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僕の好きな人は殺人犯  作者: 大木戸 いずみ
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布団に潜って今日起きた事を思い返してた。

現実味がなさすぎて夢だったんじゃないかと思ってしまう。

明日になったら何もなかったことになっていないだろうか。

相沢が気になってしまう。

相沢は明日学校に来るのだろうか。

僕は相沢の為に何か出来るのだろうか。

…共犯にはなりたくはないが、あいつが苦しそうな顔をすると僕まで苦しくなる。

ああ、寝れない。相沢のせいで寝不足になりそうだ。

僕は相沢の事は気にはなっているが、これは恋じゃない。


相沢が学校を休んだ。

今相沢がどこで何をしているかすら僕には分からない。

相沢の住所も電話番号も知らない。

もしかしたら、もう犯行に及んでいるのかもしれない。

相沢はどんな気持ちで人を殺すのだろう。

相沢が殺人犯になったら僕達はもう二度と会う事はないのか。

相沢の事だから刑務所暮らしも楽しそうにやってそうだ。

「本条君。」

高澤さん…。

気まずそうな顔をしながら僕の前に立っている。

「私、本条君の事が好きだから。」

今、好きって言った気がしたけど…。

高澤さんは顔を赤くしてこんにゃくダンスをしながら僕を見ている。

「ちゃんと顔だけじゃなくて、本条君の事が好きです。」

やっぱり空耳じゃなかった。

いきなりすぎて僕はまだ頭の中で処理できていません。

昨日相沢に告白しろって言われたからしたのか?

行動が早すぎるというか、突然すぎるというか。

教室が静まり返っている。この空気苦手なんだって。

高澤さん、告白する場所を考えよう。

「僕は高澤さんの事はなんとも思っていない。」

気持ちは有難いけど僕は人に期待させる事は嫌いだし、きっぱり断るのが良いと思っている。

変に優しくするより、冷たくした方が良い。これは僕個人の意見だけど。

高澤さんの顔が少し曇った。

「じゃあ、どうしたら私の事好きになってくれるの?」

なんとなくそうくるんじゃないかって予測はしていました。

僕は少女漫画のヒロインの事を後に好きになる男の子役ってわけですな。

けど、僕は決して優男ではないし、ヒロインの事を好きにはなれないと思う。

僕と高澤さんルートを期待していた方々には申し訳ないけど、僕は本当に高澤さんを嫌いじゃなくなる事はあったとしても好きになる事はありません。

「僕が高澤さんを好きになる事はない。」

高澤さんの目がどんどん赤くなっていく。

…泣くか?

僕はこれで完璧にクラスから孤立するだろう。

けど変に干渉されるよりそっちの方がよっぽどいい。

人の目なんか正直どうでもいい。そもそも僕は余所者だ。

「あんた最低だね。やっぱり相沢と一緒にいるだけの事はあるね。」

キリンさんが出てきた。

なんだかこうして会うと変な感じがする。

昨日は無事に肉じゃがを作れたんだろうか。

「振るにしても他に言い方ないわけ?」

僕的にはあの振り方が一番良いと思ったんですが。

俺を睨み付けるキリンさんの顔には昨日見た女の子って表情が一切なかった。まるで般若だ。

「期待させる方が良くないと思ったから。」

僕がそう言うとキリンさんは僕の頬をぶった。

突然の出来事で、今自分に何が起こったのか理解できなかった。

頬がジンジンしているのだけが分かった。想像以上に女の平手打ちは痛い。

これには高澤さんも驚いていた。

普段相沢に溜まっていた鬱憤を僕にぶつけられた気がした。

僕はぶたれた頬を手で押さえながらキリンさんの耳元で呟いた。

「旧校舎。先生と生徒。」

これがどんなに汚い手か分かっていて使った僕は本当にくずだと思う。

ただ今のこの状況をおさめるにはこの方法しか思い浮かばなかった。

キリンさんは一瞬で顔を青くした。

「え、いつ、見ら…れたの。」

酷く動揺し始めた。

僕はこれを誰かにばらすつもりなど甚だない。

キリンさんは急に僕を睨み、僕の手を掴んで走り出した。

そんなに強く握りしめられたらドキドキしちゃう。

っていう気色悪いボケは置いておこう。

握られた所が赤くなるまで強く掴まれた。

怒りで強く握っているのか、焦りで強く握っているのかは分からない。

僕は拉致られた。行き先は旧校舎。

「いつ!一体いつ先生といるとこを見たの!?」

強気な口調で僕に向かって言っているが、まだ動揺しているのが分かる。

「誰かに言うつもりはない。」

正直に本音を言った。僕は早く解放されたかった。

今、キリンさんに構っている余裕なんかない。

教室に置いてきた高澤さんとの事も早く終わらせたい。

「そんなの信じられない。」

「なんで。」

「だって本条は私の事嫌いでしょ?」

いや、好きでも嫌いでもない。

少なくとも高澤さんよりは喋りやすいし。

「じゃあ、どうしたら信じてもらえる?」

僕は眉をひそめながらキリンさんに聞いた。

キリンさんは暫く顎に手を当てて俯いた。絵に描いたような考え方だな。

それから何か思いついたように顔を上げた。

「本条は私と先生の関係を秘密にするから交換条件として私は何でも本条のいう事聞くっていうのは?」

面倒くさい。そんな事しなくても僕は本当に誰にも言うつもりはない。

「それはいい。」

僕がそう言うと、キリンさんは僕の目をじっと見た。

「ただより怖いものはないの。」

それは確かにそうだ。でもその交換条件はダルすぎる。

「じゃあ、一個聞きたいことがある。交換条件はそれだけでいい。」

僕がそう言うと警戒した顔で、何、とキリンさんが言った。

「先生が小学生の頃の相沢に会って声を掛けた後どうなったか知ってる?」

キリンさんは、あの時いたんだ、とボソッと言ってから、知ってるよ、と答えた。

「先生は相沢に声掛けたけどガン無視されたんだって。相沢は別に先生の事を怖がっている様子もなかったらしいよ。むしろ小学生とは思えない表情で先生を睨んだらしい。」

淡々とキリンさんが語る。

「で、先生が最終、早く家に帰った方が良いよって言ったら相沢はあなたに関係ないでしょ、私がどこで何をしていても、今突然ここで死んでも、あなたに関係ないでしょ、って言ったんだって。」

キリンさんが苦笑しながら言った。

なんだか相沢らしいなと思った。

「それで先生が帰ろうとしたら最後に相沢は先生に向かってこう言ったんだって。」

「「偽善者」」

僕とキリンさんの声が重なった。

キリンさんが目を丸くした。

「なんだ、聞いてたんだ。」

聞いていたわけじゃない。ただ相沢ならそう言いそうな気がした。

「有難う。」

僕がそう言うとキリンさんは嘲笑した。

「あんたって変だよ。」

「かもな。」

「ちゃんと黙っててね、先生との関係の事。」

「分かってる。」

「じゃあね。」

キリンさんはそう言って僕に背を向けた。

僕を拉致したくせに先に帰るのかよ。

先生と恋するって色んなリスク背負っているんだろうな。

バレたら全て終わる。特にこんな田舎じゃ一瞬で広まる。

その恋に自分の人生をかける価値があるのかと少し馬鹿らしく思えてしまう。

けど、その恋に人生をかけているキリンさんが少し羨ましい。

「僕は先生と恋しているキリ…、お前がかっこいいと思うよ。好きになるのなんて気付いたら好きになってるもんだし、禁断の恋って発想はそもそも少女漫画界を盛り上げる為に作りだされたもんだろ。」

自然と勝手に口が動いていた。

恋もした事ないのに気付いたら好きになっているなんかよく言えたもんだ。

本条君って、渡って、

相沢 (さん)の事好きなの(か)?

いるはずのない高澤さんと順平の声が聞こえた。

疲れているのか、ここ最近色んな事があったし。幻聴が聞こえるのは末期だな。

キリンさんが驚いた顔で僕を見ている。

確かに柄にもない事を言ったのは認める。

「私、本条とはいい友達になれたと思う。」

そう言って初めて僕に笑顔を向けた。

可愛いと思った、けど相沢に思った可愛いとは違う。

きっと今のキリンさんの笑顔は客観的に見て可愛いと思う可愛いで、相沢に思う可愛いはもっと主観的な…。

「本条、有難う。」

キリンさんは少し照れながら僕にそう言って去って行った。

相沢に対して可愛いと思うのは主観的だが、それには特別な意味はない。頭の中で何か誤魔化す。

僕は何かに気付く事から逃げてないか…?



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