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21-2.ワン・ショット・キル

 なんて顔してんだい。ジョー。


 シオンは透き通るような青い瞳でジョーを見つめる。


「いいかい、最後の、レッスンだ」

「離せ! 離せよぉ!!」


 ジョーのマグナムによる銃撃は全てビッグ・ハンドの左腕で防がれる。最初のダウンは不意打ちだから成立した、奇跡だったのだ。


「今の、そいつじゃ、コイツは、倒せない」

「くそぉぉぉ、ちくしょぉぉぉ!!」


 みしみしと嫌な音が頭に響く。あぁ、うるさい……


「だが、そいつの特性は、『可能性』だ。ジョー。願え」

「今助けるから! 諦めんな! らしくねぇぞ!!!」


 静かだ。


「願え! ジョー! 強く! それがお前の未来を切り開く!!」


 それこそが、私じゃ使えない、最強の……



 ゴキン。

 嫌な音が森に響く。大型コーマの顔が、歓喜に歪んだ。そんな気がした。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 ジョーは叫んだ!


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 ジョーは願った!


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 目の前の大事な人を助けられるだけの力を!! 全ての困難を一撃で粉砕できる、そんな圧倒的なパワー!!

 この銃が! 『可能性』だというなら!!

 そいつを!

 今ここで!!


「よこせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 ジョーが手に持つマグナムが、その時、眩いばかりの光を放った!!!


 フィンフィンフィン……


 なんだ、何が起きている!? どこからともなく、何かの金属片が大量にジョーの元へと飛来してきているではないか!!

 その金属片はどこか見覚えが……おぉ!! そうだ!! この金属片は、シオンが使っていた……


「な、なんだ!?」


 金属片はジョーの持つマグナムを包みこみながら、急速に一つの形を作り上げていく!!

 そう! その金属片は、シオンが使っていた歪なコーマ・アーム! その、粉砕されたパーツ類!!


「こいつは」


 ジョーの目が大きく見開かれる!

 作り上げられたそのフォルムは、滑らかな曲線を持つ巨大な砲身!!! そして、錆びついたようなくすんだ色だったそれは、光の粒子をまき散らしながら、目の覚めるような銀色へと輝きだすのであった!!


 ジョーの瞳が大型コーマ『ビッグ・ハンド』を睨みつける!!


 これなら、倒せる!!!


 片膝立てたジョーが、巨大な銃口をユラリと向ける。


「いくぜ……」


 おぉ、その姿は! その銃は! その輝きは! 


 必殺の一撃で全てを決する、その名も!!


「『ワン・ショット・キル』!!!!」


 シオンのコーマ・アームが、ジョーのコーマ・アームへと。それはまるで彼女から託された命のバトン。

 ジョーは涙を流しながら、トリッガーを引いた。



 ブドゥゥゥゥム!!!!


 ジョーが放った目もくらむような閃光の一撃。

 それは、ビッグ・ハンド、そして、後ろにいた残りのコーマ達、更には森の一部を消し飛ばしたのであった。



「シオン! シオン!!」


 ジョーはシオンの肩を揺する。ジョーの一撃で、彼女を助けることは出来た。無事に、とはとても言えないが……

 シオンの目が薄っすらと開く。


「全く……うるさいよ」

「シオン、無事だったんだな!」


 喜びに沸くジョー。

 だが、あぁ、だが、しかし! もう彼女の目はどこも……彼の顔すらも……


「いいかい。もう、私は、置いていきな。どうせ、助からない」

「おい、何言ってんだ。勝ったんだ。帰るんだよ! 俺達の家に!」


 シオンは息も絶え絶えに虚ろな目で続ける。


「嬉しかったよ、ネックレス。私は、お前さんのおかげで、最後に、人間として生きられたんだ」

「聞けよ……なぁ。勝ったんだ……頼むよ……」


 ジョーはわなわなと口を震わせる。

 シオンはあらぬ方向へと右手を伸ばした。ジョーはその手をしっかりと握りしめる。


「笑って生きろ。お前さんなら……出来るさ。私が」


 そこで、彼女の手から力が無くなる。


「シオン?」


 ジョーは無理やり口角を上げた。


「冗談だろ? だって、お前、シオンじゃねぇかよ。野蛮で乱暴で高慢ちきで強くて、綺麗で、優しくて」


 ジョーは彼女の手へと額を擦り付け、そして


「なんで、なんで、そんな満足そうなんだよ……」


 振り絞るように、そう呟いた。



 森を歩く一つの影がある。


「悪いな。言いつけ守らなくて」


 その背には銀色に輝く巨砲。そして、その腕には……


「でも、あんな寂しいとこに置いてけるかよ」


 その腕には、一人の女性を抱えている。それは一人の青年だった。


「泣くなって? おいおい、そりゃヘビーってもんだぜ」


 軽い口調で呟き続ける青年の目からは、大粒の涙が次々とこぼれ落ちている。


「おっと、これで言いつけ3回破っちまった」


 彼は安らかに眠っているような女性の顔を見つめた。


「ほら。起きて、いつもみたいにチョップかましてくれよ。『このクソガキ』ってさ……なぁ」


 青年は優しく微笑む。


「母さん」



 こうして、ジョーはシオンの元から旅立った。

 背には巨砲、腰にはマグナム、ツーインワンの『ワン・ショット・キル』を携え、頭にはいつだったか、シオンから贈られたテンガロンハットを被り。


 そして、その後、彼は凄腕のプロテクターとして活躍し、『ビッグ・ガン・ジョー』と呼ばれるようになるのだが、それはまた別のお話である。


********************************


 時は戻って現在!!

 現在である! しばらくすぎて、お忘れかもしれないが、ジョーが今いるのは『とあるバンカー』!!

 そこで『アグリ』という名の少年と出会い、彼に修行をつけ、そして『アグリ』が自分をイジメている三人組と最後の決着をつけようという場面だ! そろそろ思い出して頂けただろうか?


「ワル者め! オイラ達に『果たし状』とはナマイキだぞぉ! セイバイしてやるぅ!」


 がっしりした男の子が細い棒をかざしながら、後ろを気にするような仕草をしているアグリに宣言した。その瞬間!


「うわぁぁぁっ!」


 アグリは突如叫び! 三人組へと頭から突っ込んだ!!

 呆気にとられる三人組! ちょっと待て! まだ、他の二人の口上が終わっていない! そんな気持ちが三人の行動を遅らせた!

 がっしりした男の子の胸へと、アグリのスピードを乗せた頭突きが炸裂する!


「ぎゃっ!」


 男の子がすっころぶ!!

 この先制攻撃、これは果たして卑怯であろうか? ノー! ノーである! 『果たし状』を事前に叩きつけ、宣戦布告は行っているのだ。姿を現したこの時を以て、ここは既にバトル・フィールド! 油断した方が悪い!


「この!」

「わわっ」


 三人組の内、小太りの男の子は拳を振り上げ、ヒョロっとした目の細い男の子は逃げようとする。こういうエマージェンシーな対応はその人間のキャラクターが現れるものだ。

 アグリは目ざとくそれを確認すると、小太りの男の子へとタックルをかまし、グラウンドに引きずり込んだ! が、追撃はせず、すぐに立ち上がってしまう。何故だ!? 千載一遇のチャンス、ここで小太りを潰せばほぼ勝利確定であるのに!?

 アグリは未だ地面で悶えるがっしりした男の子の元へと歩いていく。そして、傍にある棒を拾い、遠くへと投げた。

 アグリは拳を突き出し、叫ぶ!


「男なら! 拳一つで戦え!!」


 その様子を三人組は茫然と見つめる。


「オレは、オレの名前は、『カソウミン』でも『ハンザイシャ』でも『マリグナンシー』でもない!」


 アグリは笑った。


「『アグリ』!! 『アグリ・リベル』!! さぁ、かかってこい!!」



 それから、果たしてどうなったのだろうか。アグリは勝ったのだろうか。


 いや、決着など、どうでもよかった。


「お前……アグリって強いんだ」

「鍛えたんだ」

「家のこと……馬鹿にしてゴメン」

「いいよ、もう」

「アグリは根性あるなー。今度は一緒に遊ぼう! 今まで悪かった!」

「うん!」


 三人組とアグリ。お互い傷だらけだが、彼等は和解し、友情を結ぶことができた。

 それが一番大事なのだ。

 アグリは振り返る。ここまで自分を鍛えてくれた恩人に結果を報告するために。


「……?」


 だが、後方の物陰から見ていたはずのその恩人の姿は、もうどこにも無かった。


「おい、行こうぜ! アグリ!」

「あ、うん!」



 ジョーは一人、外に設置された古ぼけたベンチに座っていた。

 そこで、ぼんやりと青空を眺めている。


 もう、アグリに俺は必要ないだろう。きっと一人で何とかするさ。


 そして、一人の少年の成長を噛み締め、満足げに微笑む。

 そこで、ジョーはハッとした。


 あぁ、シオンの最後の表情は……


「シオン。とりあえず、俺は今も笑って生きてるぜ」


 ジョーは笑いながら一人呟く。


「とんでもない相棒も出来て、毎日大騒ぎさ」


 風が、彼の頬を撫でた。


【ワン・ショット・キル 終わり】

【超メモ】

・ジョーにとっての『母親』

 ジョーが『母』と呼ぶのは森に捨てられた自分を育ててくれたシオンただ一人である。

 産みの親の方については最後の最後で救ってくれたからといって、自分をゴミのように扱い、捨てようとした事実は消えないのだ。ただ、最後に救ってくれたことで『憎むべき相手』から『騙され捨てられた憐れな奴』くらいの認識にはなった。

 そのため、彼の復讐は紛れもなく、自分自身のためである。

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