18-1.憎悪の記憶
前回のあらすじ!
やぁやぁ。そういうわけで、あらすじは私、シオンだ!
前回はジョーと私が出会った時の話だったね。ジョーは森に捨てられたとかで、行く当てもなさそうだった。そこで、このスーバークールなお姉さんの私が、飯の代金の代わりに仕事を与えるって口実で預かったってわけ。いやぁ、ホント、私って優しいねぇ。美人の上に優しいとか無敵じゃないか。
それに対してジョーがまぁ可愛くないクソガキでねぇ! いや、全部が全部ってわけじゃないよ。例えば、くっくっくっ。アレとか。
前回のあらすじはこれでお仕舞い。
さぁ、今回も張り切って行こうか!
第18話 憎悪の記憶
ガァァァァン!!
おぉ、聞くがいい! 朝日差す静寂の森に響くは死人ですら飛び起きる目覚めの一発! またしても少年ジョーの憐れな鼓膜は餌食となってしまったのか?
「だぁぁぁぁッ!!」
いや、待て! 様子がおかしい。慌てて飛び起きたのはジョーではない。それは人外跋扈の森に住む、魔女と恐れられる妖艶な女性……シオンだ! シオンは血走った目を怒らせ、騒音の犯人を睨みつける。
「こっっんの、クソガキィィ!」
犯人はジョー! ジョーはオタマとフライパンを持った両手を開き、ニカッと得意満面な笑みを浮かべる。
「はっはっはっ! ザマァミロ! このオレがいつもいつもやられてばかりだと思うな!」
はて? いつも? そうなのである。ジョーがシオンに拾われてから、実はもうかれこれ二週間が経っていたのだ。
この二週間で、彼の状態は劇的に良くなった。血行も肌の張りも見違えるようだ。病的なまでに痩せていた体も肉付きが若干良くなったように見える。何より世界の全てを憎んでいたような濁った瞳は、少年らしい快活な輝きを取り戻しつつあった。
シオンは豊かな胸を揺らしながら、己の枕を憎たらしい笑みのジョーに向かってぶん投げる! それを彼は身軽にひょいと躱し扉の方へとダッシュ。
「さっさとシゴトのシタクしてこいよ!」
ジョーは愉快そうな笑い声だけ残して外へと出ていった。
一人残ったシオンは寝起きでくしゃくしゃの頭を抱える。
「ったく。いーい顔で笑うじゃないか」
そうして笑っていた。
シオンは顔を上げ、扉に向かって叫ぶ。
「おい、クソガキ! 朝飯はいいのかい!」
しばらくすると、閉まっていた扉が控えめに開いた。
*
ジョーは子供らしい好奇心と貪欲さにより、乾いたスポンジのごとく、シオンが教えた仕事を覚えていっていた。
畑の世話。
「また虫だ! オレんだ、食うな!」
「何がお前のだ! 私のだ!」
「まただ! ツブす!」
「最初は虫一匹でピィピィ言ってたってのにねぇ」
『森』での薪拾い。
「どうだ! これだけ集めれば」
「ふふん」
「あ、あれ、木丸ごと!? なんで? ずりぃ!」
「そろそろ薪割りいってみるかい?」
天然食材集め。
「これはメで、これはハで、これ、これは?」
「根だね。引っこ抜いてみな」
「よぉし、どりゃぁ! な、なげぇ!」
「ありゃ、途中で折れちまったか」
川での釣り。
「あ! かかった! どりゃ!」
「おぉ」
「やった! 見ろ! つれたぞ! ……なんだそのでっけぇの」
「くっくっくっ。私レベルになると、ざっとこんなもんさ」
「ファック! 次はまけねぇからな!」
そんなサヴァイヴァル能力がジョーに身につき始めた帰り道、事件は起こった!
いつものように籠を頭に乗せながら歩くジョー。慣れたもので、その足取りが簡単にふらつくことは無い。だが、何が起きたのか! 急にガクンと首が揺れ、ジョーは籠を取り落とす! 散らばる山菜・魚! 次に視界が目まぐるしく変わったかと思うと、いつの間にか木洩れ日を見ていた。
数舜遅れてジョーは理解する。首元を強引に引っ張られ、そのまま仰向けに倒されたのだ!
「なにすんだ! ババァ!」
顔を上げ、抗議の声を上げるジョー! 当然だろう。急にこんなことをされてはムチウチになってしまう。だが、犯人であるシオンは振り向きもせず、ジョーへと手のひらを向けた。
「動くんじゃないよ」
真剣味のある声音。ジョーはぐっと押し黙る。シオンが真面目な顔をした時に騒ぐとチョップが脳天に落ちてくることがジョーにはパブロフめいて刷り込まれつつあった。
まるでパリコレモデルのようなぶれない足取りで油断なく前に出るシオン。
すると、ジョーが行こうとしていた方向の茂みがガサガサと大きく揺れた!
バサッ!
黒い影が茂みから飛び出す!
「ブモォォォ!」
そして影はいなないた! コーマ? いや違う! 全身が針のごときこげ茶の剛毛で覆われており、下あごからは巨大な牙が二本天へと突き出す! そして、平たい鼻、丸みを帯びた体躯!
もう読者諸氏にはおわかりだろう! そう! イノシシである!
「ブモォォォ!」
イノシシはジョーの落したキノコの一つにふんふんと鼻を近づけると、パクリと平らげ、再びいなないた。ややエキサイティング!
それにしてもデカい。ゆうに1.5m以上……下手をすると2m近くあるかもしれない。
「ショウロの匂いに釣られたか」
シオンが呟く。後ろでは初めて強大な野生に触れたジョーが固まっていた。
「ブルル!」
巨大イノシシは更にエキサイトし、首を振る。辺りにはキノコや野草の類がまだまだ落ちている。イノシシにしてみればここはご馳走広場! テンション爆上げだ! だが、邪魔者がいる! 目の前の弱そうな奴等。そう、シオンとジョー! 巨大イノシシは二人を敵としてロックオンした!
「ブモォォォ!」
イノシシは咆哮し、キャノンボールと化して一直線にシオンへと突撃! シオンは全く動こうとしない! 危ない!
「ば、にげ!」
ジョーの叫び! そして……
ズガァァン!!
あぁ、辺りに響き渡るは大衝突音! ジョーは思わず目をつぶる! 巨大なイノシシの突進を受け、憐れシオンはその妖艶なボディを引き裂かれてしまったのか。
「喜びな! 今日はボタン鍋だよッ!」
その声に、ジョーは驚き、目を見開く!
おぉ! どうなっているのだ! 巨大イノシシのキャノンボールのごときボディ・チェックをシオンは右のフロント・キック一発で止めているではないか! どれだけ強靭な足腰があれば可能だというのだ!?
「ブモモォォォォ!」
自慢の鼻を足蹴にされ、巨大イノシシが猛り狂う! イノシシはザリザリと足を漕いで押し切ろうとするが、シオンは根の張った大木のごとくビクとも動かない。
「ブモモ!?」
困惑するイノシシ!
シオンは妖艶に微笑み、蹴った態勢のまま、スススッとスカートをたくし上げていく。エロティックな白く美しいおみ足が現れる! インクレディブル! ではない! 注目すべきは右太ももに装着されたレッグホルスター!
シオンは優雅にホルスターから『銀色のマグナム銃』を引き抜く。
「それ……!」
ジョーが唾を飲みこんだ。
ガチャリ。
シオンはイノシシの眉間へと銃を突き付ける。
「おやすみ、ボーヤ」
ズガァン!
放たれる光弾! 巨大イノシシの眉間を撃ち貫く! イノシシは左右にフラフラと千鳥足で歩き、そしてズゥンと重々しく倒れた。
シオンはクルクルとマグナムを回し、再びレッグホルスターへと仕舞う。強し! 華やかであり、妖艶! そしてパワー! 強大な野生を捻じ伏せての勝利。これにて決着である。
決着した、はずであった。
「ハァーッ! ハァーッ!」
再びシオンへと向けられる鋭い殺意! しかし、それは一体何の? イノシシはたった今倒され、もう動くことは無い。もうこの場には二人以外には……そう、シオンとジョーしか、いない。
「ハァーッ! ハァーッ!」
シオンはその殺意の元へと向き直る。
「……何の冗談だ。クソガキ」
それは、震える手でナイフをシオンへと向ける、少年……ジョー。
その瞳は全てを憎むような濁った光でほの暗く輝いていた。




