共同生活
「ここであってる・・んだよな?なにこのデカいマンション」
私、藤山 葵は昨日会った自称魔法使いの少女、柏木 雫に教えられた住所を基にして来たはいいものの、まさか高級高層マンションだとは思わずに唖然としていたのだった。
「いや、2人で住める程度の広さだとは思ってたけど。何者なんだ、あの子」
エントランスには入り、教えられた部屋番号を入力する。
「はい。どちら様ですか?」
「昨日会った葵だよ。開けてくれるか?」
「ああ、葵さんですね。お待ちしてました。あの、すみませんがエントランスで待っていただけませんか?」
「どうして?」
「あの、このマンション、異常にセキュリティが厳しいせいで専用キーがないとまともにマンション内で動けないんですよ。下手すれば閉じ込められます」
「すごいな。なら、おとなしくここで待ってるよ」
それから1分ほど待つと、
「お待たせしてすみません。昨日ぶりですね、葵さん。おはようございます」
礼儀正しい不思議少女こと雫があらわれた。
「全然待ってないさ。おはよう、雫ちゃん。それじゃ、案内してくれるか」
「はい。あ、そのまえにこれを」
そう言って、雫が鍵を手渡してくる。
「これは?」
「私の部屋の鍵です。先ほど窓口で作っていただきました」
「ありがとう。でも、いいのか?」
「いちいち私が迎えに来るわけにもいきませんしね」
「そりゃそうだ。それじゃ、行こうか」
「はい」
そういうと雫はエントランスの脇にある装置に鍵を置いて暗証番号を入力している。
「暗証番号は後で教えますよ。こっちに来てください」
開いたエントランスの自動ドアを通り抜け、雫の後を追いかける。
「エレベーターはこっちです」
そういうと、右手にある通路に入り、ガラスの自動ドアを通った後、エレベーターの扉が一つある。
「さっきあった、エントランスに近いとこにあるエレベーターじゃ行けないのか?」
いわゆるエレベーターホールが先ほどあったのだ。
「あそこからは私の住んでる階には行けないんですよ。ここからでないと行けません。といいますか、こっちのエレベーターは最上階直通なんですが、最上階に住んでるのが私だけなので実質貸切ですね」
「貸切?最上階?」
「ふふっ、驚きますよね。私もまさかこんなところに住むことになるとは思いませんでした。知り合いに住まいの確保は丸投げしてたもので。私も驚きました」
笑みを浮かべながら言う雫の言葉を聞きながら、ああこの子は私なんかとは別の世界に住んでるんだな、と私は達観した気持ちになっていた。
「早く行きますよ。乗ってください」
雫に急かされて、私はエレベーターに乗り込んだ。なんだかとんでもないことに関わってしまったと改めて思いながら。
「だめだー、まったく状況についていけない」
「きっとお姉さんがまだこの状況になれてないからだと思いますよ」
「そんなもんか」
「そんなもんです。それよりも早く夕食を作ってください」
「いいよ。それじゃ何食べたい?」
「今ある食材でできるものでお願いします」
「りょーかい。ちょっとまってろ」
葵がマンションに来たあと、運んできた荷物を整理したりしたあとに夕食にすることになった。料理は十数分で出来上がる。
「早いですね」
「一人暮らしだったから、時短レシピはお手の物さ」
「さすがですね。それじゃ、頂きましょうか。いただきます」
「いただきます」
二人揃って食事の挨拶をする。
「さて、味はっと。うん、いい味付け。おいしい」
「そう、よかった」
葵が作ったのはカルボナーラで、塩加減やパスタの硬さも絶妙だった。
「それにしても凄いところに住んでるな」
「それは同意見ですね。夜景が綺麗ですけど、落ち着かないっていうのがあります。」
「まあそうだね。いっぺん住んでみたいようなところではあるけど。そういえば、なんで敬語なの?」
「年長者に対しては敬語を使うべきなのではないかと」
「硬い、っていうかそんなこといったら私の方が敬語使うべきだし・・・。敬語なしでお願いします」
「わかったよ。そうする」
「ありがと。今更だけど私の話し方失礼じゃない・・・?」
「今更だし、気にしてない。ただ、素の話し方が男っぽいんだなって気になってた」
「よかった。話し方は小さい頃からの癖さ。流石に社会人になってからの処世術として女っぽい話し方もできるようにはなったけどな」
「なるほどねー」
二人は話しながらも、パスタを食べる。
「雫は魔法使いなんだよな。そういう人って他にもいるのか?」
「いるよ。知り合いに数人。この国には、それなりの数がいると思う。だけど、魔法使いって隠れることが多いから人目につくことはほとんどないね」
「とかいって、私に見つかってるようなのがいるんじゃん」
「葵は例外。魔眼持ちなんて初めて会ったし、考慮に普通入れないから。」
「魔眼って珍しいんだ」
「かなり珍しいはず。私も初めて見たからどんな効果があるのかわからないけど。他の魔法使いに見つかったら、目玉をくり抜かれてもおかしくないレベル」
「怖っ」
「それくらい希少ってこと。ただ、既に私が確保したから安心して大丈夫。魔法使いは他の人の財産は持ち主を殺さない限りは奪えないから」
「それは私が雫の財産になったってことだな。それで守ってもらえるなら構わないけど、殺されるって」
「普通だよ。魔法使いは自らを高めるためや、自分の力を証明するために他の魔法使いを殺す。ただ、色々とルールが決められていて、それを破ることは魔法使いにはできない。財産規定もその一つ」
「ルールを破るやつは出てこないの?」
「ルールを破ったやつは自分の権利を放棄したことになり、他の魔法使いの餌になる。そんなこと誰も望まないし、そもそもそんな不名誉なことをする魔法使いは居ない。だからその点は大丈夫」
「なるほどな。そいえば、私が雫の財産だってどうやったらわかるんだ?」
「後で指輪をあげる。それには私の魔力が込められてるから魔法使いならわかるさ」
「なんかすごく殺伐とした世界に入ってしまった気がする」
「大丈夫。私が守ってあげるし、私が魔法も教えてあげる。そもそも魔法使い同士の戦いなんて滅多にないから安心して」
「情けないな、見た目女の子に守ってもらうっていうのは」
「大丈夫、見た目女の子なだけだから」
二人はパスタを食べ終えて、食後のお茶を飲むことにした。
「葵が料理上手だったのは意外だったな。料理係としてはいい人材を拾ったよ」
「精々期待に応えられるように頑張るさ」
「家事ができる女の人ってモテるんじゃないの?」
「いや、あんまり恋愛事には興味がなくてね。独り身の方が気楽でいいさ」
「その結果路頭に迷いそうになってたんじゃ意味ないじゃん」
「いや、頭の痛い話で。本当拾ってくれてサンキューな」
「こっちとしても、色んな意味でメリットがあるから全然大丈夫」
少し雑談をした後で、葵は気になっていたことを尋ねた。
「気になってたんだけど、雫って幾つなの?見た目通りじゃないことはわかるんだけど」
「秘密ってことで」
「教えてくれないのか?」
「教えてもいいですけど、知らない方がお互いのためです」
雫が冷たい目線でこっちを見てきたのを、背伸びしているみたいで可愛いと思ってしまった葵であった。




