第三話 奴隷って
「母ちゃん」
ドーガスが驚いた顔で呟く。母親なのか?
「子供の食い扶持の一人くらい大したことはないさ。それで大銀貨6枚だよ? 断る理由はないだろ。あー、でも部屋が無いのは確かなんだよ」
「奴隷部屋でいいですよ。ベッドさえ用意してもらえるなら」
「それなら決まりだ。ついといで」
奴隷商人と別れた後、女の子の奴隷と一緒にドーガスの家に向かう。
奴隷商人は厄介払いができたとほっとしているだろうな。
ちなみに契約内容は申し出があればすぐに契約解除できる契約奴隷と言うちょっと変わった内容だ。自由に動き回りたいしね。
奴隷にはいくつか種類がある。
まずは、犯罪奴隷。
これは犯罪者への刑罰としての奴隷で、鉱山などの危険な場所で働かされたり、戦争の際に最も危険な場所に行かされたりする。
終身刑と死刑の間くらいとも言えるし、自殺できないので死刑よりきついとも言える。犯罪奴隷に関しては生命の保証が無く、自殺禁止の項目があるんだよね。
次に契約奴隷。
これは就職の一形態と言える。
何故この制度があるかと言うと、身元保証が無いせいだ。
知り合いでもない赤の他人を雇うのはなかなか難しい。雇った者が実は盗賊の一味だった場合、売上金や店の品を持ち逃げされるかもしれないし、人気のないところで刺されるかもしれない。
逆に雇われる側も閉じ込められて強制労働とかされてはかなわない。
契約書の定型文に互いの財産を盗まないとか、犯罪行為に加担しないとか書かれていて契約魔法で保障されるのでお互いに安心できるという訳だ。
なら、奴隷じゃなく契約社員とか雇用契約と言えばいいじゃない?と思うのだけど、奴隷は税が免除されるので、あえて奴隷という扱いにしているそうだ。
奴隷からすると食事と寝る場所も確保できるしね。個人で部屋を借りようとすると高くつくし、信用が無いから敷金もかかるんだよ。自炊道具とかも揃えるとお金かかっちゃうし、初期費用は抑えたいよね。
一方、雇用側からすると寝坊とかで遅刻されることも無いし、店や倉庫と同じ建屋内で寝かせておけば防犯にもなると。
もちろんお互いが納得すれば普通の雇用契約を結ぶこともできる。親元から通う人とか家族持ちとかだとこっちを選ぶ人が多いそうだ。その場合、親や大家が身元保証人になるので敷金はかなり高いらしい。
最後に戦争奴隷。
契約奴隷の一種で、敗戦国が賠償金の代わりに差し出す。
一般の契約奴隷と違い国などが評価したランク毎にノルマがあり、それを達成すると解放される。
今回はヒューマン族とドワーフ族の村同士で争いがあり、負けたヒューマン族のトランジット村の村人が奴隷として売られることになったのだが、所詮ただの村人なので奴隷としてのランクは最低で競売形式で売りに出されたわけだ。年季は5年だったかな。多分お金目当てではなく、再び争いを起こさないように抑止力と言うか見せしめだろうな。
「ここが我が家さ。入っとくれ」
さして大きくない家には小柄な女ドワーフと俺より少し年長に見えるヒューマン族の子供がいた。
「さあて、紹介しようかね。あたしはドーガスの母親のフーチェ、この娘は嫁のミーラム、こっちは奴隷のトムさ」
「こんにちは。今日からご厄介になるユウスケです。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると家にいた二人が不思議そうな顔をしている。
「ユウスケは奴隷なの?」
ミーラムさんの疑問はもっともだな。
「いや、ユウスケは下宿人といったとこかね。大銀貨6枚で1年間住むことになったから食事はあたしらと同じにしとくれ」
「大銀貨6枚?」
ミーラムさんが驚いた顔をしている。田舎の村は現金収入が少ないんだろう。
「では早速今年の分を」
袋から大銀貨6枚を取り出しテーブルの上に置く。
さっと、フーチェが手を伸ばして銀貨を手に取り数を数える。
「確かに受け取ったよ。で、そっちが新しい奴隷だ。自己紹介しな」
「フ、フウカです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる娘。フウカっていうんだね。
「早速ですが、部屋を見せて貰えますか?」
「ああ。トム、お前たちと同じ部屋だ。案内してあげな」
「お客なのに俺たちと同じ部屋なんですか?」
「そういう約束だからね。何か文句があるのかい?」
「い、いえそんなことないです。こっちです」
トムに案内された部屋は狭くて何もなかった。
床に毛布のようなものが落ちてる他はこれと言ったものが無い。
ベッドはどこ行った?
あと隙間風が入ってくるらしく、かなり寒かった。
「この部屋寒くないか?」
「……」
トムは黙ってるが寒いのだろう少し震えている。フウカに至っては体を両腕で抱きしめて明らかに寒そうだ。外より寒いはずは無いんだけど、さっきの部屋で一度温まったせいか外より寒く感じる。
最初の部屋に戻ると、さあどうぞと言わんばかりの顔をしてフーチェが待ち構えていた。
「あの部屋なんだけど」
「他に部屋はないよ」
「ああ、それはいいんだ」
「おや、いいのかい?」
文句を言われると予想して身構えていたんだろうな。構わないと言われて拍子抜けしたようだ。
「壁や床の修理をしても構わないかな? あとベッドとか毛布も」
「そりゃ構わないけど、自分でできるのかい?」
「壁の穴を埋めるくらいならね。あと大きな布を売ってるお店無いかな?」
「広場にあるマーサの店に行くといいよ。何でも売ってる雑貨屋だから」
家を出て広場に向かう。奴隷と言っても自由行動できるので助かるね。
来るときにも思ったけど、ドーガス家って村はずれに建ってるな。近くに他の家が無いぞ?
広場に着くと他の家より幾分立派な建物が見つかった。
「ここかな」
ドアを開けるといろんな商品が目に飛び込んできた。
「凄い品数だ!」
驚いた俺の声に満足そうな顔をした老婆が反応する。
「うちはこの辺りじゃ一番の品ぞろえさ。足りないものがあったら言ってくれれば取り寄せもするよ」
地方のスーパーと言ったところか。
お、武器も売ってるぞ後で買っておこう。
「ベッドを作りたいんだけど、この辺りのベッドってどうやって作るのかな?」
「そうだね、大きな袋を作って中に藁を詰めるのが一般的だね。お金持ちなら中に綿を詰めたりするけどね」
スプリングは無しで綿はあると。
「そうなんだ。じゃあ、その袋と藁を売って貰える?」
「ベッドが欲しいのかい?」
「うん、2つね。それと体にかける毛布も3枚欲しいんだけどあるかな」
「勿論さね。じゃあ中に藁を入れて届けてあげようか。フーチェのとこだろ?」
もう顔を覚えられてるぽいな。ヒューマン族だし大騒ぎの中心だったからしかたないか。
「うん、そうだよ。届けてくれるのならお願いしようかな」
「任せときな。他に入用なものはあるかい?」
「あとは床に敷く厚手の布と、床の穴を埋める粘土が欲しいな。それとあの弓矢を見せてくれる?」
「そりゃ構わないけど、これはまだ坊やには無理だと思うよ」
そう言いながらも壁にかかった弓を手渡してくれた。
飾り気のない実用本位の弓といったところだな。ぐっと引き絞る。
「おや、すごい力だね。こんな細い腕なのに大したもんだ」
「いい弓だね。それじゃあこの弓と矢を20本ほど貰えるかな。あと食料と背中に背負える袋と腰袋、丈夫な紐も一巻き欲しいな」
あの家の状態だと食卓に肉が出るのか怪しいもんだ。自力で解決しよう。
「ずいぶんお買い上げだね、ベッド用の袋が銀貨1枚、藁はサービスしとくよ。毛布が3枚で銀貨5枚と。絨毯は結構高いから、馬車で荷物を運ぶときに使う丈夫な袋があるんだけど、これならタダで分けてあげられるけどどうする?」
「ありがとう、それでお願いします」
「ほいよ。粘土も大した量じゃないからおまけしとくよ。弓がちょっと高いね銀貨7枚するけどいいかい?」
「うん。弓は必要だからね。それと追加でこのナイフもお願い」
「はいはい。弓が銀貨7枚、矢が矢筒付きの20本で銀貨2枚、ナイフが銀貨2枚、背負い袋と腰袋はこれとこれでいいかい?」
「うん」
「じゃあ両方で銀貨1枚、紐は何種類もあるから選んどくれ。あと食料は日持ちする奴だと乾燥肉と干し芋かね。狩りに行った先で食べるんだろ?」
「そうそう。おばちゃんよく分かるね」
「ほほほ。長く生きてるからねえ。坊やこそ随分手馴れてるじゃないか、若いのに大したもんだよ」
「生まれてからずっと旅暮らしだったから。あ、水袋忘れてた。紐はこれで水袋はこれでお願い」
「はいよ。両方で銀貨1枚。食料は銀貨1枚分でこのくらいだね。えーと、占めて銀貨21枚。いっぱい買って貰ったから20枚におまけしてあげるよ」
「ありがとう。助かっちゃった。それじゃあ、はい大銀貨2枚。それとあと1枚両替をお願いします」
「ありがとよ。ベッドと毛布それと床に敷く袋は後で一緒に届けるとして。それ以外は今持っていくかい?」
「うん。弓矢と腰袋以外は背袋に入れて下さい。で、矢筒をこう背負って腰袋と」
受け取った背袋と弓を背負って完成。
「それじゃあまたね」
店を出て周辺マップを表示させる。馬車の中で色々試してみたけど、周辺の生き物を選択表示させることができる優れものだ。
サイズをネズミ以上にして、ドワーフを対象外にする。北の方に何匹か固まっているようなので向かうことにしよう。
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突然ブックマークが3倍に増えたよ!
赤いのか! 赤い人が来たのか?
お願い
・この展開は不自然
・これは理屈に合わない
・この設定は無茶
・誤字脱字
等々ありましたらご指摘いただけるとありがたいです。
ご指摘いただいた点をすべて修正できるとは限りませんので
その点ご了承ください。
ブックマークについては後書きに張り付けたかったんですけど
ダメみたいっすね。