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僕の好きな人は殺人犯  作者: 大木戸 いずみ
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「今日も相沢休みか。」

担任がそう言いながら名簿にチェックをいれた。

前から思っていたが本当に放任主義の担任だ。

放任主義というより根本的にやる気がない。

遅刻しても、早退しても、欠席しても、特に何も言わない。

その方がこっちも楽でいいのだけれど。

でもやっぱりそのぼさぼさの髪は少しぐらい整えた方が良いと思います。

髭も少し剃った方が良いと思います。先生というより浮浪者です。

アマゾンで迷子になり、数か月後に発見された研究者みたいです。

「じゃあ、今日も頑張れよ~。」

担任は名簿を持ちながら手をひらひらさせて教室を出て行こうとしたのと同時に相沢が教室に入ってきた。

「あ、相沢来たんだ。じゃあ、遅刻に書きかえとくわ。」

担任は名簿を軽く挙げて教室から出て行った。

相沢が学校に来たことに驚いて硬直した。

まさか学校に来るとは思わなかった。

相沢は少し息を切らしながら席についた。

今日の朝にあんな事があったのに、学校に来たのか。

「渡、何で相沢の事そんなに見つめてんだよ。」

順平にそう言われたの同時に高澤さんが僕の所に来た。

タイミングがよろしいことで...。

高澤さんの相方は今日は不在のようだ。

高澤さんが僕の事を疑い深く見てくる。

だから、違うんだって。

「やっぱり、本条君は相沢さんの事好きなんだ。」

高澤さんが僕の目をずっと見つめたまま呟いた。

今日はお得意のダンスはしないみたいだ。

「そうじゃない。」

「じゃあ、なんで見てたの。」

君は僕の彼女か。

「本条君は気付いてないだけなんだよ。」

「俺もそう思うぜ。」

おい、順平。この裏切り者。お前の事は信じていたのに。

「僕と相沢は高澤さんと順平が思っているような関係じゃない。」

僕はため息交じりにそう答えた。

「そんなの信じれない。」

高澤さん、僕の事が好きなら、もう少し僕を信じてくれてもいいだろ。

「じゃあ、その相沢さんと本条君の関係性を具体的に教えてよ。」

「三十字以内で。」

ニヤニヤしながら横から順平が付け足した。

順平は間違いなくこの状況を面白がっているだけだ。

僕は今この上なく相沢の気持ちが分かるぞ。確かに皆に冷たくしておいた方が楽だ。

干渉されたくない。

「高澤さんに関係ないだろ。」

…。

高澤さんも順平も急に表情が固まった。

うっかり口から本音が出てしまった。

クラスの皆も喋るのを止めて僕の方を見ている。

相沢も驚いた表情をしていた。

あんなに嫌だったシベリアを自ら作り出してしまった。

高澤さんの目に涙が浮かんできた。最悪だ。

「俺らがあんまりしつこくし過ぎたいせいだよな。悪かったよ。ほら、高澤も謝れ。」

順平が明るい声を出しながら、空気を変えようとした。

が、時すでに遅し、高澤さんが泣き出してしまっていた。

「ごめっ…ん…なさ…いっ。」

高澤さんは嗚咽を上げながら謝った。

これはどっからどう見ても僕が高澤さんを虐めたようにしか見えない。

すぐ泣く女は本当に苦手だ。一体どうしたらいいのか分からない。

一発殴って気絶させたら泣き止むか。

「高澤さんって本条君の事好きなんでしょ?」

突然相沢の言葉がクラスに響き渡った。

お前は何故それを今言う。

相沢が僕達の方へ近づいてきた。

僕をこの状況から助けようとしてくれているのなら有難いが、もっと他に違う事言えただろ。

「今…それ必要?」

高澤さんが僕の思っていた事を代弁してくれた。

「本当に好きならそんな風に泣かないでしょ。その行為はただ渡に迷惑かけているだけじゃん。」

ごもっとも。相沢、核心ついてくれて有難う。

「渡?相沢さんって本条君の事渡って呼んでるの?」

今の話で反応するとこそこっすか。

僕は迷惑かけているってところに反応して欲しかった。

これには相沢も呆れている。いや、クラスの皆も呆れていた。

結構冷ややかな目で高澤さんを見ている。

高澤さん、早く自分が馬鹿な事に気付け。

「それがなに?渡って呼んでたらいけない理由でもあるわけ?」

高澤さんが口喧嘩で王者の相沢に勝てるわけがない。

それに相方のキリンさんも不在だ、つまり高澤さんにとっては最高に不利な状況。

段々しおらしくなっていく高澤さんに相沢が追い打ちをかける。

「本当に好きなら、いちいち渡の好きな人は誰とか探る前にちゃんと告白したら?大事なのは高澤さんが渡を好きだって事なんじゃないわけ?」

「好きな人に好きな人がいたら嫌じゃん。」

高澤さんが反撃したと思えば、ただ当たり前のことを言っただけだ。

そんなのは誰だってそうだ。好きな人に好きな人がいて嬉しい奴の方が珍しい。

相沢は鼻で笑った。

「高澤さんはただ自分が傷つきたくないだけでしょ。」

高澤さんの表情が固まる。

「違う、そうじゃない…。」

一気に勢いがなくなった。そしてそのまま高澤さんは床に崩れ落ちた。

目から涙がぼろぼろ溢れ出ている。

クラスの皆も順平も誰も何も言わずその様子を眺めている。

相沢はしゃがんで高澤さんと目の高さを合した。

「それは恋に恋しているだけでしょ。ただ恋に憧れているだけの馬鹿女。」

そう言いながら相沢は嘲笑した。

只今、シベリアから北極へ瞬間移動しました。極寒でございます。

相沢、一言多い。助けてくれて感謝しているけど、最後の一言はだめだ。

思っていても口に出しちゃいけない言葉だ。

いつもなら誰かが言い過ぎだよねって呟くのに今日は誰一人声を発するものはいない。

教室が静まり返っている。言葉を発せられるような雰囲気じゃない。

流石に順平も黙りこくっている。

キリンさんがいなければ、相沢の今の状況は鬼に金棒だ。

高澤さんに対しての言葉を誰も止める事は出来ない。

「ねぇ、固まってないで何か喋ったらどう?」

今まで見た事ないような冷たい目で高澤さんを見る。

まだ攻めるのか。

空気の無くなった風船をハサミで切り刻んでも何も楽しい事はないぞ。

なんで今日の相沢は攻撃的なんだ。いつもならもう終わっているはずだ。

「怖い…。怖いよ…う。」

高澤さんが小さな声でようやく喋った。

「誰か…。助けて。怖いよ、麻美。」

麻美?誰だ。もしかしてキリンさんか。

「誰も助けてくれないよ。」

高澤さんの耳元で相沢が呟いた。

背筋が凍った。相沢が相沢に見えなかった。

誰なんだ。

まるで今にも殺しそうな目で高澤さんを見ている。高澤さんが震えだした。

まさに恐怖に震えるウサギだ。

「相沢、もうやめとけ。」

僕はそう言ったが、相沢に僕の声は届いていないようだ。

朝の状況と一緒だった。

「そもそも、渡の事なにも知らなくて、話した事もない時から好きだっていうのがおかしいでしょ。」

正論ではあるが、もうその辺でやめてやれ。

「一目惚れだったんだってどうせ言ってるんでしょ。それってただ顔が好みだっただけでしょ。」

相沢、僕はもう一度相沢を呼んだ。

高澤さんは滝のように涙をこぼしながら体を震わせている。

「私は全然いいと思うよ。顔がイケメンだからって理由で男選んでも。」

相沢、僕はそう言って高澤さんを庇うような形で相沢の前に立った。

けどそんな俺に全く目も向けず、相沢の攻撃は続いた。

「で、見事イケメン彼氏ゲットしても、そいつは結局最低な男でボロボロになって捨てられればいいんだよ。」

相沢が早口で言い放った。どうしてそんなに具体的なんだ。

高澤さんは過呼吸になりかけていた。

「愛優!!!」

僕は相沢に向かって叫んだ。

ようやく相沢が僕の方を見た。

相沢はゆっくり高澤さんの方に目を向けた。

震えて泣き崩れている高澤さんを見て、相沢は自分が言い放った事を理解したようだ。

「ごめん。」

相沢は高澤さんに深く頭を下げた。

その行為にクラスの全員が驚いたが誰も何も言わなかった。

高澤さんも驚いた表情をして相沢を見つめた。

相沢は頭を上げて、ゆっくり扉の方に歩いて行った。

静かな沈黙の中、扉の閉じる音だけが響いた。

僕はその様子を眺めるだけだった。

相沢が教室を出て行った後も暫く沈黙に包まれたままだった。


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