帝国兵、そして猫人族
リディアが目を覚ましたのは2日後だった。
思ったより血を流していたらしく、思ったより回復に時間がかかったようだ。
それでも2日で回復したのは、【リカバリー】のおかげだろう。
【リカバリー】は少ないが血を戻す効果もあるからな。
そして病み上がりのリディアに、俺はテロリスト襲撃後の話をした。
襲撃をさせたのはこの国の子爵であること。
お前を性奴隷にしようとしてたこと。
そしてそいつに絶望を味合わせたいということ。
「...話は分かった。私もそれは許せないと思う。だが襲撃はやめておいたほうがいい....と言ってもハルトがやめないのは知っている。だから怪我をせずに帰ってきてほしい」
「ははは、悪いな...。だが安心しろ。怪我するどころか相手を亡き者にして帰ってきてやるぜ」
「...うん」
俺のことをよく知ってくれている嫁を持ててよかったな。
さて、じゃあ早速どこかの森に行こうと思う。
猫人族は基本的に森で暮らしているらしいからな。
早速【雷光】を発動させ、この国から50㎞ほど離れたところにある森に到着する。
この森はかなり深く、日本の富士の樹海など入り口に過ぎないほどだ。
猫人族の村はそんな感じの森の奥にある開けた場所にあるらしい。
だから俺は中に入るのではなく空から行く。
空を飛ぶために使うのは新しく錬成した兵器、【ナイトイーグル】だ。
所詮、ステルス戦闘機というものだ。
だが普通の戦闘機と違い、エンジンを搭載してないので音もないし、せいぜいあるのは飛ぶときの風の音だ。
風圧でガラスが割れないように、全体にはハルトが張った魔力障壁が薄く展開してある。
勿論武装は搭載済みだ。
武装はロマンだろ?武装のない乗り物なんてただの乗り物よ!
それでいいだろ!とか思っちゃいけない。
理不尽な魔王様にとっては武装はなくてはならないものなのだ。
搭載している武装は、
自動追尾ミサイル
超小型無人特攻機
ガトリング砲
投下型ミサイル
の4種だ。
超小型無人特攻機とは、所詮UCAVだ。
それを手のひらサイズまで小型化して、限界まで範囲を留め、威力を増した【エクスプロージョン】の魔術と【自動追尾】の魔術が付与された特攻機だ。
落下型ミサイルは名前の通りなのだが、威力が高すぎて使用を封印している。
最大まで魔力を込めた【エクスプロージョン】の魔法陣を5つほど付与してあるのだが、その威力が縦50m、横100mのクレーターを作るほどなのだ。
だから使用を禁止した。
ちなみに10発ほど搭載している。
あって困るものはないのだ。....多分。
内装は空間魔法によって拡張されており、普通に生活ができるほどには広い。
それに、最近風魔術を応用して作った、特定の場所の声を集める【ボイスコレクター】という魔術が付与されたアイテムがある。
遠くの相手の声も聞こえる優れものだ。
だが聞こえる距離や場所は本人の魔力に影響するためあまりに魔力が低いと起動すらしない。
このステルス戦闘機の搭載機能で一番すごいのは、何と言ってもホールド機能だろう。
この機能を作るために、2日間ほぼ徹夜で研究した。
このホールド機能には重力石という鉱石を使用し、さらに風の魔術まで使用している。
重力石というのは文献を読んでて見つけた、1000年ほど前にあったといわれる伝説の石らしい。
だが俺は新スキルの【鉱物生成】であっさりと作ることに成功した。
1mほどの重力石を10個ほど作り、戦闘機用に加工したのはなかなかいい思い出だ。
一定の場所にとどまり続けるというのはそれぐらいの準備が必要なのだ。
あとは自動で空気調整や風力調整を魔術が何とかしてくれるから大丈夫だ。
その次にすごいのは光学迷彩、いわゆる透明化なのだが、これは光魔術で光の屈折をちょっといじったり、周囲の光景に溶けさせる感じで調整したらすぐにできた。
光魔術様様だな。
おや?ソナーに反応が...。
この先に50ほどの集団がいるようだな。
一か所に集まっているところを見て、どうやら野営中のようだが...。
ひとまず行ってみるか。
俺は光学迷彩機能をオンにしてその場所に高速で飛ぶ。
最高速度はマッハ3だ。
どうやらこの集団は帝国兵らしい。
帝国って確かこの国と戦争してたよな....。
勝手に領地の森に入ってもいいのか?
ひとまず情報収集だ。
俺は【ボイスコレクター】を起動させる。
~~~~~
「なぁ、まだ出てこないのか?」
「あぁ。まぁこの先の渓谷には魔物も多いしすぐ出てくるだろうよ」
「だよなぁ。隊長たち、俺たちにも味見させてくれねぇかなぁ」
「だよなぁ。猫人族は容姿だけならいいもんなぁ」
「無理やりってのもいいよな」
「おま、それはないわ」
「え?」
「え?」
「「.....」」
「出てきたらまず隊長たちがするんだろうなぁ」
「だろうなぁ」
~~~~~
ほうほう。
この先の渓谷に猫人族が逃げ込んだわけねぇ。
じゃあ早速行きますか。魔物?んなもん殲滅だよ。
俺はホールドモードを解除し、渓谷を目指して飛び進む。
暫く進むと横幅50mほどの巨大な渓谷が見えてきた。
空中には数匹ほど竜がいるが、全員ガトリング砲かミサイルで死んでいった。
哀れなり。
渓谷の少し手前で着陸した俺は、そのまま戦闘機をアイテムボックスにしまう。
「うっひょぉ...たっけぇ...」
大体60mぐらいだろうか。
猫人族って本当に運動神経高いんだな...。
いや、猫みたいに高いところから落ちても大丈夫なのか?
まぁいいや。
俺はそんな疑問を放置したまま渓谷の中に飛び込んだ。
◇◇◇◇◇
ヒュオォォォォォォォ....
現在パラシュートなしダイビングを楽しんでいる俺である。
これ、最初は怖いとか思ってたけど結構楽しいのな。
途中で出てきた魔物に風で上に飛ばされたりしたけどそれも含めて楽しい。
ふと下を見るとそこには帝国兵に追い詰められている猫耳の少女が....!!
あれって猫人族だよな?よし、第一猫人発見だ。
だが状況は絶体絶命。どうする?俺。
答えは決まっている。
このまま突っ込むだけだ!
ドォォォォォォォォン!!!
おおよそ人間が出したとは思えない着地音で着地するハルト。
しっかり強化魔法で強化したから大丈夫だ。問題ない。
「な、なんだお前は!」
「あ、どうも。魔王です」
「何を言ってるんだ?!」
少しふざけただけです。ごめんなさい。
「まぁ通りすがりの正義の魔術師だ。ということで死んでくれや」
「な、何を――」
ドパァン!
帝国兵らしき人物の上半身は木端微塵になった!
痛みを与えないのはせめてもの慈悲である。
「た、隊長?!」
「くそ!囲め!囲んで攻撃するんだ!」
どうやらさっきのは隊長だったらしい。
にしてもこいつら....。
「生意気だなァ?」
「何を言ってるんだ!そこをどけ我らにはそこの亜人をとらえる義務が...」
「俺を攻撃するとか生意気だなァ?」
帝国兵たちの顔が一斉に「んな理不尽な?!」みたいな顔になる。
それもそうである。
いきなり現れて体調を有無を言わずに殺して...それでおいて反撃しようとしたら生意気と言われる始末。
完全に"理不尽"である。
「そういうわけだ。とりあえず死ね」
近くにいた帝国兵にヤクザキックをかます。
メキョォ!というなってはいけない音と共に壁にぶつかる帝国兵。
一瞬呆気にとられた他の帝国兵だが、すぐに切り替えハルトを攻撃する。
槍や剣などで攻撃されるがそれをヒョイヒョイとかわしていく。
「く、くそ!なんで当たらんのだ!」
「副隊長!これ以上攻撃すると亜人に当たってしまいますよ!」
「構わない!亜人の一人や二人ごとき....ひっ?!」
「おぉっとぉ...こいつは第一猫人だ。話を聞くためには死なれちゃ困るんだよなぁ...」
「ぐ、や、やれ!攻撃するんだ!」
「だぁかぁらぁ...」
副隊長と呼ばれた男の頭をがっちり片手で掴むハルト。
「ぐぁぁぁぁぁぁ?!は、離せぇ!!」
「殺させねぇって言ってんだろ?」
バキョン!
ハルトにアイアンクローで頭を潰された副隊長。
ハルトにはべったり返り血が...。
「きったねぇなぁ...【クリーニング】」
【クリーニング】は火魔術と水魔術、風魔術の合成魔術で瞬時に汚れを落とすことのできる主婦にとっては喉から手が出るほど欲しい魔術なのだ。
「さぁて...次に死にてぇ奴はだれだ?」
口元に不敵な笑みを浮かべて帝国兵たちを一瞥するハルト。
だが全員腰が引けて既に戦意はないようだ。
「ふん。つまんねぇなぁ....」
ドパパパパパァン!!
なったのは一発分だが、実際に放たれた弾丸は5発。
この場に残った帝国兵と同じ数だ。
全員が上半身を爆散させ死んでいく。
勿論その光景を最初から見ていた猫人族の少女は...。
「大丈夫か?」
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げて気絶するのだった。
 




