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僕の好きな人は殺人犯  作者: 大木戸 いずみ
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2

相沢は僕の隣に腰を下ろした。

偏見だけど、女子はこんな錆びたベンチに座るのは嫌がると思っていた。

いや、相沢が変わり者なのかもしれない。

小学校四年生からずっとここにいるのか。

相沢はあの時自分が言った言葉を覚えているのだろうか。

殺人犯になります。

今思い出しても小学生が言う言葉にはやや強烈だ。

あの言葉はどんなことを意味していたのだろう。

警察に捕まり牢獄に行きたかったのか、ただ純粋に人を殺したかったのか。

聞いてもいいのだろうか。

「急に難しい顔してどうしたの?」

相沢の声が僕の耳に響く。

このモヤモヤを消すためには聞いてみるか。

「相沢が引っ越す一日前に言った事を考えていた。」

相沢は眉間に皺を寄せた。やっぱりタブーだったか。

しかし一度聞いてしまったものはしょうがない。僕は引き下がらない。

本人が目の前にいるのだ。聞き出してやる。

基本的に他人に無関心な僕がこんなに執着するなんて珍しいと自分で思う。

「殺人犯になれた?」

相沢は微妙な顔をして少し口角を上げた。

あ、あの時と同じ表情。

「私、本条のこと嫌いじゃないよ。」

ん?いきなり話のベクトルを違う方向に向けられた。

僕の聞いた質問は見事にスルーされた。

しかも嫌いじゃないって、好きってことか。

いや、ありえないな。

「覚えてるよ、本条のこと。」

なんで倒置法。

会話するのが苦手なのか。

話の内容があっちへこっちへと飛ぶ。安定していない紙飛行機みたいだ。

というより、僕の事を忘れていたのなら結構ショックだ。

相沢とはクラスの女子の中でもよく喋った方だった。

フルネームで僕の名前を呼んでいたし。割と記憶力あるじゃないか。

「本条だけだったからね、あの時笑わなかったの。」

ああ、そういう事か。

こいつ・・・。

倒置法好きだな。

これから倒置法女と呼ぼう。

そうなんだ、僕はそれだけ呟いた。

それから少しの沈黙があった。

僕はもう一度瞼を閉じて、相沢との一番最初の記憶を思い出していた。

初めて会ったのは小学校二年生の時だった。

声をかけたのは相沢からだった。

「本条くんってすごく美人さんだね」って。

僕は特に何も思わず、有難うと返した。

その一連を見ていた女子が『酷い。愛優ちゃん男の子に向かって美人って言ったらダメだよ。渡くん可哀想』と騒いだ。

「美人って美しい人って書くんだよ。本条くんも人じゃん。なんで男の子に美人って使ったらダメなの?」

相沢のこの言葉で喧嘩になった。

口喧嘩では相沢は負けるわけがない。相沢の圧倒的勝利だった。

その女子は負けた悔しさか皆の前で馬鹿にされた怒りか恥ずかしさで号泣してしまった。

先生はその女子の味方だった。

相沢は先生の中ではおてんば娘…ではなく悪ガキ大将として既に有名だった。

小学校二年生で学校の問題児だったのだ。

相沢は同級生から好かれても、先生には好かれる事はなかった。

先生は女の子が泣いているのを見て理由も聞かずに相沢が悪いと決めつけた。

そして相沢を皆の前で怒鳴った。

相沢は先生にどんなに怒鳴られても謝らなかった。

ずっと堂々とした姿勢で立ち続ける相沢に当時の僕は見惚れていた。

その事件は内容も理由も消え去り、相沢は女子を泣かしたという結果だけが残った。

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