第六話 信仰神って
「目が覚めたかな」
突然聞こえた声に反射的に目を開くと真っ白な壁が目に入る。
「病室? あれ、この展開……デジャヴ?」
顔を上げると大きなテーブルの前に男が座っている。
「あ、違う人だ」
「わしはこの世界のヒューマン族の神じゃ。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
あ、もう転生したのか。素早く立ち上がって深々と頭を下げる。第一印象が大事なのはどこも一緒だろうから。
「早速だが、君にはヒューマン族の王子として生まれてもらう」
「王子ですか」
「うむ。子供のころから英才教育を受け、優秀な兵と共に魔物を退治し英雄と呼ばれるようになってほしい」
「王子で英雄……」
「なに、最初から数々の能力を付与されておるのじゃ難しい事はなかろう。神に愛されし赤子として生れ落ちるのじゃからな」
「はあ」
あの人に調子に乗るなって言われたのを思い出した。
「なんじゃ気のない返事をしおって。心配するな。国一番のイケメンにしておくからハーレムも思いのままじゃぞ。ワハハ!」
ハーレムかー。ちょっと楽しそうだな。思わず顔がほころぶ。
「お、現金な奴め。では能力の付与と行くか。うーん、回復、土、風か」
「え? どうしました?」
「地味じゃ」
「はい?」
「英雄の王子が土魔法と風魔法はなかろうよ。炎と光にせんか? それに罠探知、罠解除って王子のすることじゃなかろう? 周りの付き人がやることじゃろう?」
「はあ……」
「よいな、光魔法と火炎魔法にするぞ。さて、どのくらいの威力まで使えるかの……はぁ? なんじゃ計測失敗? 疲れとるんかの? いかんいかん」
神様が何度か目をこすったり、顔を両手で叩いて気合を入れ俺を見つめる。
「おかしいのう。なんで調べられんのじゃ?」
「どうしたんです?」
「いや、おぬしの持っとる魔力量を調べたいんじゃが……まさか、魔法を使えぬのか?」
「え? あー、魔法の無い世界で暮らしてたんでそのせいかな?……いや、そういえばここに来る前に何度も複製魔法を使いましたよ」
「複製魔法? どのくらい使ったんじゃ?」
「えーと、100回くらいかな?」
「そんな訳無かろう。複製魔法ちゅうのはかなりの魔力を使うんじゃぞ。相当な魔力持ちでも100回も……魔法の無い世界だったと言わんかったか?」
「ええ。魔法を覚えたのも使ったのも死んでからです」
神様の表情が強張ったような気がした。
「もしかして、あの方の所で使ったのか?」
「え? あの方? ここに来る前にお世話になったあの人の事ですか?」
「人な訳無かろう。三千世界の魂を司る、いと高きお方じゃ」
「あ、確かに人じゃないですよね。あそこで持ち込むアイテムを複製していいと言われたので初めて魔法を使ったんですよ」
「なるほどのう。それで合点がいったわ。あそこは魔力が無限にあるからのう。使うそばから補給されたんじゃろう。普通は恐れ多くて魔法など使えん場所なんじゃぞ」
「あ、そうだったんですか。割に気軽にOK貰ったんで、それに複製したアイテムはほとんど置いて来ましたしね」
今度は両手を上げて首を振り出したぞ。アメリカナイズされてるのか?
「何を言っとるのか分からん奴じゃな。こっちに持ち込むために複製したのに置いて来てどうするんじゃ? もう取りには行けんぞ?」
「いえ自分の分は持ってきたんですよ。あの方が好きなお酒をついでに複製して差し上げたのでそれは置いてきたということです」
「なるほど酒をのう……酒?」
「ええ、これです」
日本酒を一本取り出して差し出す。
それを見つめる神様の顔がみるみる青ざめていく。リアクション豊富だな。
「お、お前それを盗んできたのか?」
「なわけないでしょ! 持ってっていいって言われたから貰ってきたんですよ」
「そ、そうか。はぁ、驚いた。そんなもの盗んできておったらこの場で地獄送りにせにゃならんとこじゃった」
「なんですかその物騒なセリフは!」
まだ転生してないのに地獄送りとか無茶言うおっさんだ。
「それは神酒じゃ」
「神酒?」
「そう、それもあの方に奉納されてお近くに置いておかれたのじゃろう。恐ろしいことになっとるぞ」
「え? これが?」
「鑑定の力はもう付けておる。鑑定してみい」
言われるままに鑑定してみる。
「神酒 超特級?」
「そうじゃ、他では手に入らぬ一品じゃ」
「どんな効き目が?」
「一滴で死んだ者も生き返るじゃろうな」
「エ、エリクサー?」
「そんなところじゃ。それが一瓶丸ごともあったら何人生き返らせることやら」
もう一瓶そっと取り出す。
「はぁ? なんで二瓶も持っとるんじゃ! お主何本複製した?」
「えーと、2の35乗だから340億本くらい?」
「は? 何を言っておるんじゃ?」
「いやだって20億年くらい仕事してるって言うし。この先のこと考えたらそのくらいいるかなーと」
「お主、バカじゃろ!」
「えー!」
「エリクサーを一升瓶で340億本も作る奴がおるか!」
「だって、すごくおいしいって言ってたし」
「……神酒の使い方としては正しい」
「正しいんだ」
「そりゃ神が飲んでこその神酒じゃからな」
「なら問題ないんじゃ?」
「問題大有りじゃろう……お主が」
「え? 俺ですか?」
話の方向が変わってきたぞ。おっさんの顔が真面目になってるし。
「よいか。エリクサー一升を作るのにどれだけの魔力を使うと思う?」
「さあ? そう言われても」
素人の俺に判る訳ないやん。
「なら、死んだ人間を生き返らせるとしたら?」
「そ、それは凄く大量に必要なんでしょうね?」
「当り前じゃ! だからこそ簡単には復活なぞ出来んのじゃ」
「なるほど」
そりゃそうだろうな。死んでいく側からどんどん復活出来たらゾンビ戦法に歯止めが利かないだろうし。
「それを一升瓶に340億本も作ったんじゃぞ!」
「だからそれは良かれと思って」
しつこいな、このおっさん。それに半分はワインボトルだし!
「問題はそこじゃない!」
「え?」
何が言いたいんだろう?
「それだけの魔力がお主の中を流れたという事じゃ」
「中を流れた……」
よくわからない。
「実体があったなら絶対に不可能な事じゃ」
「はあ」
そういうものなのか?
「そんな魔力の激流に耐えられる肉体などありえんわ」
「なるほど」
魔法にもいろんな限界があるってことかな?
「本来なら魂とて持ちはせぬ。おそらくあの方の加護があったのじゃな」
「加護ですか」
「そうでなくては説明がつかぬ」
「なるほど」
つい調子に乗っちゃったんだよなー。タダでいくらでも増やせたから。貧乏性な自分を笑ってしまう。
「で、問題はじゃ」
おっと、話の途中だった。
「問題?」
「あまりに膨大な魔力が流れたおかげで、お主のキャパシティがおかしなことになっちょる」
「キャパシティ?」
「保有できる魔力量じゃな」
「大きいと?」
「わしでは測りきれんほどにな」
「それって」
「魔力量だけならわし以上。つまり神を超えておる」
「うへ」
「うへ、じゃないわ。困ったのう」
神様でも困った顔できるんだな。信者には見せられない顔だな。
「何かまずいことでも?」
「いくら何でもチートが過ぎる」
「チートですか」
「神を超える魔力を持った助っ人じゃぞ? それが王子で勇者じゃ。他の神が黙っておるわけなかろう」
「どうなるので?」
「同じ様な、とはいかんじゃろうからだいぶ質が落ちる助っ人を大量に投入してくるじゃろうな」
「ほほう」
なんか大したことなくね?
「数に頼れば質が落ちる。おそらくそこら中で争いが起きて世の中は大混乱になるじゃろう。他の神々が連合してわしに当たってくるかもしれん」
「大変ですね」
「他人事みたいに言うな! お主も一蓮托生じゃ!」
「えー」
「えー、じゃない!」
「だって、俺まだ生まれてないし」
「何が生まれてないじゃ、甘えおって……生まれてない? そうじゃ!」
「何か思いつきました?」
なんだか悪い顔をしてるな。
「王子は無しじゃ!」
「へ?」
「勇者も無し!」
「はい?」
「目立たぬようにひっそり生きるのじゃ」
なんだよそれ。
「イケメンのハーレムは?」
「無し!」
「えー、話が違うよ!」
「仕方なかろう! 世界戦争を起こしたいのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
ハーレムが……。
「ひっそりと魔物を倒しまくるのじゃ」
「いや、そればれるでしょ? 倒しまくったら」
「む。ならば他の者の手柄にすればよい」
「はあ?」
「お主、魔物使いじゃったな」
「希望はそうですね」
「たまたま優秀な魔物の主人になるのじゃ!」
「それで?」
「魔物を倒せたのは優秀な使い魔のおかげ。それでいこう」
「俺は?」
「土・風・回復魔法で支援じゃ」
「光と火炎では?」
「無し!」
「なんだかなあー」
「しかたない、大地と風の精霊も付けてやろう」
「精霊?」
「今回あの方からの斡旋があったことは他の神々も知っておる。じゃから多少の事は目をつぶるじゃろう。お主はたまたま大物精霊と契約ができ、強い魔物を従えることが……いや育てることができたということにしよう」
「育てる?」
「魔獣の子供と契約し、それを強力に育てるのじゃ」
「はあ」
「どこか目立たぬところで……うむ、いっそのこと」
お願い
・この展開は不自然
・これは理屈に合わない
・この設定は無茶
・誤字脱字
等々ありましたらご指摘いただけるとありがたいです。
ご指摘いただいた点をすべて修正できるとは限りませんので
その点ご了承ください。