表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の好きな人は殺人犯  作者: 大木戸 いずみ
30/31

30


思ってたよりもだいぶ長くなちゃったけど頑張って読んでちょんまげ。


わたるんへ

鳥にならないでね、ちゃんとわたるん呼び慣れてよ。

私は今頃捕まっちゃってるかな。#刑務所なうってつけておくよ。

いやぁ、渡さん、今だから言えることだけどね、渡って本当に変な奴だと思ってたんだ。

だって、殺人犯になりたい私にいつも普通に接してるっておかしいよ。

私が人におかしいとか言える立場じゃないけど。

私は今頃テレビで父親を殺害した女子高生って報道されているんだろうな。念願の有名人だぜ!

どうせなら美少女アイドルとかで有名になりたかったよ。

まぁ、でも無事に殺人犯になれて良かったよ。

柄にもないこと書くけど、渡と再会してから、自分の世界が鮮やかに色付いて、変な言い方かもしれないけど、水が流れるように穏やかに時が流れていく時間が心地よかったよ。

殺人犯になりたくなくなるぐらいにね。

今から書くことを渡に知っておいてほしい。

別に同情してほしいとかそんなんじゃなくて、ただ私が個人的に渡に知ってほしいだけ。

私さ、小学校一年生の時に親に捨てられちゃった。テヘ☆

あ、今重い話キターーーとか思った?

もう過ぎた事だし、全く重たくないし、頑張って簡潔に書くから最後まで読んでね。

帰る家が無くなった私はそれはそれは泣きじゃくりながら歩いていました。

そこにとても優しそうな夫婦が歩いていました。その夫婦は私に何があったのかを聞き、

私は親に捨てられたことを話しました。

幸運なことに、夫婦は私を養子してくれるように手続きしてくれました。

その夫婦の奥さんは子供が出来ない体だったのです。

養子手続きする時に実親の許可が必要でしたが、彼らは一瞬で承諾したそうです。

それとね、後に聞いた話なんだけどね、実母の前の男との子供が私だったんだって。

私の実母けっこうおバカちゃんで、顔がいいって理由だけでその男について行ったらしいんだけど、結局ボロボロになって捨てられたらしい。

その時に癒してくれたのがパパだったらしい。

もう私がお腹の中にいたらしくて、けどパパは二人とも俺が面倒みるって言ってくれたらしい。

まぁ、あるあるの話だよね。

でも不幸なことに私は前の男に似ていたらしくてね、あんまり良い家族生活は築けなかったかな。

さらに私の下にそのパパとの子供が出来たらしくてさ、そりゃ私は邪魔ですわな。

それで捨てたらしい。

まるでドラマのヒロイン!

可哀想っていう人がいるんだけど、むしろ私からしたら捨ててくれて感謝。

だってそんな空間で暮らしたくないもん。

だから地獄から抜け出せたって感じ。

しかもその夫婦は私にたくさんの愛情を注いでくれて、凄くいい生活だったんだ。

仲睦まじい夫婦で、温かくて、私の憧れ。

まぁ、ドラマと一緒でそんな幸せはいつまでも続きませんでした。

小学四年生の時になんと夫婦の奥さんの方が殺されてしまいました。

心臓をブスっとね。四回刺された跡があったんだって。

その夫婦は口癖のように言っていたことがあったんだ。

『死ぬときは二人一緒がいいね。』って。

けど結局それは叶うことなく奥さんが先に旅立ちました。

旦那さんは魂が抜けたように憔悴しきっていました。

私は旦那さんが奥さんの遺体を見て小さく呟いた声が聞こえました。

「私も死にたい。誰か私を殺してくれ」と。

私は復讐を誓いました。

夫婦にこんな別れ方をさせた殺人犯を必ず殺すと。

それが小学校四年生の時に発表した将来の夢。

しかし!私は見事に世界に嫌われていたのです。

物事はそんなにうまいこと進まないね。

その数日後ぐらいにね、

奥さんを刺した殺人犯はなんと逃げている途中で車にはねられ死んでしまったのです。

心底車の運転手を恨んだよ。そいつを殺すのは私だったのにって。

私はその時初めて旦那さんに話しました。

復讐を誓ったのにその殺人犯が死んでしまったことを。

旦那さんはとても寂しそうな顔をして私に言いました。

「愛優、復讐なんかしようとするな。妻もきっと愛優が復讐することを望んでない。私も妻も愛優の幸せを願っている。愛優、可愛い私の娘、私の自慢の娘だ。」

そして旦那さんは私の頭を撫でました。

猛烈な怒りがこみ上げてきました。なぜ、殺されたのが奥さんだったのか。

私は旦那さんに言いました、

「お父さん、今の一番の願い事は?自分自身の事でね。」

「そうだな…。お前を置いていく事を考えなかったら、死にたい。」

「それでお父さんは幸せになれる?」

「私は妻のいない世界で生きていることがとても苦しく、地獄なんだ。」

賛否両論ありそうだけど、私はこの愛の形を凄く素敵だと思ったの。

「いいよ、死んでも、私は一人で生きていけるよ。」

「ハハ、じゃあ、死のうかな。それなら一緒には死ねなかったから、せめて一緒の死に方をしたいな。」

「一緒の死に方?」

「ああ。まあ不可能だけどなぁ。」

「じゃあ私、お父さんを殺す。ちゃんと心臓を刺すよ。」

こんなわけで、私が殺人しようと思っていたターゲットが変わりやした。

こうして書いてみると私って結構気が狂ってるね。

これぞ歪んだ愛の形ってやつですかね。

生きていればきっといいことがあるってよく言うじゃん。

それはあながち間違いじゃないと思う、けどそのいいことを全部あわせても旦那さんは死ぬ事が一番自分にとっていいことだったんだと思う。

奥さんは旦那さんの全てだったから。

旦那さんを殺したかったってわけじゃない、むしろ長生きして欲しいと思っていたよ。

でも、毎日辛そうな旦那さんを見ていると、旦那さんが一番幸せになれる事をしたかった。それが旦那さんを殺すことであっても。

それで話を戻すと、旦那さんは私の言葉に大変驚いた様子でしたが、私が一度決めた事は決してやり通すことを知っていたので一つ私に条件を出しました。

「愛優に殺人犯になって欲しくないが、それを言ってもいう事を聞かないだろうから、一つ条件がある。高校生になるまでは普通に暮らしなさい。楽しいことがたくさんある。知らない世界をたくさん知ることができるだろう。そしたらきっと刑務所に行きたくないという気持ちが芽生えるだろう。その時は殺人犯になる事をやめ、普通に暮らし続けなさい。だがそれでも…高校生になってもまだ私を殺したいと思うならその時はどうか私を殺してくれ。」

それが旦那さんから出された条件でした。

私は旦那さんを殺すことを誓っていたので、何年たっても全く気持ちは変わりませんでした。つまり、私にとって旦那さんと過ごす時間が貴重で一番大切になりました。

だから、放課後とか友達と遊んだり、喋ったりする時間がとても無駄に思えてきて、すっごくドライな性格になっちゃった。アハ☆

けど、渡と再会してからは楽しいこといっぱいだったけどね。

旦那さんを殺すことを決心してたのに心が揺れる事が多々あったよ。

それから高校生になった私は旦那さんを殺すことにしました。

私はあらかじめ旦那さんに伝えていました。殺すのは突然だからねって。

奥さんは自分がその日死ぬなんて想像もしてなかった日に死んだわけだから。

旦那さんも同じ条件にしなきゃいけないからね。

殺人決行日の前日は緊張で寝れなかったけど、ちゃんと朝をいつも通り迎えました。

お父さんおはようって言って、一緒に朝ごはん食べて、アヒル口のタレントがやってるつまんないグルメ番組を見ながら過ごして、その後、旦那さんがお昼寝しました。

そして午後二時にね、私は包丁を持って旦那さんの元に向かいました。

殺すって覚悟決まってたはずなのに手も足も震えてさ。

自分が殺されるって知らないでいつも通り寝ている旦那さんを見ていたら急に躊躇ってしまう自分がいたんだ。

それでもまぁ結果殺したんだけどね。

こっからは詳しく書かないけど、どういう手順で殺したかだけ書くね。

まず心臓にブスって一刺し目で旦那さんが目を開けた。

二刺し目、旦那さんが優しい目で私を見た。

三刺し目は、視界が滲んでうまく心臓にさせなかった。

旦那さんは息を荒くしながら私の頬を優しく撫でた。

「有難う。妻の殺された日、時間、同じ死に方、これでようやく彼女の元に行ける。愛優、有難う。私の可愛い娘。泣かないで、笑って、愛優。」

私は酷い泣き顔で口角を上げた。

旦那さん…お父さんは満足げに笑って最後に私の涙を拭って、息絶えた。

私は最後にしっかりと心臓の中心を狙って四刺し目を刺した。

人の命を奪うって事を小学校四年生の頃からずっと考えてきて、父を殺して実感したことはね、人の命は儚く、塵のようだなって。

さっきまで話して、体温をもって、動いていた人間が一瞬で冷たくなって、目を覚ます事はなく、もう二度と会話する事がないって考えると、一番辛いのはきっと本人じゃなくて、残された方なんだなって思ったよ。

人を殺した私に言われても何言ってんだって思うかもしれないけど。

残された方は生きてるから、その人がいなくなった世界で生きなきゃいけないから。

父はきっと母が亡くなってから毎日を苦しみながら生きてたんだと思う。

間違って母のコップを出したり、出かける時に名前呼んでしまったり…。

寝る時にいつもいた最愛の人が存在しない。

世界中どこを探しても、もういない。

顔を見る事も、声を聴く事も、触れる事も、一生ない。

私は私の事を唯一愛してくれた人達にもう会えない。

それなら殺すなよってね。

殺した後にね、動かなくなった父を見て、力の限り強く抱きしめ、何度もお父さんって叫んだけど、父が私の名前を呼ぶ事はなかった。

その時に願ってしまった、生き返ってって、もう一度私の名前をあの優しい声で呼んでって。

私が父を殺したのにこんなこと思うなんておかしいよね。

でも、私は父を殺したことに後悔はしない。

それが父の幸せだったから。

これが私が父を殺した動機。結構簡潔に書けたんじゃない?

私文章能力皆無だからごめんちゃい。

それにしても自分で言うのもなんだけど、そこらのドラマよりも重い話っすよね。

重たいうえに暗いっすよね。

最初に重たくないって書いたの撤回します☆

いつか映画化とかになったりして!

刑務所の中って暇だと思うから、本書いとくよ。

そんなこんなで私は目的を果たせたし、これにて一件落着!

そして最後に、もう会うこともないだろうから書いておく。

いつからか分かんないんだけどね、気付けば私、惚れてたよ、本条渡に。

                 愛優


やっぱり相沢だ。最後に倒置法。

僕は涙を流しながら微笑んだ。

とめどなく涙が流れ続ける。

人生で泣きながら手紙を読む日が来るなんて思ってもみなかった。

不覚にもアヒルの言っていたことは正しかったようだ。

僕も相沢に惚れている。

それもきっと随分前から。

今まで僕はずっとこの事に気付く事から逃げてきたんだと思う。

小学校四年生のあの日からずっと気になっていた子。

単純で、馬鹿で、大食いで、人の事を振り回して、正直に言いたい事ズバズバ言って、目尻をクシャクシャにして笑う女の子。

たとえ殺人犯でも、僕は相沢愛優が好きだ。


一旦ここで終わりですが、小さなエピローグを書きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ