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9-1.酒と本音と男と女

前回のあらすじ!


何と! エイムちゃんの両腕であるコーマ・アームは、元々ジョーさんが愛用していた『ワン・ショット・キル』でした! 両手はカウントダウンと共に元の姿へと戻っていきます。最後のカウントでジョーさんはワン・ショット・キルの銃口をブラックレパードへと定め、超高出力のエネルギー砲で狙い撃ち。一撃でブラックレパードを葬り去りました! やったぁ!

でも、所々で断続的に入っていた回想、あれはエイムちゃんがジョーさんと初めて出会った時の……? 『ワン・ショット・キル』と融合したって言ってたけど、それって……ううん、私は何があってもエイムちゃんのこと大好きだよ!


以上、恋する乙女ヒビキがお送りしました。

今回は久々に私の出番! がんばるぞ!

第9話 酒と本音と男と女


 ブラックレパードとの死闘を制し、ハンをシン・バンカーへ連れ帰った三人。

 日がすっかり落ちていたにも関わらず、彼等を待っていたのは大勢の人々だった。

 我等の英雄。人々は口々にそう言った。

 コーマ・アームを扱う強力な悪漢『マリグナンシー』を打ち倒す。バンカー守りの要であったプロテクターを死地から救ってみせる。エイムとジョーがこのバンカーに来てからまだ日は浅いが、彼らはそれだけのことをしてのけたのだ! ネムも、もちろん頑張った!

 エイムに至ってはバンカーの守り神として彫像が造られる話まで持ち上がっていた。本人の「出来たら試し殴りさせて」の一言でおじゃんになったが、この話の発案者であるくず鉄所の店主の目は死んでいない。おそらくエイム達が去った後は様々なグッズ展開が期待できるだろう!



 次の日、バーでは盛大な祝宴会が開かれた!

 バンカー長が額に浮いた汗をせわしなくハンカチで拭いながら、皆の前で挨拶をする。


「えぇ、えぇ。ネムさん、ジョーさん、そしてエイムさん。旅の方々でありながら、我等のバンカーに迫った危機の数々を救って頂き……」

「おぉい、コウド! よそ向けの話し方はやめぃ! 失礼だろうが!」


 話の途中で誰からともなくヤジが入る。そのヤジをきっかけにざわめきが広がっていき、最終的には大ブーイングが巻き起こった。ちなみにバンカー長の名前は『コウド・イズコ』である。特に覚える必要はない。


「そうだそうだ! この方達は恩人だぞ!」

「バンカー長だからってお高く止まってんじゃないよ!」

「このハゲー!」


 ブーイングは苛烈になっていき、この場では関係ない日ごろの鬱憤から身体的特徴に対する弄りなどのプリミティブ・ヤジに! これは酷い!

 初めは黙って聞いていたバンカー長だが、次第に頭に青筋が立ち始めた。


「黙らんか!」


 一喝。辺りが水を打ったかのように静まり返る。


「黙って聞いてればハゲだハゲだと……好きで禿げたわけじゃないわ!あ、あたた!叫んだから腰痛が……」


 バンカー長が呻きながら腰を押さえる。皆がどよめき、心配の声がところどころから上がる。

 すると、どこからともなく背筋の伸びた若い女性がすっと現れ、彼の腰に薬用湿布を優しく張った。加齢からくる腰痛などの『身体の衰え』は『医療カプセル』でも直すことは出来ない。昔ながらの方法が一番なのだ。

 バンカー長は「あー、いい」と恍惚の声を上げると、ずれた眼鏡を直しながら、ジョー達に向き直った。


「あー、なんだ。もう挨拶は省略しよう。ただ、これだけは言わせてくれ。本当にありがとう。君達の偉業は決して忘れない。我々はいついかなる時でも君達を歓迎すると約束しよう」


 そして、手に持ったグラスを高々と上げる。


「今日は私のおごりだ!存分に飲み、食いたまえ!」


 皆から大歓声が巻き起こる。全く、調子がいいものだ。


「我等の英雄に乾杯!」

「「乾杯!」」


 こうして、祝宴会は始まった。



 祝宴会では最初こそ老若男女入り混じってわいわいと騒いでいたが、次第に気の合うグループで別れていく。いつの時代、どんな世界でも、飲みの場とはそういうものだ。


「ジョー! 聞いたぞ。お主、エルドラドを目指しているようじゃの!」


 ハンが酒を片手にジョーと肩を組む。医療カプセルでの治療がまだ終わっていないのか、所々に巻かれた包帯や湿布が痛々しい。


「じぃさん、体はもう大丈夫なのか?」

「なぁに、これしき酒でも飲んでりゃ治るわい!」


 ハンは「がはは」と大きく笑う。ジョーは呆れたように口元を緩めた。


「元気だねぇ、ホント」

「それで、どうなんじゃ」


 ジョーはテンガロンハットをピンと弾く。読者諸氏はもうお気づきだろうが、彼は外だろうが、室内だろうが、テンガロンハットを滅多に取らない。何かのポリシーなのか、センシティブな理由があるのか、それは今の所不明だ。


「その通り! まさかふらっと立ち寄ったこのバンカーで手掛かりを掴むとは、ラッキーだったぜ。ま、代わりに色々と巻き込まれちまったがな」

「がっはっは、お主、『持ってる』のぉ!」


 バン、とハンがジョーの背中を叩く。怪我人とは思えない力強さだ! ジョーのグラスから酒が零れそうになる。


「おっと」

「おぉ、すまん。ただ、がっかりさせるようで悪いが、あの遺跡が『エルドラド』だとはまだ言い切れん」

「どういうことだ?」

「あの遺跡は一週間前にあった『大地震』で突如現れたものなんじゃ。外壁に描かれた『楽園への道』。『エルドラド』と読めんこともない掠れた表記。期待できるところはあるが、結局調査は何も進んでおらん。進展と言えば『入り口らしきもの』を発見したくらいじゃ」


 ジョーは首を竦めて見せる。


「十分さ。プレゼントの包装紙は自分で開ける性質でな。そっちの方がワクワクする」


 そして、パチンと指を弾く。


「じぃさんにゃ悪いが、その遺跡、俺達が攻略させてもらうぜ」


 ハンはニヤリと笑う。


「普段ならヨソモンなんぞに任せられるか、と息巻くとこじゃが、どうにもワシはお主を気に入ったぞ。好きにやってみぃ。誰にも文句は言わさん」


 ハンがたくましい右腕を差し出す。ジョーは鍛えられた左腕をクロスさせるようにガっと合わせた。おぉ、これぞ友情のサイン、クール・ハンドシェイク! 男とは、心で、拳で握手を交わすのだ!

 そんな二人をショーウィンドウに飾られたトランペットを見るがごとく、キラキラとした瞳で見つめる少年がいた! その少年の名はショウ。『ショウ・レイド』。ゲドー達に襲われたバンカーを救うべく、一人ネム達に助けを求めて走った勇敢な少年である。

 ショウはジョーに駆け寄り、話しかける。


「なぁ、なぁ、兄ちゃんってスゲープロテクターなんだよな!?」

「違うぜ、ボウズ。『超』スゲープロテクターだ」


 ジョーはショウの頭をワシワシとこねくり回した。ショウの目がいっそうキラキラと輝く。


「あのさ、オレ、オレ、プロテクターになりてぇんだ! 兄ちゃんみたいに、みんなから英雄って言われるような超スゲープロテクターに! どうやったらなれる?」

「あぁ? 俺みたいにだと?」


 ジョーはピンとショーの額にデコピンを加える。


「いてっ」

「はっはっ、そんなんやめとけ」


 その言葉にショウがシュンとする。ジョーは笑いながら続ける。


「俺を目指すなんて小さいこと言わず、俺が超スゲー! ってぶったまげるようなプロテクターを目指しな。で、えーと?」


 ハンが「ショウじゃ」とそっと耳打ちをする。


「ショウ!プロテクターってのはココだぜ。それさえ忘れなければ、きっとなれる」


 ショウの胸をトン、とジョーが拳で叩く。ショウは顔一杯の笑顔を咲かせる。


「うん!」


 そして、元気よく頷いた。ジョーも頷き返す。そして、自分の胸を親指で叩いた。


「夢を語れ。いつまでも、性懲りもなくな。ココを育てるにはそれが一番だ」


 ショウは叫ぶ。


「うん! オレ、絶対プロテクターになる! どんな悪党にも、コーマにも負けない正義のプロテクターに! 兄ちゃんよりすごいプロテクターに!」


 ジョーも立ち上がり、叫ぶ。


「そうだ! 俺はエルドラドへ行って機械の体を手に入れる!」


 ジョーは笑うとショウに向かって拳を突き出す。


「忘れるな。夢を語れなくなったら、プロテクターとして終わりだぜ」

「わかった!」


 その拳にショウの拳が合わさる。クール・ハンドシェイク! 小さな友情が芽生えたのだ!


「でも体はしっかり鍛えろよ」

「そうじゃな。鍛え抜かれた肉体こそ良いプロテクターの第一条件じゃ」


 ジョーの言葉にハンも頷く。


「よし、効率の良いトレーニングを教えよう」

「えっ。えっ?」

「ショウ。明日からワシと特訓な」


 さっきまでと打って変わって、嫌に具体的な話をしだしたジョーとハンに、ショウは困惑するしかない。彼等のトレーニング談義はその後、小一時間ほど続いた。

 そして、翌日からショウは筋肉第一主義に目覚めるのだが、それはまた別の話だ。



 ジョー達がトレーニング談義に花を咲かせているころ、エイムはネムと話をしていた。もとい、絡まれていた。


「エイムちゃんって、ほんと可愛いよねー。肌も白くてスベスベで、食べていい?」


 ネムが赤ら顔をエイムに近づける。完全に出来上がっている様子だ。


「その酒臭い口で私にふれたら、胸にぶら下げたふざけたモノもぎ取ってやるわ」


 エイムの言葉に抑揚はなく、顔の表情もいたって変化がない。本気である。一緒にいる友達となったバンカーの少女 ――そばかすがキュートな親思いの16才である―― ヒビキが困ったように苦笑いを浮かべた。


「え、エイムちゃん、もうちょっとこう、優しく、ね?」

「そうだそうだ!いいぞヒビキちゃん!」


 ネムがヒビキの肩を抱き寄せる。ヒビキは困ったように苦笑いを浮かべた。


「駄目よ、ヒビキ。酔っ払いに優しくしてもいいことなんてないんだから」


 エイムがヒビキを奪い返す。ヒビキは困ったように……いや、少し嬉しそうだ。


「ヒビキと飲んでるんだからアッチ行ってよ」


 ちなみにエイムとヒビキが飲んでいるのは水である。この世界に未成年飲酒法などは存在しないため、特に飲んでも問題はないのだが、彼女達はそもそも酒が好きではないのだ。


「なによー、すっかり仲良しってわけ? アタシもガールズトーク混ぜてよぉ!」


 負けじとネムがヒビキに抱き着く。ヒビキは困ったように苦笑いを浮かべた。


「……ん?」


 何かに気づいたネムが、確かめるようにワキワキとヒビキの体をまさぐる。ヒビキは「ひゃん!」と甲高い声を上げると、慌ててネムの手を振り払った。その顔は茹であがったタコのように真っ赤だ。


「ちょ、ちょっとネムさん!」

「ヒビキちゃんってゆったりしてる服だから気づかなかったけど、実は結構……」


 その言葉に絶望のオーラを出した人物がいた。エイムだ。ヒビキを見つめる青い瞳は深海のように仄暗い、正にアイズ・オブ・ザ・ジョーズ(無慈悲なる捕食者の双眸)。死ぬほど怖い。


「嘘でしょ、ヒビキ」

「エイムちゃん……? な、なんか怖いよ?」


 ヒビキはエイムの変わりように困惑するしかない。一つ言えるのは、彼女は何も悪くないということだ。ただただ不憫である。


「あなた、裏切り者なの?」

「え、裏切り? え?」


 捕食者はゆらりと立ち上がる。そして、憐れな少女へと襲い掛かった。



 女衆三人の様子をしっぽりと見守る二人の男がいた。

 エイムをナンパしたチャライズムに溢れた男、リトル・ジョンと特に活躍の場もなかったシン・バンカーのプロテクター、グラトンである。グラトンに関してはバンカー手前で倒れていた男、と言った方が覚えがいいだろうか。もうその時の傷はほとんど癒えているようだ。


「あの三人、いいな」

「あぁ、いい」


 まるで熟練の職人のような面もちで頷きあう二人。

 『分かっている』者同士が語る時、多くの言葉は不要。ここぞ、という時に一言あればそれで充分。そうとでもいいたげに、二人はエイム達へ生暖かい視線を一方的に絡めるのであった。


「ッ!!」

「ッッ……マイゴッド……!!」


 二人が同時に立ち上がり、同時に脛を打った。ヒビキが甲高い声で「ひゃん!」と悲鳴を上げた瞬間である。

 二人は痛みに悶えながらも、お互いの意志を確認するように頷きあった。


「揉んだな」

「あぁ」


 そして、がっしりと握手を交わす。しかし、まだ終わりではなかった。


「ちょ、エイムちゃ、やめ、あぁぁぁ!!」


 遠くでヒビキの悲鳴 ――少しうれしそうなのは気のせいであろう―― が木霊する。

 その様子を見て、二人は肩を抱き合い、少し涙を流した。

 この光景、一生忘れはすまい。

 彼等の後ろ姿は力強くそう語っていた。

 ただ、グラトンだけは「欲を言えばネムとエイムの絡みをもっと見たいな」とそう思った。この思いが後にこの二人の友情に亀裂を走らせることになるとかは本当にどうでもいいことである。

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