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僕の好きな人は殺人犯  作者: 大木戸 いずみ
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「殺人犯になります。」


相沢は笑うことなくそう言った。

僕が見た相沢の中で相沢が一番真剣になった瞬間だった。

教室が静まり返った。一瞬だけ。

その後、教室が笑いに包み込まれた。

誰かが茶化し始めた。皆がそれに便乗した。

先生も笑った。誰もが冗談だと受け止めた。

相沢は微妙な顔をして、少し口角を上げただけで何も言わなかった。

きっと相沢は冗談で言ったのではない。

相沢はクラスのムードメーカーで、悪さもするし、ふざけた事を言ったりする。

けど相沢が言った今の言葉はふざけた調子が少しもなかった。

そして次の日、相沢が引っ越した。

これが僕の中で鮮明に残っている小学校四年生の時の記憶。



物事には必ず因果関係がある。

お腹がすいているからご飯を食べる。

遅刻しそうだから走る。

先生に叱られたから泣く。

好きだからキスをする。

相沢の場合は何が原因であの言葉を発したのだろう。

僕はそんなことをぼんやりと考えながら、新しい通学路を歩いた。

急な親の転勤で引っ越した。

有難いことに僕の高校の入学に合わして引っ越してくれた。途中入学は間違いなく目立つ。

引っ越し先は一言でいえば田舎。

良く言えば緑が美しい村。悪く言えば不便な村。

なんにもない。コンビニもない。

急にトイレに行きたくなった時、コンビニに駆け込めない。

人様の家にお邪魔するか、その辺でするしかないって事だ。

それか家まで全力疾走。

おまけにバスは一回乗り遅れたら、次来るのが一時間後。

そして今僕は目の前でバスが発車しているのを見ている。

グッバイ。僕の乗るはずだったバス。

入学早々遅刻だ。

この村は引っ越してくる人が珍しい。

だから結局、途中入学じゃなくても目立つわけだ。

生まれた時から皆一緒の学校に行って、家族みたいな中に急に僕が入る。

つまり僕は余所者。

きっとこの村で僕の居場所を作る事はないだろう。

高校三年間は勉学に励み、卒業したら前に住んでいた場所に戻る。

余所者は早く退散しないと居心地が悪い。

せめて平和な高校生活が送れますように。

とりあえずバスを待つしかない。

バス停の古びたベンチに僕は腰を下ろした。

静かで長閑な所だ。なんの騒音もない。

自然と心が落ち着く。僕はそのままゆっくり瞼を閉じた。

「本条渡?」

僕の名前だ。

誰かが僕の名前を呼んだ。

空耳か。僕は幻聴が聞こえるようになったみたいだ。

この村には僕を知っている人間は一人もいない。

「本条渡?」

さっきよりもはっきりと聞こえる。

現実?

目を開けるとそこにはセーラー服を着た少女がいた。

前髪はアシメで眉毛が見える。

ポニーテールがよく似合う。

少し日に焼けた小麦肌。

笑うと目尻がクシャクシャになる。

相沢愛優。

目の前にいるのは紛れもなく相沢だった。

「何でここにいるの?迷子?」

本当に相沢だ。

僕はまだ今の状況を整理できていなかった。

ここ最近驚く事がなかったから僕の脳が戸惑っている。

とりあえず高校生になって迷子はない。それは否定しなければ。

「引っ越したんだよ。今日からこの村の高校に通うんだ。」

相沢は大きい瞳をさらに大きく開けた。

「え?ほんとのほんとに?」

「ほんとのほんとに。」

こんな誰も得しないような嘘つかないだろう。

相沢こそなんでここにいるんだ。

幽霊か?それとも朝に相沢の事を考えていたから幻想を見ているのかもしれない。

とすれば、僕は一人で喋っているやばい奴だ。僕は周りを見渡した。

ここが田舎で良かったと心の底から思った。僕が見渡した限りでは誰もいなかった。

「相沢は?ここに住んでいるのか?」

「そうだよ。小学校四年生の時にこっちに来たんだ。」

良かった。とりあえず幽霊でも幻想でもない事は確認できた。

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