新しい国、そしてリディアとティアのレベルアップ1
「そういえば、どうして帝国の王子と俺が話してた時に笑ってたんだ?」
「...それは..」
「その..」
「えーっと...」
「な、なんだよ...。怒らないから言ってみろって」
「...正直、ハルトが敬語を話すとは思わなかった」
「あれは意外でしたねぇ...」
「あなたが敬語で人と接するところって初めて見た気がして...」
「...あー、確かにこの世界では敬語なんて使ってなかったな...」
異世界に来てから本当に性格が変わったもんだ。
日本では目つきが悪いってだけで職質とかされてたし、たまにキョドってたからなぁ...。
この世界で魔法を使えるようになったり、身体能力が上がって浮かれてるのか、今までの鬱憤を晴らせているのか...。
日本に帰れたときはしっかりと日本人として敬語を使わなきゃな...。
「ん?あれ、襲われてないか?」
スクリーンに目を向けると、そこには1台の馬車とそれを囲んで守るように立っている冒険者、そして対立している盗賊らしき者たち。
「...災難だった」
「かわいそうですが、私たちには関係ないことですし」
「お前ら、結構辛辣なんだな」
まったく、誰の影響を受けたんだか...。
...俺じゃないよな?
「お、盗賊が逃げてくぞ。どうかしたのか?」
「...ハルト、あれ、ドラゴン?」
「お、マジだ。どうする?」
「お肉!またお肉食べたいですぅ!」
「竜のお肉!?私も食べたいわ!」
「あらあら、私も料理してみたいわぁ」
「ルリィも食べてみたいの!おいしそうなの!」
「あの竜、馬車の近くに降りたな...倒される前に狩ってくるか。少し待っとけよ」
「いってらっしゃいなの!」
「おう」
飛空艇をホバリングモードにし、ハッチを開けパラシュートも無しに飛び降りる。
普通なら死ぬが、強化魔法でいろいろ強化してるので大丈夫だ。
ドラゴンの前に着陸できるように風魔術を使いながら調整する。
てか馬車もさっさと逃げないのかよ。
あ、馬が怪我してるのか。本当に災難だな。
残り100mほどって所で護衛の冒険者が何かが接近するのに気が付き上を向く。
そこには不敵な笑みを浮かべパイソンを構えてるハルトがいた。
スタッ...とまではさすがにいかなかったが、ドン!という音と共に着地できた。
着地の練習しないとだめだな...。
侵入したときにこの音が出たら気づかれちまう。
「だ、誰だ?!」
「はいはいテンプレテンプレ...」
テンプレにウンザリしながらドラゴンの頭に向けてパイソンを構える。
前にあった竜はかなり硬かったのでレールガンモードで応戦することにする。
別にエリクサーが作りたいわけじゃないし、内臓だけなら無駄に余ってるからな。
ほしいのは消耗が激しい肉だけだ。
ドパパパァン!
飛んだ銃弾は3発。
そのすべてが同じ場所を綺麗に直撃しており、竜はあまりの衝撃に倒れる。
あれ?なんか前のよりも固くない?最近竜に会うたびどんどん強くなってってない?
そんな疑問を抱きながらも倒れている竜の喉にハルト製の刀を差し込み、切る。
竜の首はいとも簡単に切れ、切断面からは血がとめどなく溢れている。
このまましばらく放置して血抜きだ。
てか刀のほうが強くないか...?
これは暇があるうちに弾丸とパイソンの強化をしないとだな...。
竜の血抜きを待ちながらパイソン強化計画を練っていくハルト。
そのハルトをちらちら見ながら話しかけたそうな商人風の男。
体系は若干太っており、商人っぽい服を着ている。
別に興味ないので、無視してパイソン強化計画を練る。
暫くしていると、竜の血抜きが終わったようだ。
俺はそれをアイテムボックスに入れ、飛空艇に戻ろうと足に力を込める。
「ま、待ってくれ!」
先ほどの商人風の男に声をかけられたので、一瞬だけ振り向く。
「名前を聞かせてほしい!それと少しばかり取引をしないか?こう見えても大商会の会長で...」
「断る。俺には竜の肉を今か今かと待っている娘とバグネコがいるんだ」
一瞬「何を言ってるんだ?」という顔になった男。だが俺の足に力が籠められるのを見て慌てて引き留める。
「ま、待ってくれ!道中の護衛を頼みたいんだ!報酬は弾もう!」
「護衛ならそっちにいるじゃないか。俺は忙しいんだ」
「な、ならできる限りの願いを聞くのはどうだ?金も名誉も女も手に入る!」
「はぁ...聞こえなかったのか?俺には娘が待ってるんだよ」
人の話聞けよ、と思いながら飛び上がる。
一瞬にして姿が見えなくなる商人風の男。
そして俺は上空にホバリングさせてある飛空艇に乗り込み、ハッチから中に入る。
「...おかえり」
「おかえりですぅ!」
「おかえりなさい!」
「おかえりなさいませ」
「あなた、おかえりなさい」
「おかえりなの~!」
それぞれから出迎えの言葉を頂きながら椅子に座る俺。
「ああ、ただいま。今日の夜ご飯は竜のから揚げだぞ」
「「「「「「やったぁ!」」」」」」
みんな、本当にから揚げが好きなんだな...。
その日の夜ご飯は約束通りから揚げにし、それぞれの部屋で眠ることにした。
飛空艇の中はトイレ、風呂完備なのでそこら辺の高級宿より過ごし心地がいい。
ベットはフェルニの抜け毛を使っており、めっちゃふわっふわだ。
リディアと一緒にルリィ以外の女性陣が夜這いしに来たりしたが、全員追い払って何とか眠りにつくことができた。
◇◇◇◇◇
「着いたぞ」
俺達が向かっていたのは帝国から200㎞程隣の国、"ウィズヘルト"に来ていた。
その国は冒険者業が盛んで、住人の6割が冒険者をやってるほどだ。
なぜ冒険者業が盛んなのかというと、この国の近くには魔物がたくさん出る森があるからだ。
劣化版魔の森という感じだろう。
「さて、ここからは俺一人で用事があるからお前らは適当に楽しんで来い。3日後に迎えに来る」
白金貨が10枚ほど入った袋をリディアに渡しながら言う。
だがリディアたちは泣きそうな顔をしている。
「...嫌われた?」
「ご主人様...どうか見捨てないで...」
「私、いい子にしますから捨てないでくださいぃ...」
「うぇ..ぐすっ...」
「あなた...」
「パパ...どこか行っちゃうの?」
なんか物凄い罪悪感だ。
でも別に見捨てたりするわけじゃない。
「泣くな泣くな。別に見捨てたりもしねぇし嫌いもしねぇよ。ただ装備を強化するのに少しばかり時間が必要でな...」
「...そういうことなら安心」
「よかった...」
「安心したですぅ...」
「よかったわ...」
「私、もうだめかと...」
「パパ、早く帰ってきてね!」
「おうよ。ちゃんと3日後に迎えに来てやる。その間は適当に宿でも借りてくれ」
◇◇◇◇◇
【リディア】
ハルトと別れて数時間がたった。
私たちは今、この国一番といわれる宿に来ている。
宿泊料は1泊金貨1枚とかなり高いが、安全に過ごせるなら出し惜しみしない。
「ティア、少し提案がある」
椅子に座りながらティアを呼ぶ。
「どうしたんですか?リディアさん」
「...ハルトは装備を強化するといっていた」
「?ええ」
「...ハルトは今のままでも十分、というか十分すぎるほど強い」
「そうですね」
質問の意図が分からないと言わんばかりに頭に?マークを浮かべるティア。
「...つまり、装備を強化したら今よりすごく強くなってしまう」
「...はっ!まさか!?」
「...私たちが足手まといになるかもしれない」
「た、確かに...」
絶望した顔で頷くティア。
「...足手まといになるわけにはいかない。だからギルドで魔物討伐依頼を受けてレベルを上げようと思う。幸い、私はAランクでそこそこ強い魔物の依頼も受けれる」
「いいですねそれ!早速行きましょう!」
「...ん。ドーラ、悪いけどレミアたちの護衛をよろしく」
「ええ。気を付けてくださいね」
「...ん」
宿を出て早速冒険者ギルドに向かうリディアとティア。
リディアの背中には愛用の鎌、【デスサイズ】を背負い、ティアは背中に2mほどの大剣を背負っている。
見た目は世界でもトップレベルなのだが、二人とも持ってるものが物騒すぎて誰も声をかけようとしない。
精々、遠目でチラチラ見るくらいだ。
リディアとティアにとっては声を掛けてくる馬鹿が消えたことでかなり楽に感じていた。
「...着いた。相変わらず大きい」
「ですねぇ...。でも帝国ほどでもないですね。精々王国と同じぐらいでしょうか?」
「...ん。早速入る」
入り口でたむろしてても意味がないので、中に入ることにする。
扉を開けると一斉に中にいる冒険者から視線が集まる。
最初はリディアたちの美貌に見惚れていたが、背中にある得物を見て頬を引き攣らせる。
そんな視線を気にもせずに受付に向かうリディアとティア。
「...なにか手頃な依頼を探してほしい。最低でもAランクレベルの」
「かしこまりました。ですが依頼はその方のランクを基準に選ぶものです。Aランクほどの依頼を受けるとなると最低でもBランクではないと受注できません」
「...これでいい?」
金色に輝くAランク冒険者の証を見せる。
勿論、受付だけに見えるようにだ。
「!...かしこまりました。少々お待ちください」
僅かに驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻る受付。
さすがプロだ、と言いたいところだ。
暫くすると、いくつかの依頼書を持って戻ってきた。
依頼の内容はグリフォンの群れ討伐、オーガの村の壊滅、貴族の護衛、竜の巣捜査などだ。
この中で受けてもいいと思えるのは、グリフォンの群れ討伐、オーガの村壊滅だけだ。
竜の巣など興味ないし、貴族の護衛など面倒事しか呼ばなそうだから受けたくない。
ティアとの相談の結果、受けた依頼は...。
「...グリフォンの群れ討伐を受けたい」
「かしこまりました。そちらのお方は?」
「...私の連れ。ランクはCだけど実力はBランク上位ぐらいはある」
「あなたが言うならばそうなのでしょう。了解です。2人分受注しますね。依頼の内容がこの奥の会議室で説明されますので、そちらでお待ちください」
「...わかった」
言われた通り、会議室に向かう。
中に入ると即に数個のパーティが来ているようだ。
リディアとティアはパーティ登録はしてないけど問題ないだろう。
「やぁ。君たちも依頼を受けるのかい?」
そう声を掛けてきたのは会議室にいるパーティの一つ、男2人組のパーティだ。
2人とも、一般的にはイケメンに入る顔立ちなのだが、リディアたちには眼中にない。
彼女たちが思うのはただ一人、ハルトだけなのだ。
「...ええ」
「そうなのか。それにしても少女2人でこの依頼を受けるなんて、なかなかの手慣れのようだね。よかったら、依頼の間だけでもパーティを組まないかい?」
一瞬、断ろうとしたが、ほかのAランク冒険者がどういう風に戦うのか気になったので、嫌な気持ちを抑えながら返答する。
「...依頼の間だけなら構わない」
「そうか、それはよかった。できれば連絡を取りやすいようにしたいから、泊ってる宿を教えてくれないか?僕たちもそこに移動するよ」
完全に下心丸出しだが、襲われるつもりも襲われても負けると思わないリディアは、素直に泊ってる宿の名前を言う。
「...朧月の夜、という宿」
「お、朧月の夜かい。わかった、ありがとう」
最後まで笑顔を崩さなかったが僅かに頬を引き攣らせている。
さすがにいくらAランクでも2人の少女がこの国で1番高い宿に泊まってるとは思わなかったのだろう。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は【ドラゴン・ファング】のリーダー、ステラだ。こっちがメンバーのディーラだ」
「...私はリディア」
「ティアですぅ」
「綺麗な名前だね。君たちにぴったりだ」
口説いてるつもりなのだろうか...?
ハルトならもっと嬉しいことを言ってくれる。
「全員そろったか?これからグリフォンの群れ討伐の内容を説明するぞ」
会議室に入ってきた職員が説明を始めるというので、適当な席に座る。
なぜか当たり前のように、私の隣にステラ、ティアの隣にディーラが座っていた。
「今回の群れは森の中にある山岳地帯で発見された。数は約30。山岳地帯までの移動時間は馬車を使って3時間ほどだ」
「30、か...」
職員の言葉に苦虫を潰したような顔をするステラ。
グリフォンは旅の途中で何度か戦ったが、私でも数秒で倒せるような相手だったから、なぜそのような顔をするのかわからない。
「Aランク冒険者でも苦戦する数だな...。最悪、死亡者が出るかもしれない」
...え?
グリフォン如きに死亡者...?
あり得ない。私でも竜レベルの相手じゃないと死なないのに...。
「今回の依頼は危険が伴う。報酬は一人金貨3枚だ!」
「「「おお!」」」
私とティア以外の冒険者が喜びの声を上げる。
確かに一人金貨3枚は破格の報酬だろう。
「移動は今から1時間後だ。各自、準備しておくように!解散!」
今から1時間後、か。
その前にハルトに会いに行こうかな。
「リディアたちはこの後どうするんだい?」
「...会いたい人がいるからその人に会いに行く」
「へ、へぇ」
「ティアはどうするんだ?」
ディーラって人、しゃべったんだ。
「私もリディアさんと同じ人に会いに行きますぅ」
ティアもやっぱり会いたいようだ。
多分今日は野営になると思うから、その前にハルトに会っておきたいもんね。
「そ、そうなのか」
◇◇◇◇◇
「ハルト、いる?」
私は今ハルトの飛空艇に来ている。
町の近くに止めてあるが特殊な魔法がかかっているらしく、私たち以外に見ることはできないそうだ。
「ん、おお。どうしたんだ?」
「1日ほど町から離れるからハルトに会っておきたくて」
「私もですぅ...えへへ」
「そうか。っと、そうだ。これを持っていけ」
ハルトは懐から赤い宝石がはまった指輪を差し出す。
「...これは?」
「これはアイテムボックスの魔法を付与した"疑似アイテムボックス"だ。今まで作ろうと思ってたのを今作ってな。容量は俺が調整したからほぼ無限に入るぞ」
「...ハルト、ありがと」
「はわわ、うれしいですけどばれたら面倒くさいことになりそうですぅ」
「中には手榴弾が10個と俺の手作りの食事、果実水が入ってるからな。収納、と念じれば手に持ったものがそのアイテムボックスに入る。逆に、リスト、と念じれば収納した奴のリストが頭の中に浮かんでくるからその中から選べば出てくるぞ」
とても使い勝手がいいアイテムボックスのようだ。
それに指輪型のようだし、とてもうれしい。
「...ハルト、嵌めてほしい」
「わ、私もお願いしますぅ!」
「はいよ。でも左手の薬指には嵌めないぞ?その時が来たらもっと精巧な指輪を一人一人手作りするからな」
そういいながら右手の人差し指にはめるハルト。
んっ。少しくすぐったい。
「...ありがと」
「ありがとうございますぅ!」
「おう。気を付けて行って来いよ。あとピンチになったらこの指輪を握って強く念じてみろ」
ハルトにもらったアイテムボックスにデスサイズを収納する。
ティアも同じように大剣――"ルークテンズ"を収納する。
「行きましょう!リディアさん!」
「...ん!」
◇◇◇◇◇
「全員揃ったな!これより出発する!」
職員の代わりに指揮を任された冒険者――【ガーディアンズ】のパーティリーダー、"デイル"が指揮を執る。
町を出て1時間ほどで町はもう見えなくなり、代わりに巨大な森の入り口が見えてくる。
「あと2時間ほどだ!気を引き締めておけ!」
デイルの声が響く。
冒険者たちは自分の武器を確認したり、手当て用の包帯などを確認してる。
「リディアたちは武器の手入れをしないのか?会議室にいたときは武器を持ってたと思うんだけど」
「...武器ならある。ほら」
そういってアイテムボックスからデスサイズを取り出す。
ステラとディーラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
「なるほど、空間魔法持ちなのかい?いいね」
「あ、私たちは空間魔法なんて持ってませんよ」
「ではなぜティアたちがアイテムボックスを使えるんだ?」
「...今日会いに行った人に作って貰った」
「こ、このアイテムボックスを作ったのかい?」
「はい!」
「そ、そうなのか...でももし奪われたらどうなるんだい?」
「...奪ったものが一瞬でミンチになる」
「「は?」」
驚きを隠せないディーラとステラ。
「私たちから奪って指輪をはめると一瞬でミンチになりますぅ。嵌めなくても50m以上離れたら自動でミンチになりますよ!」
すべてはハルトが仕組んだ機能のせいである。
リディアたちの魔力をあらかじめ登録し、それ以外の魔力が触れたり、指にはまったりすると自動で風魔術の【ミキサー】が発動される仕組みだ。
【ミキサー】は鋭い...鋭すぎる風がその者の体全体を覆った状態で高速回転するまさにミキサーな魔術だ。
それ魔術を50m以上離れた際にも自動で発動されるようにしてる。
「...だから盗もうとか考えないほうがいい。死にたくないならね」
「「...」」
思わず沈黙するステラとディーラ。
「そろそろつくぞ!全員構えろ!」
デイルの言葉でハッとなるステラとディーラ。
そしてリディアの顔を見た後に、
「依頼後、話があるからできればギルドで待っていてほしい」
という。
リディアもティアもなぜそういわれたのか分からず、ポカンとする。
だがすぐに思考を切り替える。
さぁ、グリフォンの群れまであと少しだ。
1話で竜のことをドラゴンと書いてますが、これからは基本的に竜と呼ぶことにします。
たまに間違えてドラゴンと書いてしまうかもしれませんがそれは見逃してください…。




