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僕は目を瞠って彫深ローマ人を見た。
「初めて俺が幸せにしたいって思った女なんだ。」
何故か心が痺れた。
「俺ってまあまあイケメンだろ?」
彫深ローマ人は笑いながら僕の方に振り向いた。
まあまあじゃなくて大分イケメンです。
「だから、まあ向こうではモテまくってたわけだ。」
「向こう?」
「ああ、俺もともと都会の方にいたからな。」
意外だった。まさか彫深ローマ人も余所者だとは思わなかったからだ。
「外見で俺を好きになってくれたのか、俺の中身を知って好きになってくれたのか分かんなくなってよ。まぁ、軽い人間不信になって田舎の空気を吸おうみたいな気持ちでこっちに来たんだよ。」
外見が浮浪者みたいになっている理由はそういう事だったのか。
「そこで吉野さんに出会ったんですか?」
「ああ、麻美は俺がどんなに惨めで格好悪い姿を見せてもずっとそばにいてくれたんだ。」
「惚気ですか?」
僕がそう言うと、無邪気に彫深ローマ人は笑った。
イケメンの笑顔の破壊力は凄いと聞いた事があったがこういう事か。
なんだかこの時間だけ教師と生徒ではなくなった気がした。
「素敵な愛ですね。」
彫深ローマ人が固まった。
そんなにまずい事を言ったのだろうか。
確かに言うつもりのない言葉が勝手に口から出てしまったけど、そんなに驚かれる事なのか。
「やっぱりお前達って似てるな。相沢にも同じ事を言われたよ。」
今度は僕が驚く。
相沢と同じ事?
相沢が誰かにこんな台詞を言うなんて考えられない。言うとしたら皮肉で言うぐらいだ。
というか相沢は彫深ローマ人と吉野さんとの関係を知っていたのか。
「本当に相沢が言ったんですか?」
「ああ、ひどく寂しそうに言っていたよ。」
寂しそう?あの相沢が?
「あいつがお前よりも先に麻美と俺の関係に気付いたんだ。それで相沢が俺に言ってきたんだ、本気じゃないなら吉野麻美が可哀想だから早く別れた方が良いって、傷つくのは彼女だからって。」
あんなにいがみ合っていたのに相沢は吉野さんの事を心配してたのか。
それとももっと深い理由があるのか?
「俺が本気だと言ったら相沢は泣きそうな顔をしながら、とても素敵な恋ですね、って言ってたよ。」
「どうして泣きそうだったんですか?」
「分かんねえけど、今の相沢んちの親って里親だろ。」
え、里親だったのか?
僕が驚いた表情を彫深ローマ人は読み取ったのか、知らなかったのか、と聞いてきた。
正直に僕は頷いた。
「まぁ、お前になら言って大丈夫だろ。」
「相沢の両親は亡くなったんですか?」
彫深ローマ人が頭を小さく掻いた。
「俺も詳しい事はよく分からない。」
何か隠している。僕はそう思った。
彫深ローマ人は表情を隠すのが得意だという事が分かった。
そして肝心なところで何も言わない。
良い事だが、今の僕にとっては煩わしかった。
「そろそろ俺行くわ。お前も早く帰れよ。」
そう言って彫深ローマ人は立った。
「幸せになってください。」
「俺は十分幸せだよ。」
彫深ローマ人は幸せそうに笑みを浮かべて去って行った。
一人残された公園で僕は考えた。
相沢の殺したい相手は里親なのだろうか?
里親に虐めらたり、虐待を受けたりする話はよく聞く。
もしそうなら僕はどうしてそれに気付けなかったのだろうか。
公園の古びた遊具が僕を責めているように感じた。




