第四話 魔王って
「しかし、それだと記憶を持った転生って不味くないですか?」
「ほぼ影響がありません」
「え? あれ? さっきは凄い問題あるようなことを……」
「ほとんどの場合、無視されます」
「無視ですか?」
「影響力のない人間が何か言っても拡散しませんから、すぐに忘れられます」
街頭演説してるおっさん扱いなのか……。
「世間に影響力を持ったあと同じことをした場合、転生者が殺されます」
「ええ!?」
「そりゃそうでしょ。ほとんどの権力者や資産家を全部敵に回すようなものですから。奴隷の暗殺者が何十人と送られてきます」
むむむむむ。
「平和ボケした頭で薄っぺらい正義感を振り回すとすぐ死ぬので、注意した方がいいですよ」
「は、はあ」
「納得していないようですが、もしうまくいった場合」
「うまくいった場合?」
「魔王と呼ばれることになるでしょう」
「はあ? なんですかそれ?」
いいことをして魔王って意味わかんないよ。
「世界中の王侯貴族を無理やり廃止させて、犯罪奴隷を含むすべての奴隷を開放し世界を混沌の渦に巻き込み、逆らうものは暴力で排除する。そりゃ魔王と呼ばれても仕方ないですよね」
「そ、それは……やり方が問題なのでは?」
「奴隷の主や貴族たちを言葉で説得できるとでも? それは素晴らしい考えですが、実際には何人もの記憶持ち転生者が魔王と呼ばれたまま人生を終えました。自ら犯した罪に耐え切れず気がふれるか自殺して。なんとも無責任な連中です」
「犯した罪……。具体的にどんなことがあったんですか?」
自分でそんなことをするつもりは無いけれど、聞いておけば参考になるかな。
「奴隷制度を廃止するというのは結局、身分制度を廃止するという事です。貴族に逆らえば殺されるのであれば、奴隷から平民と呼ばれ方が変わったところで大差ありませんから」
名前を変えるだけじゃダメってことか。まあそりゃそうだな。
「王や貴族を廃止するとその国は滅びます。王国に王がいないのですから当然の結果です」
そこは共和国とか名前を変えればいいんじゃないのかな?
「国には法がありますが、まず間違いなく最初の文章に王は絶対だと書かれているはずです」
なるほど、統治者である正当性を主張するわけだ。
「なので、王制以外の制度を取るのであれば、法を作り替える必要があります」
うんうん。
「誰が法を作るんですか?」
えっ?
「王を倒したのはあなたです。さあ、誰が法を作りますか?」
「お、おれ?」
「作れます?」
「無理です」
「すると無法地帯になります、守るべき法がありません」
な、なるほど。
「人殺しや盗みが横行します。犯人を捕まえても人を殺してはいけないという法が無いと言い逃れます。さあどうします?」
「牢に入れる?」
「法が無いのに何の権限もない者が牢に入れるのですか。それはただのリンチですね。人さらいと大差ありません。勿論罪にはなりませんよ、法が無いんだから。つまり強いものが何をしても構わない世界ですね。なら最初の殺人も問題ないですよね」
むむむ。
「王国で貴族を追い出すという事は、知識層のほとんどを追い出すことになります。残った平民で法整備を行ったり、まして民主主義を実践するとか無茶ぶりもいいところです」
教育を受けていないという事か。民主主義は考え方そのものが無いと。
「それにその国の通貨、**王国金貨などは使えなくなります。滅びた国の通貨ですから」
「え? どうしてです?」
「金貨が使用されている場合、まず金本位制と考えられます。つまり貨幣に対する金での価値、乱暴に言ってしまうと金貨一枚に含まれる金の量を発行した国家が保証するわけです。ところが国が滅びてしまうと誰も保証してくれません。仮に偽金で騙されたとしても全て自己責任です。そういった貨幣を税金として受け付ける訳にはいきませんから使用禁止にするしかありません」
うーん、江戸時代の貨幣で税金を納めて貰っても困るって感じなのかな?
「さらに言えば、あなたがある国の王だとして。隣の国で身分制度が崩壊して、王が放逐されました。その国と付き合いたいと思いますか?」
「うーん」
「その国が成功したら自分の国でも同じことが起こるかもしれないんですよ。是非とも失敗して貰わないと困るでしょう?」
なるほど。だから一切協力しないという事か。
「貴族がいなくなれば騎士もいなくなります。税を集め、国の予算を決め、集めた税金を現場に配る全てのシステムが停止します。警備隊も給与が支払われないので解散します。街道を保守する人間もいません。そして無法地帯。弱い者は奪われ殺され、全ての恨みは王や貴族を追い出した者に向けられます」
国を回していた人達が一斉にいなくなるってことか。それは確かにまずいな。
「つまり、身分制度を廃止するには事前の準備と、かなりの数の協力者が必要だってことです。暴力と感情だけで解決しようと考えるのは愚か者です」
なるほど、そうですね。
「その愚か者が、転生者です」
中途半端な知識と正義感が空回りしちゃうんだろうな。そういえば前の世界でもそんな人いたな、あれってもしかして……。
「わざわざこんな話をしたのは、あなたが危険だからです」
「えっ? 俺が危険?」
「今回あなたはかなり優遇された状態で転生します。つまり無理を押し通す力があります」
それって、魔王コース一直線ってことですか……。
「小さな親切、大きな迷惑。行動する前によく考えた方がいいですよ」
「は、はい。わかりました」
自分が死ぬだけならまだしも、一応平和に暮らしている人たちまで巻き込むのはまずいよね。
【転生者の魔王への道】講座はまだ止まらない。
「普通、他国を侵略したり併合しても魔王とは呼ばれません」
まあ、それは普通の国でもやるだろうし。
「宗教弾圧をすると、一部の者に魔王と呼ばれることがあります」
あー、あの人とか。
「しかし、多くの者に魔王と呼ばれるのは、システムを破壊するだけで、統治をしない者です」
「と言うと?」
「システムを破壊すると都市を維持できなくなりますから、人々は村単位で自給自足の生活に戻ります。知識や技術が失われ元には戻りません。文明・文化の破壊者それが魔王です」
「な、なるほど」
魔王に滅ぼされた古代文明的な扱いになるってことかな。
「魔王の先と言うものがあります」
「え? 魔王の先?」
「魔王が自暴自棄になって、こんな世界壊れちゃえ! と暴走すると破壊神になります」
「なんですかそれ!」
「魔王になるような者は、考えが浅く幼稚な思考の持ち主ですから、自分の思い通りにならない世界に嫌気がさします」
なる……ほど。
「まだましなアホなら自害してそこで収束しますが、もっと迷惑なアホは「世界を作り替えてやる!」とか言い出します」
あ、あー……。
「自分では法も作れないほどの無能であることも忘れ「創造の前には破壊だ!」と洪水だの氷河期だのを起こします。勿論何の創造力もありませんから放りっぱなしでアフターケア無しです」
「どっかで聞いたような……」
「転生者 > 魔王 > 破壊神 無能のエリートコースですね」
うわー、いやな笑顔だ。
「気を付けます!!!」
お願い
・この展開は不自然
・これは理屈に合わない
・この設定は無茶
・誤字脱字
等々ありましたらご指摘いただけるとありがたいです。
ご指摘いただいた点をすべて修正できるとは限りませんので
その点ご了承ください。