ダンジョン、そしてライ〇セーバー
「ここが52階層か。やっぱり今までの階層と変わらないんだな」
「...ん。ダンジョンは基本同じ構成で出来ている」
「でもなんだか飽きますよね~。魔物もそこまで強くないですし」
「リディアちゃんたちが以上過ぎるだけだよ...」
「まったくもってその通りだわ...」
「てかなんでお前たちはついてきてるんだよ」
「し、仕方ないだろ!行く方向が同じなんだからよ!」
「てかハルト、俺にも魔物回してくれねぇか?」
俺達はなぜか勇者たちと共に行動している。
行く方向が同じなら仕方ないと思うけどな。
「いや、魔物が狩りたいなら前に来ればいいだろ」
「いやでもよぉ...前に出てもお前たちがどんどん殺してくじゃねぇかよ」
「そうだぞ。特にハルト、お前の殺し方はどうにかならんのか。クラスの女子が地味におびえてるじゃないか」
ハルトは魔物が寄ってくるたびに顔面を掴んで頭を潰しているのだ。
風魔術を使っているのでハルトに返り血がかかることはない。
そしてその光景を見た魔物たちが一瞬ハルトに怯んだような気がするのだが、それは気のせいじゃないだろう。
だって殺すたびに笑ってるんだから。
「はぁ?じゃああれか?わざわざ近寄ってくる魔物に至近距離からパイソンをぶっ放せってか?」
「いや、そういうわけじゃないが...剣とか使わないのか?」
「スキルは一応持ってはいるが、俺が作った武器をわざわざこの程度の雑魚に使いたくない」
「なんだよその職人魂みたいなのは...」
これはこだわりなのだ。
別に使っても構わないだろ、とか思っている人もいると思うが錬成師になってみればわかるようになる。
「雪乃、悪いがハルトに予備の剣を貸してやれないか?」
「わかったわ。正直魔物の頭が潰される光景を至近距離で見たくはないものね」
雪乃はハルトに予備の剣を受け取る。
予備の剣は片手剣であり、勇者が使うのだからそれなりの値が張るものだ。
「悪いな。んじゃあ早速試し切りだ」
ハルトはその辺にいる魔物に近寄り、露骨に剣を振り上げる。
魔物はその隙を突こうとしたが、ハルトが振り下ろした剣は優に音速を越えており、普通じゃ鳴らない風切り音と共に魔物が真っ二つになる。
それと同時に風圧に耐えられなかった剣が、パリン!と音を立て折れてしまった。
折れた剣を見つめるハルト。
そしてその剣を後ろから近づいていた魔物にぶっさす。
魔物は悲鳴を上げながら真っ二つに折れた剣を抜こうとしているが、余程奥まで差し込まれたのか暫く暴れまわった後に動かなくなった。
「やっぱだめだわ」
「...魔物が可愛そうに思えたよ」
「ハルトに剣を持たせるならミスリル製じゃねぇとだめだよなぁ...」
しみじみとした感想を呟く和希と甚太。
そしてどこか遠い眼をしている雪乃。
それを何を思ってるのかわからない無機質な眼で見るリディア、ティア、香織の三人。
ダンジョン内とは思えないほどシュールな光景ができていたのであった。
◇◇◇◇◇
「ここが53階層への階段だ。騎士団の皆さんも気を付けてください」
「「「「はっ!」」」」
勇者である和希が皆に注意を促す。
「和希~!田中がいねぇぞ!」
クラスメイトの一人が田中と呼ばれた人物がいないことを指摘する。
だがリディア、ティア、騎士団の人たちを除く者たちは「ああ、またか」という顔をする。
この田中と呼ばれた人物のフルネームは"田中 彰人"という。
彼は地球にいたころから影が薄く、この世界に来たことがあるものなら、「こいつ、気配遮断使ってんのか?クラスは暗殺者なのか?」などと思うだろう。
実際、クラスメイトの話だと田中のクラスは暗殺者であり、標準スキルの気配遮断の上位スキル、"隠蔽"が最初からレベル10の状態だったらしい。
しかもそのスキルはなぜかたまに無意識に発動することがあり、クラスメイトが見失うことがある。
全員がキョロキョロと辺りを見回す。
だが田中の姿はない。
「死んだか...」
クラスメイトの誰かが呟く。
皆が重苦しい表情になる。
「死んでねぇよ?!」
と、一つの抗議の声が上がる。
この声は...。
「田中だ!田中は生きてたぞ!」
和希が喜びの声を上げる。
クラスメイトもその声に喜びの表情を顕にする。
「おい田中!どこ行ってたんだよ!」
「俺ずっと甚太の隣にいたよな?ちゃんと声もかけたんだぞ?!」
「えっ、そうなのか?全然気づかなかった」
「俺、そんな影薄いのかなぁ...」
沈痛な表情になり項垂れる田中。
そしてだんだん影が薄くなり...。
「おい!また田中が消えたぞ!」
53階層に進むのは1時間後のことだった。
◇◇◇◇◇
「全員連携をとれ!魔法士たちは詠唱を開始しろ!」
53階層のとある通路で勇者たちが戦闘を行っていた。
相手はミノタウロスよりも二回りほど大きい牛――ギガントミノタウロスと呼ばれるものだ。
武器は手斧ではなく、3mほどある大剣を使っている。
「今だ!魔法士たちは魔法を放て!」
ギガントミノタウロスが足を切られて跪いたところに勇者が魔法を放つように指示を出す。
魔法士たちは待機させておいたファイヤーランスやアイスニードル、スモールエクスプロージョンを放つ。
どれも中級や上級の魔法だ。
ここら辺はさすが勇者と言えるが、たかがでかい牛に消費の激しい魔法を使うのはちょっとなぁ...。
リディアとティアならもっと効率よく殺せるだろう。
次出てきたときにはやらせてもらうか。
魔法を滅多打ちにされたギガントミノタウロスは最後の足掻きとばかりに大剣を振り上げるが、振り下ろす前に田中に首筋を切られて地面に崩れ落ちた。
「やった!やったぞ!」
自分たちよりもわずかに実力が上な相手を倒したことにより歓喜の声を上げる騎士団と勇者たち。
これくらいの相手なら勇者一人でも倒せると思うんだが...。
少し一休みしようとしたところで騎士団の者が声を上げる。
「前方!ギガントミノタウロスが接近!数は3!」
おう、なんとも都合がいいな。
ここはやらせてもらうか。
「リディア、ティア」
「...ん、私は右端をもらう」
「じゃあ私は左端ですね!」
「俺は真ん中だな。それぞれ最短で終わらせるぞ」
「「は~い!」」
敵が近づいてくるとは思えないほど呑気な返事を上げ、まずリディアが駆け出す。
それを見た和希が、
「リディアさん!危険です!」
などと言って行こうとしていたが、俺はその和希を「まあ待て」と言いながら手で制す。
「ハルト!お前は恋人を見殺しにするのか?!」
「だから落ち着けって。大体リディアがあの程度の魔物に負けると思うのか?」
「それはわからないだろ!それにリディアさんは女の子なんだ!力でも劣るはず...じゃ?」
「ほら見ろ。だから言っただろ」
リディアは召喚魔法でシャドウウルフを召喚し、それぞれに足止めをするように指示をする。
シャドウウルフたちは一斉に駆け出し、それぞれがギガントミノタウロスの足、腕などに噛みつく。
それによってわずかに隙を見せるギガントミノタウロス。
その隙をリディアが見逃すはずもなく、一瞬で接近するとデスサイズを一閃する。
一瞬にして首を落とされたギガントミノタウロスは膝から崩れ落ち、動かなくなる。
「なぁっ?!あのギガントミノタウロスを一人で?!それも一瞬のうちに...」
自分たちが集団で倒した相手が一瞬のうちに殺されたという事実に目を見開く和希。
その光景を見ていた騎士団の人やクラスメイトも同様に目を見開く。
「じゃあ次は私ですね!行きますぅ!」
アイテムボックスから大剣を出し、走り出す。
そしてギガントミノタウロスの腕、脚を切り落とし、次に首を切り落とす。
ブシャァァァァァ、と血を吹き出しながら倒れるギガントミノタウロス。
またもや圧倒的な戦闘に目を見開く勇者たちと騎士団。
そして最後は俺なのだが...。
「これはやりたいことができるチャンスだな。今こそ男のロマンを達成するとき!」
俺は鉱物生成でミスリルを作り出し、細長い筒状の物体を作り出し、それに魔力を流す。
魔力を流すと同時に、ブオォン、という音を立て出現するバチバチと発光する1柱の光。
そう、これは"ライ〇セーバー"である。
何度か素振りをするとブオォン!ブオォン!と特有の音を発しながら光の残像を残す。
完全にライ〇セーバーだ。
ギガントミノタウロスが振り上げた腕に一閃。
ブオォン、という音と共に切り落とされる腕。
傷口はバチバチと雷が残っており、切られたときに雷を流したので硬直したまま動かないギガントミノタウロス。
俺はそのまま首に狙いを定め、セーバーを一閃する。
「やっぱりいいなぁ、この武器。切れないものとかないんじゃないの?」
光の柱を収めながら一人感慨の声を漏らすハルト。
そのハルトを遠い眼で見つめる勇者たち。
リディアとティアはハルトの戦闘を見て、「...さすがハルト。すごい」「さっすがハルトさんですぅ!圧倒的ですぅ!この世界の住民にできないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるぅ!」と、ティアに関してどこで知ったんだ、というようなセリフを言っている。
「....うぼぁ」
変な悲鳴がこの通路に無駄に木霊したのだった。
そして無事に54階層の階段を見つけ、順調に進んでいく勇者一行とハルトたち。
もうハルトたちの奇行に誰も何も言わなくなっていた。
慣れたのか、気にしないことにしたのか....真相は謎である。
ハルトが切れたらどうなるか気になりますよね?
え?もう何度も切れてるって?あんなのは切れてるに入りませんよ(暴論)




