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幼馴染は王国の要


 俺達の住んでいるこの世界にはマナと呼ばれる物質が空気中や地面の中、水の中や溶岩の中にまで、いたるところに存在している。それらに人の手が加わる事によって魔法として発現し人々の生活の糧となっていた。


 マナを操るのは人だけでない。魔族と呼ばれ人と敵対している者達がいる。彼らとは長い間戦争を続けていて歴史を遡れば千年は争っている。俺達が住んでいるのはそんな魔族と現在は膠着状態にあるロンダーヴ王国という国だ。


 ロンダーヴ王国の首都バシルカ、バシルカは海洋交易が盛んで首都の背後には大海原が控えている。昔、都市国家であったロンダーヴは第三代ロンダーヴ国王によってっその規模を広め、一代にして領域国家に成長したと記録されている。


 現在のバシルカは海洋交易と国土にある豊かな資源によって人々の生活が賄われている。豊かな自然にはマナが豊富に含まれており、魔族もそれを欲するのであった。


 この世界の各国家の都市にはほとんどと言って良いほどそれを守護する結界が存在していて、バシルカも例外ではなく結界で街と人々を守る聖女がいる。それが今のライカの生活だ。


 ライカは数年前のあの事件以来、その身にマナを操る術を身につけ、あの日訪れた信仰の伝導者によって聖女になることを決めた。結界を作り出す方法は割とシンプルだ。マナは世界中のどこにでも存在し、時に強力な力を生み出す。それは人々の思いによって影響されることもあり、思いは信仰という方法によって形となり、ライカは信仰によって形となったマナをその身に宿して結界に変える。魔法自体は生まれ持った才能や鍛錬によって扱うことが出来るが結界を生み出すこの特殊で強力な魔法は、神々より信託を受けた者のみが扱えるのだと言われている。神々が実在するのか俺には分からないが、現にライカは結界を張り街を守護していた。


 さて、その聖女であるライカは起きている間常に結界を張り続けているわけではない。一日の内数時間、人々の信仰を集め必要な分の結界を張ることが出来るのだという。聖女は結界を張る際詠唱するのだが、この時彼女らは文字通り完全無防備になる。それだけの集中が必要だということだ。無論そんなライカを放っておくわけではない。俺達、護衛騎士の出番である。


 ロンダーヴ王国聖女護衛騎士団、国を護る聖女を守る騎士だ。俺の家、ジェラルド家は代々騎士の家系で長きに渡ってロンダーヴを守護してきた聖女と共にあった。その歴史は勲功爵から伯爵になるほど長く、そして忠実に務めてきた。現在は俺の父であるロベルト・ジェラルドが騎士団長を務めており、俺は聖女の近辺を護衛する隊の隊長を担っていた。


「ライカ様、もう少し弁えて行動なさって下さい」


 少し呆れながらそう俺が口を出すと、ライカは拗ねたように返事をした。


「はーい、以後気をつけまーす。もう、ちょっとくらい良いじゃない、街で食事したって!」


 昼飯時を少し過ぎた頃、聖堂の侍女に一言告げるとライカは活気あふれる街中に抜け出してしまったのだ。勿論俺を含めた隊員達は慌てて探す羽目になり、俺が見つけ出す頃にはライカはバケットサンドの美味しい店で満足そうにしていた。


「あとその様付けと敬語、二人の時ぐらいやめてって言ってるでしょ!」


 そう言うと頬を膨らませてジト目がちにこちらを睨んでくる。そういう訳にはいかないのが護衛騎士という物だ。


「なりません。私は護衛騎士であなたは国と民を護る聖女です。さらに今は街中です。如何なさるおつもりですか? この人だかり」


 俺は店の周りを囲むギャラリーを手で指しながら、どうしたものかと思案していた。ライカは呑気にもギャラリーに向かって笑顔で手を振っている。


 どの都市の聖女もこうなのかは知らないが、ライカはバシルカの民から猛烈な支持を受けていて、一度街に姿を見せればこの様にすぐに人だかりが出来てしまう。店の前で膝をつき祈りを捧げ出す者までいる始末だ。


 結局、人だかりを見つけた俺の隊員達がなんとか人混みを分け道を作り聖堂へ帰ることが出来た。ライカが抜け出すのは今に始まったことではなく隊員達も慣れてきている節はある。


「アル君は固いなぁ、そんなんじゃいつか本当に頭が石になっちゃうんだから」


 反省する気など毛頭ない様子のライカは、聖堂の祭壇に腰掛けながら足をぶらつかせていた。


「ライカ様が軽率すぎるのです。いくらバシルカと言えど、聖女の身にいつ何が起きるか分かりません」


 たしなめるように言うと、ライカは渋い顔をしながらこう返した。


「あーぁ、昔のアル君はもっと優しくて可愛かったのになぁ」


 そう言うとニヤリとした笑みを浮かべながらこちらをからかうように見てくる。昔の話を持ってこられるとどうも弱い。


「子供の頃の話はおやめ下さい! あと私のことはアルバートとお呼び下さい」


「僕のことはアルで良いよ、って言ってくれたアル君はどこに行っちゃったのかなぁ」


 依然として笑みを浮かべながら子供の俺の真似をするライカ。くそ、恥ずかしくて目を合わせていられない。


「とにかく! 今後はもっと弁えて行動して下さい」


 再度注意し、踵を返そうとするとライカは呼び止めるように聞いてきた。


「あれ? もう行っちゃうの? つまんないなぁ」


 少し髪を引かれる様な気分だが、聖女の話し相手になるだけが仕事ではないのが護衛騎士である。


「午後は隊で剣術訓練があるのでこれで失礼します。くれぐれも騒動の無きようお願いします」


 そう告げると少し寂しそうな笑みを浮かべながら、手を振るライカ。


「そっか、訓練頑張ってね」


「日が暮れる頃にまた伺います。では」


 昔から変わらず表情が豊かだなと心中で思いつつ、一礼をしてその場を離れ、聖堂入り口付近にいた侍女に声を掛け聖堂を後にする。聖女捜索騒動のせいで予定が遅れてしまったが仕方がない。護衛騎士の訓練所は聖堂からそう遠くないが足早に向かう。


 訓練所には既に俺の隊員達が集まっており、伝えていた通り先に訓練を始めていた。俺も参加しようと見渡すと、騎士団長である父・ロベルトが兵達を様子を眺めているのに気が付いた。


「団長! 訓練所にお越しになるとは知らず申し訳ありません」


 急ぎ向かい声を掛けると、父上は威厳のある面持ちでこちらを向いた。


「おぉアルバート、いやなに連絡もせず来た私が悪いのだ。また聖女様が騒動を起こしたらしいな?」


 少し表情を崩し、苦笑交じりに返してきた。隊員から聞いたのか、はたまた風の便りで聞いたのか……。


「聖女様にも困ったものです……。それで、如何なされたのですか?」


 俺が聞くと、ロベルトはまた威厳のある顔つきになった。正確には難しそうな顔、だろうか。


「実はな、以前から話していたと思うが兵力の増強が本格的に決まりそうなのだ。後日改めて正式に伝えるが、新たに騎士を募るつもりだ」


 難しそうな顔の理由はこれか、兵力の強化は前々から話題に上がっていた。我がロンダーヴ王国は魔族と膠着状態にあるのだが、いつまた戦争が再発するか分からない。未だに前線では戦火が燻っているとも聞くし兵力強化は必要だろう。


「採用方法は実技試験を執り行う予定だ。お前の隊も増員するつもりだからお前も顔を出しなさい」


 父上はそう言うと再び訓練する隊員に目を向け、見定めるような表情をした。


「お前の隊は気力に満ちている。それもお前の日々の尽力の賜物だろう。期待しているぞ」


 そう言うと俺の左肩に手を置く。俺は右拳で自分の胸を叩く、騎士団の敬礼をする。


「ご期待に添えるよう一層の努力をいたします!」


 俺の返答に満足そうに一度頷くと、父上は訓練所を後にした。この父にしてこの息子ありだなと、自分で思ってしまう様なやりとりだ。


「皆、遅くなったな。では順に俺と打ち合い稽古をする! さぁ誰かやりたい奴はいないか!」


 俺が声を発すると続々と名乗りを上げる隊員達。その様子を見て気力が漲りつい笑みを浮かべてしまうのであった。

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