適応
新しい身体を得た日の翌朝。
晴れ渡った空の下、中庭で朝食をとっていた。山奥である為、少女一人さわやかな朝を迎えていた。
「いやー、色々なことが新鮮でいいな。サイズ的に合う服とか靴とかが全くなかったが、ネット通販で買えたしな。まあ、受け取りのときに少し不審がられた気もするが。他には、身長が低くなったせいで料理の時に台に乗らないとやり辛くなったな。あとはトイレの時の勝手が違ったから戸惑ったとか、髪が長いせいで洗う時面倒だったな、とか。・・・・あれ、不便なことしかない?」
紅茶を飲み、玉子サンドイッチを食べながら足をぶらぶらさせながら一人ごちる(椅子が高いせいで地面に届いていない)。昨日、通販のために来た宅配のお兄さんは不審感を抱いたというより、人形のように美しい黒髪の少女が彼シャツ状態で出てきて思わず見惚れてしまったというのが正しかったのだが。その時、宅配のお兄さんの中に恋心が芽生えたとかなんとか。少女は全く気付いていないのだったが。ちなみに今は昨日買った白いワンピースを着ている。
「ネガティブなことを考えるのはやめよう。良くなったこととはー、と。身体が若くなったのが一番大きいな。折角だし後でランニングでもしてみるか。あとは多分だけど、魔力保有量が増えてるんじゃないかな。感覚ではそんな気がするんだけど」
肉体の若返りによる運動機能の改善は言うまでもないことだが、魔力保有量は普通は増えるわけではない。
「なんで魔力が増えてるんだか。普通は魔力を使用した分だけ、体細胞の魔力保管量が向上するわけだから。正確には体細胞内の魔力を枯渇させてから回復させる行為を繰り返す必要があるんだけど」
少し考えた後、
「培養する際に身体の成長を促すために魔法を継続してかけていたせい・・・なのかな。でも、それだと魔力を枯渇させる過程がないからな。培養する際に使用した魔術に不備があったのか、魔力量増加のための理論が間違っているのか。・・・・まあ、とりあえず保留保留」
実際は培養の際に使用した魔法陣と、それを動かすため空気中のマナから魔力を人工的に生成するマナコンバーターのうち、マナコンバーターの供給が安定しなかったせいで時々魔法陣が異常な挙動を起こしていたためだった。マナコンバーターからの供給が足りなくなった分を、培養対象である少女の肉体から吸い取り、マナコンバーターからの供給が十分になると吸い取りを中止して正常に培養魔法が作動していた。その影響で体細胞の魔力容量は最大まで増えていた。細胞内の魔力量は生命の維持には影響しないのが幸いした結果だった。このことに少女が気がつくのは大分後になってからである。
「さて、食器を片付けたら早速魔法を試してみるか」
待ちきれないとばかりに、そそくさとキッチンへと食器を持って小走りに向かった。ちなみに、体が若返った影響で精神まで幼くなっていたのだが、本人は気がついていないのだった。




