3
「私、どんな殺人犯になると思う?」
沈黙を破ったのは相沢だった。
どこか遠くを見つめながら呟いた。
未来形の質問という事は、まだ殺人犯にはなっていないのか。
「無差別殺人犯。」
僕は相沢を横目で少し見ながら答えた。
「え、ちょっと、本条の中の私のイメージってどんなの…。」
「倒置…。」
危ない。うっかり口を滑らすところだった。
「とうち?なにそれ。」
「父ちゃんみたいだなって。」
「は?本条のお父さんと私って似てるの?」
「いや、全然。」
なんて変な会話だ。
いくら何でも父ちゃんは無理があった。
相沢は隣でずっとお腹を抱えて笑っている。もうすぐ過呼吸になりそうだ。
息を整えながら相沢は僕の方を見る。
「本条って変だね。」
うわ。まさかの相沢からそれを言われるとは。
変な奴から変って言われたってことはまともってことか。
「相沢はどんな殺人犯になりたいんだ?」
「私が殺すのは一人だけだよ。殺さないといけないからね。」
相沢の口調が少し厳しくなった。
つまり復讐ってことか。
本気で人を殺すのだろうか。
そんな奴と僕は今喋っているのか。
小学校四年生の時に復讐を誓ったのか。でもまだ復讐と決まったわけじゃない。
殺さないといけないやつって誰だろう。
「いつ殺すんだ?」
「この夏だよ。」
「捕まるぞ。」
「知ってるよ。」
そりゃそうか。捕まる覚悟で人を殺すのか。
そこまでして殺したい相手なのか。
もうすぐ相沢は犯罪者になるのか。変な感じだ。
こんなに空気の澄んだ田舎のバス停でこんな話を落ち着いて会話している自分を奇妙に思った。
遠くからバスの音が聞こえた。
もう一時間たったのか。
「ねぇ、下の名前で呼び合おうよ。」
「別にいいけど。」
相沢の話の唐突さに慣れておこう。
「わたる」
「あゆ」
「いいね。下の名前で呼び合うのって。」
よく分からないが適当に頷いておいた。
僕達は運転手しかいない無人バスに乗った。
これまた見事に道がでこぼこ。
揺られに揺られまくった。
なんで相沢はそんな平然とした顔でいられるんだよ。
吐き気に襲われる。
「だらしな。」
倒置法女から倒置法怪人に改名だ。
これが毎日続くのかと思うときが遠くなる。
バスの運転手が俺の方をミラー越しにみてニヤニヤしている。
見たことがない顔をみて面白がっているのか、俺がバス酔いしている無様な姿を面白がっているのか。
ああ、早く学校に着いてくれ。