猫人族、そして脳内改造
ジュワァ...ジュワァ...。
ハルトが肉を焼く音が辺りに響く。
絶賛料理中だ。
え、なに?こんな時は普通"パチ...パチ..."だって?そんなテンプレは通じんよ。
なんたって彼は魔術師兼錬成師兼召喚士なのだから。
錬成師のクラスを運よく獲得したハルトはどこでも簡易的な家を作ることができ、コンロなんて簡単に作れるのであった。
今回建てた家は普通の一軒家で、部屋は2部屋、風呂完備、リビングあり、キッチンありだ。
リビングでアイテムボックスにあったソファに先ほどの猫耳少女を寝かせている。
「んぅ...んむぅ...」
「おっ、目が覚めたか?」
「んぅ..だれぇ?」
目と目が合う俺と猫耳少女。
「ひやぁぁぁぁぁ?!食べないでぇ!」
「食べねぇよ?!」
なんかいろいろ説得が必要なようである。
◇◇◇◇◇
「とりあえずこれでも食え」
俺が差し出したのは竜の肉のステーキだ。
白パン付き。
黒パンはめっちゃ硬いからなぁ...。
「あの、このお肉は...?」
「安心しろ。ちゃんと動物の肉だ(と言っても竜の肉だけど)」
「た、食べてもいいですか...?」
「いいぞ。ゆっくり食えよ」
「は、はい!」
改めて猫耳少女を見る。
髪の毛は明るい茶色で腰のあたりまで伸ばし、スラリとした美脚。
頭には猫耳が生えており、時節ピョコピョコとしている。
腰には同じく明るい茶色のしっぽがふ~りふ~りと揺れている。
なんともかわいらしい。
顔も美少女と言っても差し支えないほど整っている。
「なぁ、お前今何歳だ?」
「んくんく...ゴクン...15歳です」
まさかの1個下。
もう少し幼いかと思ってた....。
「ふぅん...なんで帝国兵に追い詰められていたんだ?」
ピタッと猫耳少女の動きが止まる。
「...その、ですね。猫人族の里がこの辺にあったんですけど、帝国兵の襲撃で追われてしまいまして...」
「そうなのかぁ...あぁ、だからあそこで野営してたんだな。んで、お前の家族は?」
「この渓谷の奥のほうにある洞窟の中で今は待っているはずです」
「なるほどねぇ...」
「あの、これちなみに何のお肉なんですか?」
「竜だぞ」
「へっ?」
「竜」
「...えぇぇぇぇぇぇ!?」
「なんだよ。そんなに驚くことか?」
「そりゃあ当り前ですよ!だって竜ですよ?国一つさえ滅ぼすといわれている!」
「そんなに大したもんじゃないけどなぁ...。竜ってのは生意気だからつい殺したくなるんだよ...」
「"つい"で殺しちゃうんですか...。ふふっ、面白い人ですね」
お?今笑ったな。
「そうか?まぁこれでも魔王とか悪魔とか鬼とか鬼畜とか言われてるからなぁ」
魔王から後半は全部クラスメイトに言われたことだが。
「...いったいなにしたんですか」
「まぁいろいろとな...。自己紹介がまだだったな。俺はハルトだ」
「私はティア・クラルスです」
「クラルス?猫人族にも貴族とかあるのか?」
「違いますよ。我々亜人は名前の後ろに集落の名前を付けるのです」
「へぇ...」
「あと私、これでも村長の娘なんですよ!」
ふふん、と膨らみかけの胸を張るティア。
「へぇ....いろいろ残念そうだけどなぁ」
「ざ、残念って何ですか!」
「そのままの意味だよ」
ムキー、と怒るティアを軽くあしらう。
「そういえば、ここってどこなんです?」
「渓谷の真下だぞ」
「ま、またまたそんな冗談を...」
「冗談じゃないぞ。これでも錬成師のクラスも持ってるからな」
「そ、そうなんですね..."も"?」
「ああ、ほかにも魔術師...お前らのところで言う魔法士だな。それと召喚士のクラスも持ってる」
「...クラス3つ持ちって初めて見ましたよ...」
「俺のクラス教えたんだからお前も教えろよ」
「私ですか?私は戦士ですよ」
「ほぉ。鍛えたらよく育ちそうだな...」
「あと、先祖返りの能力で魔力と固有魔法が使えます」
「...ほぉ?亜人は魔力を持たないと聞いたが?」
「それが一般常識ですね。亜人には稀に魔力を持った状態で生まれる子が生まれるんですよ。その子は魔力と固有魔法というものを持ってるんです」
「ちなみにお前の固有魔法は?」
「私は【未来視】ですね」
「【未来視】ねぇ。じゃあ俺とお前があったのもお前の【未来視】があったからか?」
「いえ、それは偶然です。この【未来視】、能力はいいんですけど膨大な魔力を消費するからあまり使えないんですよねぇ」
「じゃあ魔力を回復するまで使えない欠陥品じゃないのか?」
「いえ、そうでもないんですよ。稀にですが、夢に未来が現れることがあるんですよね。その時は魔力が減らないんですけど...」
「いろいろ奥が深い魔法ってわけね...」
「はい...」
暫しの間、沈黙が流れる。
その間俺はティアの魔法について思案していた。
(未来視...膨大な魔力と引き換えに未来を見ることができる...魔法だからこそできる芸当だよな...)
(これをうまく使えればとてつもない戦力になる...ククク...クズメナとか言う貴族の絶望の表情が浮かぶぜ...)
ククク、と笑い始めるハルト。
(な、なんでこの人笑ってるの?!)
戦慄するティア。
「お前らの仲間はどこにいる?」
「え、だから少し奥に行った洞窟に...」
「詳しい場所は?」
「...さすがにそれは...」
「ほぉ?まぁいい。自分で見つけるからな」
俺はアイテムボックスから出した無人特攻機を取り出す。
そこに少々手を加え、完全な偵察専用機に変更させる。
勿論ホバリング機能と武装は搭載済みだ。
「行ってこい。対象は猫人族だ」
ビュワァァァァァァァ、という音と共にどこかへ飛んで行く無人偵察機。
俺は手元に創り出した【遠見石】という鉱石の塊をスクリーン状に変更させる。
【遠見石】はこの世界で稀にとれる鉱石で、二つの鉱石を同じ魔力で接続し、遠くでも魔力が届く限りもう片方の【遠見石】に映像を映すことができる。
「あ、あの、それは...」
「【遠見石】だが?」
「それって、稀にしか取れない希少金属じゃ...」
「使えるもんは使う。それが俺のモットーだ。...お、見つけたぞ」
「っ!?」
「数は...大体100人弱ってところか?」
「お、お願いします!里の者には手を出さないでください!奴隷なら私だけでも...」
「奴隷になんてしねぇよ。俺の目的に少し協力してもらうだけだ」
「えっ...?それってなんの目的なんです...?」
ニィィ、と口の端を吊り上げるハルト。
「俺の嫁に手を出した馬鹿な貴族がいてなぁ...そいつに絶望ってのを叩きこむんだよ」
その瞳には途轍もない殺意と怒気が宿っている。
それほどまでに許せない相手なのだろうか?と、ティアは思う。
「そ、それと私たちが何に関係してるんですか...?」
「いいか?この世界ではお前らは愛玩動物としか認識されてない」
「っ!」
「高い運動能力はあるのに戦闘力がない。しかも容姿端麗ときた。つまりお前らには性奴隷しか使い道がないと思われている」
「た、確かにそうですが...!」
「そこで、だ。そんな奴らに貴族の私兵を叩き潰されたらどう思う?」
「それは勿論怒り狂う....まさか?」
「察しがいいな。まぁそういうことだ」
「で、でも私たちには戦闘能力なんてないですし...」
「ゼロってわけじゃねぇんだろ?それならいくらでも鍛えようがある。最低、俺のアイテムで武装すれば人間相手なら1秒も持たずに殺せるしな」
「...でも、里の者たちは協力をしないかもしれません」
「そうなったら俺の能力で脳内の思考を少し変えてやるだけだ」
こう、雷魔術でビビッとな。
安心しろ、少し戦闘寄りの思考にするだけだから。
「まぁそういうわけだ。今はもう暗いからさっさと寝るぞ」
「えっ、でも...」
「いいから寝ろ」
「....はい」
◇◇◇◇◇
「早速猫人族の奴らに会いに行くぞ」
「わかりました」
俺はアイテムボックスから魔道4輪駆動車を取り出す。
それに乗り込み、ティアも乗るように促す。
最初は怖がっていたが、走っているうちに慣れたようだ。
今では「すごい!すごいですぅ!」とはしゃぎまわっている。
これがこいつの素の姿なのか?
「あそこだな?あの洞窟」
「そうです!あ!お父さん!」
お父さん!ああ、あのいかつい親父か。
筋肉もかなりついてるようだし鍛えがいがありそうだなぁ...ククク...。
俺はおっさんのそばまで行って車を停車させる。
「ティア!無事か?!」
「大丈夫ですよ!お父さん!」
「よかった...よかった...。それよりもティア、こちらは?」
「ハルトさんです!私が帝国兵に追い詰められていたところを助けてくれたんです!」
こいつがティアの父親ってことは村長だよな。
なら話が早い。
「は、ハルト殿、我が娘を救っていただきありがとうございました...。私はクラルスの長、カルヴェ・クラルスと申します。なんとお礼を申したらいいか...」
「俺の目的は猫人族だからな。殺されそうになってたから助けたまでだ。まぁ礼は受け取るけどな」
「猫人族が目的、とは?もし奴隷にしようものなら...私も足掻かせてもらいますぞ?」
スッと目を細めるカルヴェ。
「安心しろ。別に奴隷なんて興味がない。俺が猫人族を目的にしているのは協力のためだ」
俺はティアに話したことをカルヴェにも話す。
カルヴェは唸りながら聞いていた。
「話は分かりましたが...我ら猫人族は反対させていただきます」
「ほぉ?理由は?」
「確かに人族が憎いのは事実。だがそれで同胞を危険にさらすわけには...」
俺はふむ、と頷いて指をカルヴェに向ける。
カルヴェは僅かに困惑したが、お構いなしに指先から電撃を飛ばす。
「アバッ?!」
「お父さん?!ちょっとハルトさん!何するんですか!?」
「安心しろ。ちょっと思考を変えてやっただけだ」
「全然安心できないんですけど?!お父さん!お父さん!」
カルヴェの肩を掴みガクガクと揺らすティア。
洞窟の中から何事かと猫人族が出てくるが、俺を見ると警戒して遠目から見てるだけになった。
「...ティア、やめんか」
「お父さん!」
「私は大丈夫だ。...ボス、お見苦しいところをお見せしました」
「なに、気にすることではない」
「おお...ありがたき幸せ」
俺の前で片膝をつき首を垂れるカルヴェ。
その姿は王に――いや、ハルトの場合は魔王だが、それに忠誠を誓っている家臣のようだ。
猫人族が一斉に頭の上に「!?」マークを浮かべるが、俺はめんどくさくなったのでティア以外の猫人族に電撃を飛ばす。
そこらかしこから「アバッ?!」という声が聞こえるが、数秒後には元通り?なので安心だ。
「ボス、我らにご慈悲を...」
「ボス、人間を抹殺する許可を...」
「ボス、我らに戦闘力を...」
と、次々と片膝をつき首を垂れる猫人族。
「ハルトさん!何やっちゃってくれてんですかぁ!ほら、ハル君もリナちゃんもアス君も跪かない!」
「何を言ってるんだティア姉!ボスに忠誠を誓うのが我らクラルスの使命だろ!?」
「そうよティア姉!ああ、ボス!今日も素晴らしいです!」
「ティア姉も跪けよ!」
「ハルトさぁん!本当に何してくれてんですかぁぁぁぁぁぁ!」
渓谷の真下にティアの絶叫が木霊する。
いや、俺もここまでなるとは思わなかった。
「いや、そのなんか、悪いな」
「もぉぉぉぉ!!」
◇◇◇◇◇
そこから一週間、びっちりと戦闘訓練をさせた。
それぞれ、っていうか殆どの猫人族は短剣2当流の暗殺者風だったんだけど、ハルがスナイパーライフル、リナがバスターソードの2当流、アスがハンドガン2丁持ちだ。
ハルのスナイパーライフルはm24をモデルとしており、しっかりボルトアクションだ。
コッキングすると空薬莢ももしっかり排出される仕組みなので地味に俺のお気に入りでもある。
スコープには【熱源感知】の魔術がかかっており、常にヒートビジョン状態なので隠れることは不可能だ。
弾丸には限界まで範囲を狭くし、その分威力に振った【炎爆】を付与してあり、当たった瞬間に木端微塵になる鬼畜使用だ。
反動もほとんどないようにできており、マガジンは空間魔法を応用したので50発ほど入る。
リナのバスターソードは勿論俺が作った。
バスターソードの2当流を10歳ぐらいの女の子ができんの?と思ったが、どこにあるのかわからない異様なな筋力で軽々と振り回していた。
1本の剣は柄まで真っ黒な剣で、もう1本は柄まで水色の某オンラインゲーム系主人公を連想させるロマン装備だ。
【強化】の魔法がかけられているのでよほどのことがないと折れることもない。
刀身は俺が限界まで研ぎ澄ましたので、素人が振っても轍の塊なら何の感触まがないまま切れてしまうほどだ。
アスのハンドガンには様々なギミックが搭載されている。
例えばマガジン。
こちらも空間魔法を応用しており、近接戦でも使うだろうから少しばかり容量を多くしといた。
大体100発ぐらい入る。
すごいのはリロードだ。
グリップの横についているボタンを押すと魔法陣が大気中の魔力を吸い込み、そこから空間魔法を使用し一瞬でリロードが完了してしまうのだ。
これを作るのにはなかなか手間取ったなぁ。
弾丸は至近距離で使っても自分に被害がないように、側面に溝を作り、当たった瞬間抉り取れる仕様にした。
付与された効果は【強化】で、ミスリル製の盾がないと防げない代物だ。
銃のモデルはG18Cであり、連射もできる優れものだ。
他のクラルスたちの武器も俺が作ったので人間の首なら鎧ごと掻っ切れるチート武器だ。
そんな武器を100名近く装備してるんだから人間側には恐怖の塊だろう。
「いいか?この武器は誰でも使える故に、絶対に奪われてはならない。奪われたら自分たちが手痛いしっぺ返しを食らうからな。もし奪われそうになったら自分の命を持ってでも守り抜け」
「「「「Sir,Yes,Sir!!」」」」
「いい返事だ。これから貴族の屋敷に乗り込む。全員戦闘機に乗り込め」
戦闘機というのはここに来るまでに使ったステルス戦闘機である。
中身が空間魔法で拡張されてるので100人くらい余裕で乗れる広さだ。
クラルスには俺特製の戦闘服を着させている。
鉄の剣如きには断ち切れない強度を持っている。
色は黒で、頭にはフルフェイスヘルメット。
さながらSWATだ。
全員が戦闘機に乗り込むなり己の武器の確認、手榴弾の数などを確認している。
「ボス、少々よろしいでしょうか?」
「どうした?カルヴェ」
「我らはボスの知恵を受けたからこそこのような舞台で戦えるのです。それを大変感謝しています」
「お、おう?」
「...もしよろしければ、我らと帝国の戦争に手を貸していただけませんか?」
「..どういう意味だ?」
「帝国は我らの同胞を何人も奴隷にしており、そして殺してきた。我らには許しがたい事実です」
「そして我らには帝国に報復できる戦闘力が今ならあります」
「ふむ。それだがお前らのボスとして俺に参加してほしいと?」
「その通りでございます」
「...だが断る」
「...理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「帝国との戦争はお前らの戦いだ。そこに部外者である俺を入れる必要はねぇ。それに...」
俺はカルヴェの目を見ながら言う。
「お前らで殺したほうが、スッキリするだろ?」
「...その通りでございます。ボス」
感極まったのか目の端に涙を溜めるカルヴェ。
「安心しろ。もし勝てないと思ったら連絡をくれればいい。新しい武器を渡すからな。それを使いこなして帝国に打ち勝って見せろ」
「ぼ、ボス...!!!」
「お前らはもう愛玩動物なんかじゃねぇ!お前らには意思がある!その意志を持って今までの相手に復讐してやるんだ!我らクラルスに栄光を!」
「「「「我らクラルスに栄光を!」」」」
「そうだ!我らには意思がある!魔王様万歳!」
「「「「魔王様万歳!!!」」」」
おい、カルヴェ。魔王はやめろ。
「...ハルトさん」
「どうしたんだ?」
「...私たちって、本当に猫人族なんでしょうかね...」
「...悪かったよ」
ティアが遠い目をしながらカルヴェたちを見つめてたのはどこか罪悪感を感じさせる。
だがこれであの貴族に絶望を味合わせることができるな...ククク...。




