなかったのだろう。
「ミルクーレ様が貴様を危険視するのも頷けるわけか。貴様はミルクーレ様に害を与える存在と認識する。これより断罪を開始する」
人形どもをいくら召喚しても無駄だと思ったのか、今度はミカエル自身が攻撃してくる。
大天使の名にふさわしく、速度も攻撃力も防御力もかなりのものだ。
だが、それでも死神には届かない。
ミカエルの攻撃をハルトはヒョイヒョイと躱し、時に反撃をする。
ハルトは普段から身体強化をしているが、それでも微弱なものだ。
それほどの強化で人形どもを殲滅していたのだから、人形より少し強い程度の天使など、ハルトからすればどんぐりの背比べほどにしかならない。
今でさえ身体強化分の魔力の出力を抑えてる状態なのだ。
本気を出したらこの天使など相手にすらならない。
「そろそろ実力差はわかったか?そのミルクーレとか言うやつの情報を吐け」
「貴様のような輩に吐く情報などない!我はミルクーレ様と共に...」
ミカエルの胸のあたりが淡く光りだす。
あ、これ自爆だな。
俺は自爆されると困るので容赦なくミカエルの胸に手を突っ込む。
そしてそのまま光ってる部分を抉り出す。
「ゲハァ?!」
「なるほど、これが天使の核みたいなものか。魔物の核よりでかいし、色が違うな」
俺は水色の丸い天使の核を見ながらひとり感想を呟く。
「そ、そんな...天使の核はそんな簡単に取れるわけがないのに...?!」
「あ、お前情報は言わないから用済みな。この核は有効活用させてもらうわ」
「...申し訳ありません。ミルクーレ様――」
すべてを言い終わる前に物言わぬ人形となってしまったミカエル。
そんなミカエルを見もせずに核をまじまじと見つめる。
これをパイソンと融合させたらどうなるのだろうか...。
神魔法を付与した状態になるのだろうか?
神魔法をパイソンに付与すると触媒の問題で何も起こらなかったがこれを使えばできる可能性があるな。
これはダンジョンから戻ったらまた研究しなければ...。
 




