2-1. 二人の出会い SIDE:ジョー
前回のあらすじ!
バンカーを襲った悪漢達をあっという間に倒してみせた人物、それは! なんと! 美少女でした!
はぁぁ、エイムちゃんカッコいい……彼女は相方のジョーさんという方と一緒に旅をしているそうなんです。なんだか関係が気になりますね。
彼女達の旅の目的とは? これから一体何が起こるのか? 私との、私との恋の行方はぁぁ!?
以上、シン・バンカーの親思いの少女こと、私ヒビキがお送りしました。
私のことが気になる方は間話1を読んでね!
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「す、すごい! あの大型コーマを一撃で!」
「これが噂の凄腕プロテクター……」
「『ビッグ・ガン・ジョー』の実力か!」
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第2話 二人の出会い SIDE:ジョー
シン・バンカー。エイムが助けた親思いの少女 ――ヒビキ・ナンバという名前である―― はこのバンカーの名前をそう言った。シン・バンカーは見渡す限りの荒野の真ん中にポツンと取り残されたようにあった。外は強い風で埃と砂とタンブルウィードが舞い転がり、日差しにさらされた地面は目玉焼きでもできそうなほど熱い。人が住むにはあまり良い環境とは言えないようだ。
だが、あのような事件の直後にも関わらず、人々の顔は明るく、エネルギッシュであった。過酷な環境だからこそ育まれた強く生きようとする意志がそこにはあった。
*
現在シン・バンカーでジョー達はどうしているかというと、ヒビキの口添えもあり、無事寝療所のチェック・インを終えたところであった。
つまり彼等は目の前のベッドへとダイブする権利を得ることができたのだ。
「やっほーい!」
その権利をいち早く主張したのはエイムである。ギシン! と大きな音を立ててベッドは彼女を受け止めた。
それを心配そうに見ているのはジョーである。
「ベッド壊すなよ。お前さん重いんだから」
なんというデリカシーのない発言であろうか! ただ、当のエイムはそれを気にしている様子は微塵もない。
「これくらいいいでしょ。今回の最大の功労者は誰かしら」
「へいへい。そうだな。相棒殿には感謝してますよ」
そう言いながらジョーもベッドに腰かける。
この寝療所はあまり使われていないそうで、部屋は選び放題であった。ぼろい外観だが、中はそこそこ小綺麗で、長期滞在もストレスなくできそうだ。
そんなことを考えているジョーにエイムがずり寄ってくる。芋虫のようでいて、とても可愛い。
「それにしてもあのブロイラーヘッド、大した報酬じゃなかったね」
ブロイラーヘッドとは前回エイムが男の魂ごと葬り去った『ゲドー・ゲヘナ』のことである。
ジョーはため息をつくと、エイムのおでこにデコピンを加えた。
「いたっ」
「何故だろうなぁ? 自分のうすーい胸に聞いてみな」
前回触れることがなかった非常に重要な情報がここで開示された。そう、エイムは貧乳 ――まな板、絶壁といった言葉で評されるレベルの―― である。コンプレックスといったものにはほぼ無縁な彼女であるが、ここ、この一点だけは少しだけ気にしていた! 彼女の前でうっかりでも胸の話をしてはいけない。そうでないと、現在のジョーのように床にキスする羽目になるだろう。
そして、話は少し前に戻る。
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ゲドー達を倒したエイム達は、その後総合事務所でバンカー長に会っていた。
バンカー長は人当りのよさそうな笑顔を浮かべる初老の男性だ。手に持ったハンカチで額に浮かぶ汗をせわしなく拭いながら、ジョーと握手を交わす。
「えぇ、えぇ、どうも、あなた方ですな。あの厄介者共を退治してくださったのは」
「聞いてんなら話は早い。賞金はまだかかってなかったみたいだが、金は出るんだろ?」
ジョーは指をパチンと鳴らす。ここに来たのはあの悪党共を倒した賞金を受け取るためであった。
「で、いくらだい?」
「はいはい、ただいま……えぇと、被害と数と予防分とで……」
ぱちぱちと電卓を叩いた後、バンカー長は丸眼鏡をくいっと上げる。
「これくらいですな」
提示された数字を見てエイムが目を丸くした。
「うわっしょっぼ!」
「なんせ奴等まだ来たばっかりで。えぇ。被害がほとんどなくて、いや、感謝はしているんですよ、えぇ。その未然防止の分は上乗せしてます、はい」
「おいおい、流石にふっかけすぎじゃないか? マリグナンシーもいたんだぜ?」
バンカー長は困ったように自分のツルツル頭を撫でる。
「肝心のコーマ・アームが見つかっていないですし、はい。いやはや、どこへいったやら。今となっては本当にマリグナンシーだったのか」
眼鏡の奥の瞳に鋭い知性が宿る。ジョーはそれを敏感に感じ取った。
「耳が早いねぇ。そういうことなら文句はねぇさ」
「ジョーがそういうなら、まぁいいけど」
エイムが口を尖らせる。
「もう少しあいつ等暴れさせとけばよかった」
「そういうのは思っていても言っちゃいけねぇぜ、フロイライン!」
目元を隠しながらジョーが大笑いをする。
その横ではほほ笑みながらバンカー長が報酬を下げていた。
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「あんくらいでへそ曲げるなんて、あのバンカー長、ケツの穴小さすぎるわ! 絶対アレもミニマムサイズよ!」
エイムが仰向けになってベッドでバタバタしている。ジョーはすっくと立ち上がり、体についた埃を払った。
「口は災いの元。先人はいい言葉残すねぇ」
これはエイムと自分に向けた言葉であろう。
「ジョーが笑ったせいもあると思うんだけど! そういえば、いつも報酬にはドがつくくらいケチ臭いくせになんであんなにあっさり引き下がったのよ」
「ドケチじゃなくて、キッチリしてると言ってくれ。あれはバンカー長さんが俺の火事場泥棒をわかっていたからさ。賞金首ってのは持ってる荷物も含めて賞金がかかるからな。その泥棒を見逃す代わりにこれで我慢しろってことだ」
「……あのおっさんもしかしてヤリ手?」
「かなりな」
もちろん、長くこのバンカーに世話になる場合も考慮しての妥協という意味もある。が、ジョーはエイムには言わないことにした。エイムは素直すぎるところがあるため、余計な情報は入れないに限るのだ。これをエイムが聞けば、「ドケチの上にせこい」と評しただろう。
ジョーはそのまま部屋から出ていこうとする。
「あれ、出かけるの?」
「酒だ酒。まとまった金なんて久々なんでね」
エイムはむくりと体を起こした。
「私も行く」
「お前は飲まないだろう? 子供はベッドで」
「そのお金を稼いだのは?」
「さあ共に参りましょう、プリンセス」
全く、首輪付きの犬にでもなっちまった気分だ。ジョーはそう思いながらテンガロンハットを深く被り直した。
*
薄暗い室内の中、ガヤガヤと騒ぎ立てる男達の間を縫って、ウェイトレスの女性が躍るように酒を運んでいる。もう夕暮れ時だからか、バーはそこそこの賑わいを見せていた。
古臭いテーブルにつき、ジョーとエイムは隣り合って座っている。エイムの方は何やら見知らぬ男と話しているようだ。
しばらくして男が逃げるようにエイムの前から去っていく。
「とんだタマナシ野郎ね」
どうやら男はエイムに言い寄っていたようだ。なんとも怖いもの知らずである。
ジョーは呆れたようにその様子を見ていた。この少女はアレが潰れる覚悟があるなら一晩付き合ってもいいと男を挑発し、撃退したのだ。恐ろしい。
「それでもいいって奴がいたらどうすんだ」
「お望み通りタマナシ野郎にしてやるだけよ」
どっちにしてもタマナシ不可避とは男が不憫である。ジョーは思わず笑ってしまった。
「ハッ最高」
彼にエイムがいじめっ子のような笑顔を向ける。
「もしかして酔ってる?」
「久々だから……ちょっとな」
そう言いながらジョーが思い出していたのは1年前のあの日、エイムと出会った時のこと。
それはこうしてバーで酒を飲んだ夜だった。