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間話4.戦いが終わって

 ブラックレパードとの戦いが終わった直後。

 ジョーからワン・ショット・キルを取り上げ、エイムは自分の腕に戻す。少しの距離くらいなら電磁力めいた力で吸着できるので一人でも作業は可能だが、今回はネムとジョーにも手伝ってもらっていた。


「よし、出来た」


 ネムがエイムの顔の血を綺麗にふき取り、満足げに頷く。腕の部分の衣服がビリビリに破れてしまっているが、それ以外はすっかり元通りだ。エイムは腕を軽く動かした後、二、三回手を握った。


「うん。砂とかも入ってなさそう。私達だと二人とも雑だから、結構苦労するのよ。ありがとね」

「え、エイムちゃんがアタシにお礼を……?」

「お世話になったんだから、普通でしょ?」


 それを聞いたネムが顔を綻ばせ、エイムに抱きつく。羨ま、微笑ましい光景である。


「よかった、嫌われてんだとばかり!」

「ちょっと! だから『イヤミ』なもん押し付けるな!」

「ご、ごめん」


 ネムがぱっと離れる。


「別に気に食わないってだけで、嫌ってないわよ。どうしたらそこまででかくなるのかしら? やっぱり食べ物……?」


 エイムが忌々しげにネムの実り豊かな胸を凝視する。ネムは助けを乞うようにジョーを見たが、会話に入るつもりもない彼は無言で首を振ると、ハンの所へと行ってしまった。


「あ」

「ちょっと教えてよ。なにかコツとかあるわけ?」

「いや、コツとか言われてもねぇ」


 あはは、とネムが笑う。笑うしかない。当たり前だ。おっぱいをデカくするコツなんてあるわけが無い。なるようになっただけなのだ。


「ずるいじゃない。隠しておくと為にならないわよ」


 ワキワキとエイムの手が怪しく蠢く。

 あ、これは……もがれる!

 ネムは直感した。何か言わなければ、あの剛腕でマジにもがれてしまう。過去の21年間生きてきた記憶を必死に辿って、問いに対する一つの答えを出した。


「あ、揉む! 揉むといいよ! いやーアタシも揉んだもんだわ! すっげー揉んだ! あっはっは! やっぱこれがよかったのかなぁ!」


 嘘である。自分で自分のおっぱいを揉んだことなどない。だって虚しくなるだけじゃないか。これは下品な男達によく言われたのだ。「そのデカいのになるまで、どんだけ揉まれてきたんだ?」と。当然そんな舐めた口をきいた相手は力でねじ伏せてきたネムだが、この時ばかりは下品な男達にちょっと感謝した。


「揉む……なるほど」


 エイムは納得したように頷くと、自分の荒れ果てた大地を慈しむように手を当てた。


「力加減が難しいわね」


 不憫。ネムの胸中は安堵と同時にそんな感情に支配され、そっと涙を流した。



「よぉ、じーさん。途中から放置されて寂しかったか?」


 ジョーがフローターバイクにもたれるハンに声をかける。ハンは目元の大きな古傷を歪ませ、大きく笑った。


「ハン・マーブルじゃ。若いの」

「ジョーだ。あっちにいるのが相棒のエイム・ニシノ。渡りのプロテクターをしている」


 二人は固い握手を交わした。そして、ハンは心底残念そうにため息をつく。


「にしてもやってくれたのぉ。『若い世代に後を託し、男ハンここに散る』っつー伝説ができるとこまではストーリー出来てたんじゃが」

「悪かったな。そいつは今度にしてくれ」

「そうするわい。救ってくれたこと、感謝するぞ。この恩は一生忘れん」

「じーさんに覚えられてもな。とりあえずメシでも奢ってくれればそれでいいさ」

「ぬかしよる」


 二人はニッと笑い合う。そこには確かな友情があった。歳がどれだけ離れていても、今さっき名を知ったような間柄でも、お互いが認めれば、それはれっきとした友なのだ。

 ハンの視線がエイムの方を向く。


「じゃが、あのお嬢ちゃんには驚かされたぞ。長いこと生きてきたが、あんなのは見たことも聞いたこともないわい」

「理由はいろいろあるが……」


 ジョーは肩を竦める。


「アイツはただの女の子さ。ちょっと丈夫なだけの、な」

「そうか。ならばこれ以上は何も聞かん」


 ハンは静かに頷いた。ジョーは無精髭に手をあて、ニンマリと笑みを浮かべた。


「あと、食い意地も悪い」

「聞かんとゆうたのに、お主はヒドい奴じゃ!」

「いや、言うね。アイツ、俺の秘蔵のナチュル・プリン勝手に食っといて何て言ったと思う? 「おいしかったよ!」だぜ? いい笑顔でそんなん言われちゃもう、「良かったな」としか返せねぇよ。ずるいんだ、アイツは。ずるい女さ」

「がっはっは! 確かにずるいのぉ!」


 話のタネは尽きない。



 男達は友情を深め、女達はおっぱいを揉む。そんな、死闘の後の夕暮れであった。


【戦いが終わって 終わり】

【超メモ】

・コーマは便利

 『コーマに捨てる所無し』。これは文明崩壊後に生まれた慣用句である。

 コアは本文中でも説明した通り、あらゆるもののベースになっているし、体はその材料として、配線の一本まで余すところなく利用することが可能であるからだ。本文中ではテンポを重視するため、表現を全てカットしているが、実はジョー達は倒した相手の残骸を回収している。余談であるが、この残骸を売って得られるクレジットがプロテクターの最大の収入である。

 改めて言うが、コーマは人類の天敵であるが、そのコーマがいないと人々の生活は成り立たない。なんとも捻じれた関係である。

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