タイムトラベル
タイムマシンが完成したんだって。僕も使ってみよう。
過去に持っていくのは思い出とナイフ、それだけで十分。
まずは数年前、挫折した僕に会いにいく。
何も言わずにナイフを首筋に突き立てる。
汚い液体を噴出した後に挫折した僕は動かなくなった。
それでも僕は消えなかった。だからもっと前の僕に会いにいく。
今度は大学生の頃の僕。
一人暮らしの部屋で呑気に自慰行為をしてる。
その背中にナイフを突き立てる。
気持ちいい音を立てて汚物を撒き散らした後に、大学生の頃の僕は動かなくなった。
それでも僕は消えなかった。だからもっと前の僕に会いに行く。
次は高校生の頃の僕。
部活で疲れ果てて寝ている。
その腹にナイフを突き立てる。
ゴリゴリと筋肉を裂く感触と共に、重ねすぎた赤い絵の具のような液体を吹き出す。
その後高校生の頃の僕は動かなくなった。
それでも僕は消えなかった。だからもっと前の僕に会いに行く。
次は中学生の頃の僕に会いに行く。
初恋の人にフラれて泣いている。
その頭にナイフを突き立てる。
頭蓋骨をナイフが割り、脳内を切り裂く感触と共に赤いヘドロを吐き出す。
その後中学生の頃の僕は動かなくなった。
それでも僕は消えなかった。だからもっと前の僕に会いに行く。
今度は小学生の頃の僕。
同級生にリンチされた後で動けずにうずくまっている。
その心臓にナイフを突き立てる。
赤い噴水のように腐臭を放つ液体を噴き上げた後、小学生の頃の僕は動かなくなった。
やっぱり僕は消えなかった。もうもっと前の僕に会いに行くしかない。
生まれたばかりの僕に会いに行く。
何をしても褒められて肯定され、楽しければ笑い、辛ければ泣く生まれたばかりの僕がいる。
それがただ悲しくて、辛くて、幸せそうに見えて。
ごめんなさい。
僕はただ謝ることしかできなかった。
君の未来の姿はこんなだ。幸せになれなくてごめんなさい。
殺してきた僕にも謝る。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
全て誰かのせいにしてごめんなさい。今の僕を変えられなくてごめんなさい。
結局僕は生まれたばかりの僕を殺せなかった。
元の時代に帰る。過去の僕を殺してきたのに僕が消えることはなかった。
僕は自分の部屋で一人、何百時間と見つめ続けた天井を眺める。
そこにタイムマシンがやってくる。
そういうことか…。
少し先の未来の僕が現れる。
その姿がどんなものか僕にはわからない。
僕はナイフを首筋に突き立てられる。
ごめんなさい。