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間話3.扉

 新しく見つかった遺跡にて。

 二人の男がキャンプの片づけをしていた。この二人はシン・バンカーのプロテクターである。本当はあと2日は遺跡調査の予定だったが、ショウのタレコミによりバンカーをマリグナンシーが襲っていることを知り、予定を切り上げて帰ることにしたのだ。


「あの『おてんば』で大丈夫かな」


 若い男が初老の男に話しかける。若い男は一人先に帰したプロテクター、『ネム・ビット』のことを心配しているようだ。


「適任じゃろう。何より、アレで腕は立つ。」

「やっぱり全員で行った方がよかったんじゃ……」

「敵わんと見たら戻ってくる。それくらいの判断はつくはずじゃて」

「でも」


 うーんと若い男は唸る。初老の男は目元についた大きな古傷を歪めて、下卑た笑みを浮かべた。これは人生の大先達にありがちな全ての状況を把握した上でのお茶化し姿勢だ!


「なんじゃグラトン。ネムを好いとるのか? まったく、気のないフリをして。ムッツリじゃのう」

「な、ち、違う! オレはただバンカーのことを心配して!」

「気持ちはわかるぞ! アレは男のロマンじゃからのぉ!」


 若い男、グラトンは顔を真っ赤にして否定する。こうもわかりやすい反応ではこの狡猾な冷やかしを躱すのは無理である。

 初老の男はがははと、おかまいなしに笑った。


「ワシも妻と出会う前ならのぉ! 今頃お主とは恋のライバルじゃ!」

「元気すぎるだろう……あ、いや。ほんと違うから」


 こうなってしまうとグラトンに出来るのはこの話題を切り上げることだけだ。相手を無視して、彼はキャンプの片づけを急いだ。

 ニヤニヤと、その様子を初老の男は見つめている。


「まぁ、しかし諦めろ。女だてらに渡りのプロテクターをやるような奴だ。ああいうのは行きずりの男になびくような真似はせん。眺めるだけで満足するんじゃな」

「わかってるよ」

「本気なら理解。一生を尽くす覚悟。この二つが必要じゃ」


 そう言ってふと初老の男は遠い目をした。


「ハン……」


 グラトンが初老の男、ハンを見る。


「ワシの昔話聞きたい?」

「手が止まってる」

「かー! これだから今時のワカモンは! この構ってほしいオーラを無視するとは!」


 ハンは文句を言いながらキャンプの片づけを再開する。

 一矢報いたグラトンは満足げな笑みを浮かべた。



 片づけも終盤に差し掛かったころ、グラトンがハンを呼び寄せた。


「なんじゃ。うんこか」

「これを見てくれ!」


 見てくれと言ったのはもちろんうんこではない。

 グラトンが膝をつき、地面の土を一心不乱に払う。

 次第にハンの顔が驚愕に満ちていく。


「これは……!」


 作業を終えたグラトンは顔を上げ、ハンに笑いかけた。


「これだよ、入り口はきっと!!」


 現れたのは大きく『06』と書かれた取っ手付きのさび付いた鉄門。グラトンが踵を思い切り打ち付けると中が空洞であることを示す反響音が響いた。


「この上でキャンプしてたから気づかなかったんだ……伝説のエルドラド、もしかしたらこの目で見れるかもしれない!」


 グラトンが目を輝かせる。

 この新しく発見された遺跡は外壁は見えていたものの、どこにも入り口が無く、調査が難航していた。しかも、外壁には伝説の『エルドラド』を示すと思わしき記述を見せつけておいて ――期待感だけを煽るように―― である。

 それが特に成果も得られず帰ろうとした矢先に、状況を打破するものが目の前に出てきた。興奮の大絶頂であろう。

 ハンはそんな彼を宥めるようにため息をつく。


「確かに、外壁にそう読み取れる部分はあったがの。ここがまだ『本物』と決まったわけじゃないじゃろ」

「何だよハン! こっちのロマンには興味ないのかよ!?」

「馬鹿いえ」


 ハンの顔は歓喜に歪んでいく。歳を感じさせない精力的な目つきであった。


「こちとら、ロマンを追い続けて30年。バリバリの男の子よ! ちょっくら味見と行くぞ!」

「流石ハン! ネムにはちょっと悪いな……」

「後で土下座でも何でもするわい! がっはっはっ!」


 そう言ってハンは扉に手をかけた。


【扉 終わり】

【超メモ】

・エルドラド

 プロテクター達の間に伝わる『そこに行けば望むすべてが手に入る理想郷』と言われる伝説の都。今ではほら話、笑い話の類だとするものと、伝説を信じる者は半々くらいといったところだ。口伝なので、言う人言う人で話の内容が変わる困った伝説でもある。真実は一体どうなのか。それはこれから明らかになる……かもしれない。


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