目覚め、そして異世界
目が覚めると真っ白い空間――ではなく、鬱蒼とした気味の悪い森の中だった。
時間帯もなぜか夜になっており、フクロウ?の鳴き声のようなものが聞こえてくる。
明らかに日本では見れない景色にハルトは興奮した。
そう、変質者のごとく興奮した。
「異・世・界キターーーーーー!!やったぜ!念願の異世界だ!」
森の中で叫ぶハルト、完全に変質者である。
日本だったら即通報物だ。まぁ日本じゃないんだが。
「てかここどこよ。異世界来て最初の場所が気味の悪い森ってどういうことよ」
不満を漏らしながら現在地を確認するために魔術を発動させる。
発動したのは【サーチ】という魔術だ。
自分を中心として半径100km程を検索し、周りがどうなってるか知れる有能な魔術だ。
だがその分多く魔力を消費するため使い勝手はよくない。
「えーっと....ここから20kmぐらい先に国があるな。しかもかなりの魔力を持った奴が2、3人ぐらいいるな」
とは言ってもハルトには遠く及ばないわけだが。
あくまで一般人から見ての"かなりの魔力の持ち主"ってことだ。
ハルトは【サーチ】の魔力消費量を5000だとすると余裕で80回ぐらい連続発動できるぐらいの魔力の持ち主なのだ。だてに"雷帝"の二つ名を持っているわけではない。
別に"雷帝"と言っても雷の魔術師か使えないわけではない。
大体の魔術は原理を知ってるから使える。
「そして馬鹿でかい速度でこっちに来る謎の物体とそれを追いかけてる謎の人....こっち来てんの!?うっそだろ!?」
驚きの速さでこっちに向かってくる謎の物体と謎の人物。
こうして驚いている間にもだんだん距離を詰めてきてる。
100m、50m、20m、5mとだんだん距離が近づいてきて見えたのは――――。
馬鹿でかいオオカミとそれを追いかける腰あたりまで伸ばした銀髪に真紅の瞳、スラっとした脚に雪のように白い肌の真っ赤な大剣を持った美少女だったのだ。
そしてオオカミはそのままこちらに突っ込んで――こなかった。
オオカミは突っ込む前に美少女が持っていた真っ赤な大剣に首と胴体を切り離されてしまった。
「これが首ちょんぱか...」
思わずそんなつぶやきが漏れてしまう。
そのつぶやきが聞こえたのかは知らないがゆっくりとさっきの美少女がこっちに振り向く。
振り返った美少女と目が合ったハルトは違和感を感じた。
この違和感は自分が張った魔力障壁が何かをはじいた時の違和感だ。
魔力障壁とは自分の体の表面に薄く魔力を広げたものだ。
魔術系の攻撃は効果が半減するという効果持ちだ。
魔術系に強いというだけであって物理攻撃への体制は皆無なわけだが。
「お前、今俺に何をした?」
俺は美少女に問う。
しかし美少女は首をかしげるばかり。
まるで何を言ってるのかわからないという表情を浮かべ....あ、ここ異世界だったわ。
そりゃ日本語じゃわからないわな。
とりあえずオリジナル魔術の【言語理解】を発動させる。
この魔術は勉強してたら突然思いついたので適当に作ったら思いのほか有能だったという魔法だ。
この魔術を発動させた状態でまた美少女と向き合う。
「お前、今何した?」
「効いてない...?あなた、何者なの?」
美少女は俺の質問に答えずにこちらに質問をしてくる。
美少女の声は透き通った感じがする美しい声だった。
落ち着いた感じの声からして恐らくクール系の美少女だろう。
ドストライクだぜ!そんなくだらないことを考えていると隣に気配を感じたのでふと横を見るとそこには先ほどの美少女が....ってなんでいんの!?全然気づかなかった....
「あなた、何者?」
まず俺の質問に答えてほしいんだが....まぁいいか。
「俺はハルトだ。お前こそ誰だ?」
「そう、ハルト。私はリディア」
どうやら美少女の名前はリディアというらしい。
さてそろそろ質問に答えて「なんで効いてないの?」・・・・。
そろそろ質問に答えてほしいんだが...。
「効いてないのって言われても何されたかわかんないし....俺に何したんだ?」
「【魅了】というスキルをかけた。いや、勝手に発動した?」
「なんで疑問形なんだよ...」
「【魅了】は私の意志に関係なく勝手に発動する。発動したいときとしたくないときがあるからよくわからない」
何とも使い勝手が悪そうな....。
どうやら俺にかけたのは【魅了】というスキルらしい。
それを俺の魔力障壁が防いだということか。
「質問、答えて。なんで私のスキルが効いてない?」
「ん?ああ、魔力障壁だよ、知ってるだろ?」
「魔力障壁...?」
リディアは信じられないとい表情を浮かべた。
なにかおかしいことでも言っただろうか....。
「なにかおかしいのか?」
「おかしい。私の【魅了】は魔力障壁ごときでは防げない。防げるのは聖魔法の障壁ぐらい」
聖魔法...?なんだその魔法。まぁ名前からして【ターンアンデット】とか使える奴かな?
てか魔力障壁で防げないスキルってなんだよ。怖すぎるだろ。
もしそんなのがうじゃうじゃいてその中に即死系のスキルとかあったら大騒ぎになるぞ。
「冗談だろ?魔力障壁で防げないスキルとか怖すぎるだろ...」
「本当。私の種族はヴァンパイア。しかも王族だから効果は絶大」
そっかそっか、ヴァンパイアで王族...王族!?王族なのか!?
王族だったのか,,,,しかもヴァンパイアって....。
「王族だったのかよ...しかもヴァンパイアって...」
「あれ?言ってなかった?」
言ってないよ!
しかも首を少しかしげながら言うやめて!かわいすぎるから!
ってかなんかまた来てない?【サーチ】にめっちゃ反応してるんだけど。
さっきのオオカミなんて比にならないぐらいのでかい反応だし...。
リディアのほうを見ると小刻みに震えて「嘘でしょ...」とか呟いてる。
え!?なんですか!?何が来るんですか?!
「逃げたほうがいい。急いで!」
リディアがものすごい剣幕で言ってくる。
マジで何来るんだよ...。
「何が来るんだ?」
「ドラゴン」
ドラゴンですか。そっかドラゴンか...。
異世界だもんな...ドラゴンぐらい普通だよな....。
....嘘だろ?
ドラゴンってあれだろ?
硬くておっきくて飛んでる奴。
空飛ぶ戦車みたいなもんだろ?
終ったやん。
しかし俺には魔術がある。馬鹿みたいに威力が高い魔術がな!ふははははは!
でも戦車相手に使ったことなんてないしやっぱり逃げたほうが良いのか...?
そうこう考えてると、目の前にはどでかいドラゴンがいた。
「ハルト...!逃げて...!!」
リディアがドラゴンと対当して震えながら言ってくる。
てかドラゴンさんいつの間にいたんですか。怖すぎでしょ。
まぁものは試しだ。
一発でかい魔術ぶち込んでそれでだめなら逃げればいい。
逃げれるかわからんけど。
「早く逃げて...!」
てか震えてるリディア可愛いな....。
そんなこと考えてないで魔術撃たないと。
「【レールガン】」
魔術名を唱えるとあたりに青白い雷が集まり、ハルトの手に纏う。
ハルトは人差し指と親指の間にどこからか取り出した500円玉を挟んでいた。
この魔術はとある女子中学生が使用していた能力に憧れて遊び半分に作ったら思った以上に威力が強すぎたっていう魔術だ。
コインをはじくとそのコインは音を置き去りにしてドラゴンに眉間に当たるとドラゴンの頭を爆散させた。
直後にドコン!!という音が鳴り、ドラゴンは地面に倒れた。
あれ、思った以上に防御力ないなとか思いながらリディアに視線を向けると、リディアは化け物を見たような表情になりながら固まっていた。
「おーいリディア、どうしたー?」
そう呼びかけるとハッ!とした感じで俺の目をまじかでのぞき込んで....小さな悲鳴を上げた。
あーそうだわ。遠くからじゃ暗くて見えなかったかもしれないけど近くで見ると相当俺って目つき悪いんだわ。
このせいで友達もできなかったし、近所ではヤから始まるお仕事の人とか言われて...あれ、おかしいな。目から汗が出るなんて...。
べ、別に悲しくなんてなんだからね!
どんなどうでもいい(?)ことを考えるとリディアがおずおずと質問してきた。
「えっと、ハルト...?怒ってる...?」
「怒ってないよ」
某深夜アニメみたいな感じで返事をする。
「でも、その、睨まれたから...怒ってるのかと思って...」
あー、そういうことか。
「この目つきは元からだよ。だから別に怒ってるわけじゃないよ」
「本当に...?」
「うん」
「そっか」
リディアはほっとした感じで軽く笑った。
てか本当にかわいいな。
「ねぇハルト、さっきの魔法は何?」
「あれか、あれは【レールガン】っていう魔術だ」
魔法?なんだそれは。独身で30代超えたら使えるようになるのか?
「魔術...?何それ?」
「こっちとしては魔法のほうが何それなんだが...魔術って言うのは魔力をつかってその現象を起こすことできる術だよ」
「魔法も同じようなもの。イメージで形を変えることができる」
「魔術もイメージで形を変えることができるな。まぁ欠点として原理を理解してないと発動できないわけだがな」
「そうなの?魔法はそういうのはない」
「そうなのか?てかいいなそれ。原理知らなくても発動できるって」
「でも、さっきの魔術に比べると威力は弱い」
「あー、まぁさっきのは俺も結構力入れたしな。」
本気で魔術を使うと地形が変わるのであんまり使えない。
やだよ!異世界に来たのに捕まるなんて!
「あ、そうだ。ハルトは寝る場所とかあるの?」
「あ、ないわ」
寝る場所とか考えてなかったわ。
完全にノープランだったわ。
「なら私の家来る?国もすぐそこだし」
「えっ、でもリディアって王族なんじゃ...」
「大丈夫」
「でもまずいん「大丈夫」...分かった」
リディアの謎の威圧感により強制的にリディアの家に泊まることになってしまった。
王族の家とか絶対に城だよな...。
しかも20㎞をすぐそこって言うあたりパネェわ。
ヴァンパイアってみんなそうなのか?
「移動は走る。私が走るとハルトが追い付かないかもしれない」
「ん?ああ、大丈夫だよすぐ追いつくから。気にしないで走ってくれ」
「わかったすぐ来てね?」
そういうとリディアはものすごい速度で走り去ってしまった。
クッソはえぇ...。
「さてと、行きますか。【雷光】」
【雷光】は読んだラノベに書いてあったから気分で作った魔術だ。
身に雷を纏って移動する魔術で、攻撃にも使える優れものだ。雷並みの速さで速さで移動するため少しでも操作をミスったら死にかねない。
最初に練習したときは雷を纏った時点で感電して死にかけたからな。
雷との間に薄い魔力障壁を張ることがポイントだ。
すこし足に力を籠めると一瞬でさっきまでいた森を抜けた。
あれ、なんか日本にいたときよりも早くなってる気が....まぁ気にしたら負けか。
そしてさらに一歩踏み出すとリディアに追いついてしまった。
リディアは一瞬目を見開いた後、また走り去ってしまった。
リディアもめっちゃ速いよな。
そしてもう一歩踏み出すとそこは国を囲んである城壁の門の近くだった。
後ろを見るとリディアが走ってきているのがわかる。
右横を見ると槍を構えた兵士さんがいた。
左も同様だった。
「何者だ!」
まぁそうですよね。いきなり人が現れたらそう思いますよね。
「安心してください!怪しいものではありません!」
「嘘をつくな!いきなり現れた者の何が怪しくないというのだ!」
正論ですねこれは。
確かに怪しいわな。
「ハルト、どうしたの?」
「お、リディア。来たか」
「うん、それで、どうしたの?」
「いや、少し不審者扱いされてしまって...」
「リディア様!?どうしてここに!?」
「森から帰ってきたから」
えぇリディアさん...さすがにその登山家みたいな返事はないでしょ....。
「えぇ!?それはわかりますが...」
ほら、門番さんも困惑してるでしょ。
「ハルトは怪しいものじゃない。私が保証する」
「わ、わかりました」
ごり押しだよな...これ...。
「ハルト、行こう」
「あ、あぁ」
そして俺は城に連行されるのであった――。
めっちゃ長くなりました....3話分ぐらい書いた気がします...。
(2019/04/16)
竜とドラゴンは同じです。
ややこしくてすいません。