18
「この前は悪かった。調子に乗り過ぎた。まじで反省しています。」
そう言って順平は深く頭を下げた。
まさかもう一度ちゃんと謝ってくるとは思わなかった。
いや、むしろ僕に話しかけてきたきた事に驚いた。
順平のこういうとこが好きだ。
悪いと思ったらちゃんと謝るっていうのは当たり前の事だけど世の中にはその当たり前を出来ない人が沢山いる。
「いいよ。僕も酷い事沢山言ったし。」
順平は頭を上げた。
「あの後、高澤さんどうなった?」
順平は苦笑した。
「目を点にして、吉野が帰ってくるまでその場に立ち尽くしてた。」
吉野…。吉野麻美。これでようやくフルネームが分かった。
脱キリンさんだな。
「お前には酷い振られ方されるし、親友はお前を攫っていくし、わけわかんねよな。」
そう言って順平は軽く笑った。
本当にその通りだ。
高澤さんも大分混乱しているだろうけど、僕も色んな事が重なって起こり過ぎて頭がパンク状態だ。
「吉野さんが帰ってきてからは?」
「吉野が高澤に謝りながら二人で教室出て行ったぞ。」
「高澤さん、僕にもう話しかけて来ないよな。」
「それは分からん。あいつも一生懸命お前に恋してるんだろ。」
順平が遠くを見つめながらそう言った。その横顔は随分大人びて見えた。
「吉野が実は渡の事好きだっていう噂がたったぞ。」
「嘘だろ。」
「それは吉野が皆の前で違うって公言してたけどな。」
良かった。これ以上面倒くさい事に巻き込まれたくない。
「なんで皆恋みたいな面倒くさい事に一生懸命になれるんだろうな。」
順平が僕の顔を少し驚いた様子で見た。
「渡、恋した事あるのか?」
「ない。」
何だよ、と順平はつまらなさそうに言った。
恋をした事なんかないけど、恋をしたせいで苦しんだり悲しんだりするなら、そこまで一生懸命にならなくていいんじゃないかと思ってしまう。
恋は自分でコントロールできないのだろうか?
僕にはそれがまだ分からない。
相沢が傷つくが怖いだけって言っていたけど、それは僕の胸にも刺さった。
僕はきっと傷つくのが怖くて告白なんか出来ないだろう。
そう思うと高澤さんに酷い事をしたのかもしれない。
皆の前で高澤さんが勇気を出して僕に告白してくれたのに最低な振り方をしてしまった気がする。
今になって少し罪悪感が芽生え始めてきた。
あの時高澤さんはこんにゃくダンスだけでなく、少し震えていた。よほど緊張していたのだろう。
急に僕の中で謝った方が良いのか葛藤が生まれた。
けど、謝ったりしてまた気を持たれたら困る。
「順平ならどんな振り方してた?」
僕が順平に聞くと順平は一瞬驚いて、それから僕の額に手を当てた。
おい、熱なんかないぞ。
順平は、熱はないか、と小さく呟いてから天井を見た。
天井に答えが書かれているのか?
僕もつられて天井を見た。
ただの天井だった。何も書かれていなかった。
「まず俺が告られていないから何とも言えないが、好きになってくれて有難うって言うかな。渡は告られまくりの人生だから分かんねえかもしれないけど、やっぱり告白されるって嬉しいから。」
僕は黙っていた。何を返せばいいのか言葉が見つからなかった。
「その人の人生の中で自分を選んで好きになってくれるって凄き事だと思わね?こんな田舎だから都会のイケメンが珍しかったっていうのもあるのかもしれないけど、渡を選んで、渡に一生懸命になるって本当に勇気がないと出来ない事だと思うから。」
やっぱり、お前は仏だったのか。
その坊主頭、結構毛が伸びてきているから切った方が良いぞ。
「僕はそういうの分からない。」
「だろーな。分かっていたらあんな振り方しねえもん。」
「ちょっと行ってくる。」
僕がそう言うと順平は、頑張れよって言いながら僕の背中を叩いた。
「順平、有難う。それと、もう髪の毛切らないんだ?」
「これはサッカー部の罰ゲーム。俺、すっげえ坊主嫌だから。」
まさかの罰ゲームだったのか。サッカー部のくせに坊主だったのはそういう理由だったのか。
僕は、坊主似合っているのに、と言って小走りした。
後ろから、嬉しくねーよって順平が叫んだのが聞こえた。
先生らしき人に廊下は走ってはいけませんって叫ばれた。今は緊急なんで許して欲しいです。
向かう先はもちろん彼女の所。
僕と喋ってくれるか分からないが、行かなければならない。
僕は走るスピードを少し速めた。
やっぱり教室にいた。
吉野さんと向かい合わせで喋っていた。
僕はまっすぐ彼女の元に向かった。
吉野さんが驚いた顔で僕を見る。
「高澤さん。」
高澤さんは僕の声を聞いた瞬間、体をビクッと震わせた。
相当怯えられている。
吉野さんはいつもの敵対した目で僕の事はもう見ていない。
高澤さんは僕に背を向けたまま黙っている。
これが自分の望んでいた結果なのに何故か心がスッキリしない。
僕は本当に自分勝手だな。
「あんな最低な振り方をして悪かったと思っている。けどあれが僕の本音だ。それと、勇気を出して告白してくれて有難う。僕を選んでくれて有難う。」
高澤さんの肩が震えているのが分かる。
「それだけです。」
僕がそう言ってその場を離れようとしたら高澤さんが立ち上がって僕の方を見た。
眉間に皺を寄せて苦しそうに涙を流していた。
それから高澤さんは大きく息を吸い込んだ。
「私も…幸せな恋じゃなかったけど、本条君に恋をさせて貰って有難う。」
そう言って笑う高澤さんは輝いて見えた。もう未来を見ている目をしていた。
いつも突っ走ってくる高澤さんを受け止めてあげられる人が必ず現れるだろうと思った。




