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1-2.エイムとジョー

 ならず者達は目の前に立った無謀で憐れな生贄を前に舌なめずりだ。


「まぁだこのゲドー様に歯向かう奴がいるとはなぁぁ?」


 一際大きいフローターバイクに乗った男がいう。この赤モヒカンこそ、この悪党一味のボス『ゲドー・ゲヘナ』である。


「そのクソ生意気な度胸に免じて、俺様直々にぶち殺してあげちゃう!!」


 ヒョウっとゲドーが前宙しながらバイクを下り、少女の前に立つ。その巨大な体躯に似合わぬ軽業! 顔中に刻まれている大きな傷跡は伊達ではないということか。


「ボス、やっちまってくだせー!」

「ボスのアレ、アレが見たぁぁい!!」


 周りのならず者達が盛り上がる中、マントの少女は無言で立っているだけだ。


「うんうん、オーディエンスの期待に応えようかなぁ!」


 ゲドーはそう言うや、手首に巻いている装着具に蛇腹の鞭を取り付けた。


「そそり立てぇ!! 俺様のご立派ぁ!!」


 違う、ただの鞭ではない! その鞭は金属質の光沢を放っており、ゲドーの言葉に呼応するように柔らかくしなっていたはずのものが、固く一直線に剣の形を取ったのだ!


「ヒュー! 相変わらずデッケェ!」

「どうしたぁ! ビビッて声も出ねぇか!?」


 ゲドーはゲハハと笑う。


「大・勃・起! 『チェーン・ソード』! そのボロキレの下にある恐怖に歪んだ顔、見せてみなぁ!!!」


 いきなりの卑劣なる一閃! 少女の顔を覆っていたマントが切り払われる!

 そして、辺りは息を飲むこととなった。


 美しい。

 あまりにも美しい銀色の長髪であった。肌は全ての穢れを受け付けぬかのように白く、ゲドーを真っ直ぐに射抜く瞳はカリブの海を思わせる透き通る青であった。

 その造形は神の作りし奇跡、そう言っても過言ではない。

 少女の目の前にいる男達が芸術を少しでも理解していれば、ただちに平伏し、震えて許しを乞うていただろう。だが、目の前にいるのは ――誠に無念であるが―― そのような心を一欠けらも持ち合わせていない、ならず者集団なのだ!


「マジかよ、とんでもねぇ上玉だ!」

「若すぎ、いや、関係ねぇ!!」


 下半身でしか物事を考えない下種な男達には、少女は『今まで見たこともないような最高の女』というレベルでしか評価されなかった。


「ああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁッ!!おうっ」


 ただ一人、違う反応を見せたのがならず者のボス、ゲドー・ゲヘナである。

 彼は少女の姿を見て、恍惚の表情で雄叫びをあげた。

 それに慌てたのが周りの男達である。


「や、やべぇ! ボスの悪い癖だ!」

「キレイなもんみるとぐちゃぐちゃにしちまう! やめてくれぇ! その前に楽しませてくだせぇ!!」

「だめだ、止められねぇ!!」


 歪んだ性癖、その名は破壊衝動!

 ゲドーは恍惚の表情でチェーン・ソードを振り上げる。


「はぁ、はぁ、今から俺様のご立派でぇ、その顔メタメタにしてぇ……」


 チェーン・ソードが振り下ろされる!! おしまいだ! 可憐な少女にその凶刃を防ぐ手立てなどあろうはずがない!


「あげゆっ!!!」


 あわれ、美しき少女はその身が血に……染まらなかった。

 振り下ろされたはずの剣が中ほどから無くなっている。少女は無傷だ。


「??」


 しばらくして『折れた』剣先がゲドーの目の前に落ちてくる。


「お、お、お」


 それを見て、つい今しがた起きたことをゲドーは認識する。認識はしたが、あまりにも常軌を逸しており、理解をすることは叶わない。


「俺様のご立派ー!!??」


 チェーン・ソードがぶち折られた ――それはテクニックで行われたのではなく、力任せで荒々しかった―― 目の前の少女に。それも、素手で。

 次の瞬間、開いていた手は拳を握り……あぁ、なんということだ。その拳は、ゲドーの男性自身を打ち砕いた。


「こっこあぁっッッ!!!???」


 ゲドーが膝から崩れ落ちる。


「お、俺様の……ごりっ……ぱ……」


 その一言 ――言い残すことができただけでも大したものだ―― を最後にゲドーは意識を失った。他にも色々失った。

 少女が腰まであるかという銀髪をなびかせ、美しい顔を凶悪な笑みに歪める。


「チンケ、の間違いね」


 自分達のボスが倒れされた。それも成人にも満たなそうな年端もいかない少女に。

 その一種の冗談とも思える事実をならず者達は受け止めきれずにいた。

 仲間の一人が、少女が無造作に投げ飛ばしたフローターバイクの下敷きになるまでは。


「ぼ、ぼ、ぼ、ボスゥゥッ!!?」

「野郎、ぶっ殺せぇ!!」

「化け物だぁぁ!」


 事実を理解した時、その反応は様々であった。立ち向かう、腰を抜かす、逃げ出す。


「一人残らず、潰してあげる」


 少女はその全員向かって平等にそう言った。

 一体何を潰すというのか。悪魔の笑みを浮かべ、悪魔のようなことをいい、悪魔のような力を振るう。少女は、まさに悪魔であった。

 ならず者達は一人、また一人と銀の悪魔に殴り倒されていく。立ち向かった者、腰を抜かした者、逃げ出した者、その全て。

 いや、一人だけは逃げ出すことに成功している。


「こんなの聞いてねぇ、聞いてねぇ!!」

「へぇ、ならこれは聞いたことあるかい」


 メコ、という鈍い音と共にならず者最後の逃走劇は終焉を迎えた。白目を剥いて彼は大地へと倒れ伏す。


「どうだい?俺の裏拳の音色は?」


 そう言うのは『あの』テンガロンハットの男であった。後ろにはくず鉄所の店主もいる。

 テンガロンハットの男が悪魔の少女に向かってウィンクする。


「よぉ、相棒。随分暴れたな」

「ちょっともの足りないけどね」


 少女は倒れているならず者のケツを踏みつけた。


「こいつら、いくら位になるかしら?」

「さぁな。とりあえず今晩はベッドにありつけそうだ」


 いそいそとテンガロンハットの男は気絶したならず者達の体を改め始めた。そういう趣味というわけではなく、追剥だ。なんにせよ酷い話である。


「あ、あんたらは一体?」


 世間話でもしているかのような二人に、くず鉄所の店主が恐る恐る聞く。

 テンガロンハットの男は振り向くと、ニヤリと笑った。


「俺はジョー。根なし草のジョー。しばらくこのバンカーに厄介になるぜ」


 少女もトコトコと歩み寄ると、店主にちょこんとお辞儀をする。


「私はエイム。よろしくね、おじ様」


 そして、ニコリと笑う。先ほどまでとは打って変わってまるで作り物のような完璧な笑顔だった。


「は、はぁ、よろしく」


 戸惑う店主に対して、ジョーが急に肩をがっしりと掴んだ。


「そうだ! カルチ・パンは4つでいいだろ! な!」



 ここは栄華を極め、種の頂点にいた人類がその王座から蹴り落とされた後の世界。

 生き残った人々は草木も育たぬ荒野に『バンカー』を作り、身を寄せ合って懸命に生きていた。

 その世界に生きる『ケチな』ジョーと『美少女』エイムこそ本作の主人公である。

 ひょんなことから出会った二人は旅を共にする『相棒』同士。

 果たして彼等はこれから何を見て、誰と出会って、何を成すのか。

 二人の物語はまだ始まったばかり……


【エイムとジョー 終わり】


次回予告!(担当:エイム)


旦那が私の稼いだお金で酒を飲むといいだした!

待っとくれアンタ! それは大事な大事な生活費(パァン! ←平手を打つ音)

およよ、私ってば何て不幸なの……


次回、第2話 二人の出会い SIDE:ジョー


あなたのハート、狙い撃ち!!



【超メモ】

・カルチ・パン

 緑色のこぶし大のパンである。とてもまずい。だが、栄養と腹持ちはかなりのものであり、一つ食べれば一日何も食べなくても大丈夫なほどである。

 カルチという言葉は『培養物』 ――栄養強化や成長促進は当然されている―― を意味しており、カルチ・ザブトンやカルチ・ジャンパー ――使い心地は当然良くない―― など食べ物ではなくても使われる。

 逆に自然に成長したものは例え養殖などであっても、ナチュルと呼ばれ、味や品質が良いため大変重宝される。

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