闇
理恵様とホテルに帰った後、2人で食事を済ませた後のこと。
「どこかに行かれるんですか?」
「監視されてるみたいなのでご挨拶してこようかと」
「本当に?全く気づかなかったのだけれど」
「先ほど外を出歩いていた時は、途中からずっとつけられていましたね」
まあ、普通は気づかないでしょうよ。向こうはプロみたいだし。魔法で周囲を定期的に探知していたので気づくことができた。
「くれぐれも気をつけてくださいね」
心配そうに見つめられる。
「大丈夫です。この程度でどうにかなる私じゃありません。理恵様はくれぐれもこの部屋から出ないように。とりあえず、まず探知魔法で相手を見つけます」
両手の中に魔力を圧縮するイメージを浮かべ、それを一気に周囲に放つ。それと同時にトリガーを唱える。
「汝らの姿を現せ。ライフサーチ」
少しすると、頭の中にイメージが浮かび上がる。先ほどの追跡者の反応はここから500メートル程離れた所か。
「いました。それでは行ってきます」
「いってらっしゃいませ、雫さん」
理恵様に見送られながら部屋出る。今ここは5階なので、まずラウンジまで降りて、裏口から外に出る。隠蔽魔法で姿を隠しても良いのだが、相手が魔法師だった場合はバレる可能性があるので、身を隠しながら移動する。
小さい通りを遠回りしながら反応の近くに向かう。辺りは夜の帳に包まれている。
反応のあった所の裏に着くと、建物があった。この上のようだ。
「我の姿を暗闇の中に隠せ。我の姿を見たものはいず、見るものもいない。故に我は存在しない」
隠蔽魔法を発動させた後に、暗い建物の中に入っていく。ほとんど光がない中を慎重に進んでいく。
階段をいくつか上っていくと反応のあった階につく。真っ暗な通路を進んでいき、一つの扉を慎重に開ける。扉をくぐり、廊下を進んでいくと部屋があった。そこには椅子に座ってカメラを覗き込んでいる人が一人。
あれか。
さて、無力化したいわけだけどどうすればいいか。
パン。パン。パン。
そんなことを考え始めた時、その人は振り向かないまま、私に向けて拳銃を撃ってきた。
やばい。
私はすぐに廊下の影に隠れる。狙いが定まっていなかったからか、弾は当たらなかった。あぶない、あぶない。
「誰だ?」
男の声で私に誰何してくる。私はその声を無視して魔法を発動させる。
隠蔽解除。結界発動。シールド発動。
処理の負担になる隠蔽魔法を解除した後に、無詠唱で結界を張って男を外に出せないようにする。それと共に、シールドを張って身を守る。
「魔法師か。厄介な」
男の声が聞こえる。相手は魔法師の存在を知っている。それは別に戦いに身を置くものならめずらしくない。だが、魔法を察知できるということは普通はできないはず。相手も魔法師なのだろうか。だとしても、シールドを張ったから、相手からはそう簡単にダメージを受けないはずだ。
私は姿を現す。
その途端、銃弾が私に向かって注がれるが、シールドによって阻まれる。
「魔法師っていうのは厄介だな。というか子供か」
男は少し驚いているようだった。
メガネをかけた男が一人窓際に立っていた。恐らく30代といった所だろうか。
「はじめまして。私のこと、わかりますか?」
試しに聞いてみることにした。
「柏木雫。清水理恵の同伴者だろ」
「名前はバレていたみたいですね」
「それくらいはすぐにわかる。だが、魔法師だったとは想定外だ。ボディーガードがいないからおかしいとは思っていたんだがな」
「残念でしたね。私がそのボディーガードです。それはそれとして、あなたは誰ですか?」
「それは答えられないな」
そう言って男は不敵に笑う。
「そうですか。なら無理矢理にでも答えてもらいますよ」
「そうはいかない」
そう答えながら男は拳銃で私を撃ってくるがシールドに阻まれる。
「常時展開型のシールドか。やっかいな。だが、それなら魔力が切れれば無防備ということか」
「それを待つと思いますか」
目を瞑って無詠唱でフラッシュボムを発動。これで目くらましを行う。次に、ライトニングアローを右手から発動させ、一瞬シールドを解除して男に攻撃を行う。
「おっと、危ない」
だが、男には簡単に避けられる。
「無詠唱とは、なかなかやるね君。だけど、予備動作で何をするのか丸わかりだよ」
なんだこの人。手強い。
「君は魔法の威力も精度も高そうだけど、近接戦闘はあまり得意ではないようだね」
そんなことはない。というか普通の奴なら、さっきの一撃で終わりのはず。一瞬の予備動作で魔法を予測できる人なんて見たことない。
「もう少し遊んでいきたいところだけど、今日の所は帰ることにしましょうか」
「帰すと思うか」
男を睨みつける。
「せっかくの可愛い顔が台無しですよ」
うざい。さっさと終わらせる。
予備動作によって行動が読まれるのなら、読まれても回避できない速度で攻撃すればいい。
一瞬で右手を男に向け、無詠唱で高速化したライトニングアローを発動させる。男に雷の矢がぶつかり光を散らす。
「やったか」
しかし、光が収まると何事もないように立っている男がいた。
「魔法師か、お前」
「さあ、どうでしょう。それでは、またお会いしましょう」
そう言うと男はフラッシュボムをたき、目くらましを図る。目を腕で覆う。
光が収まるとそこに男は居なかった。探知魔法をかけるものの、反応がない。
どうやら逃げられてしまったようだった。
本当なんだったんだ、あいつは。
結局男を捕まえられなかった私は、ホテルに戻ることにした。




