休日
今日は、3人で映画を見に行こうということになったので、駅前の広場で待ち合わせることにった。どうやら、まだ他の二人は来ていないようなので、通りゆく人を眺めながら待っていた。
少しすると彩花が先にやってくる。
「おまたせ、雫ちゃん。おはよう」
「おはよう、彩花。後は、健也だね」
「健也なんて待たずに、二人で行かない?」
「いや、それは」
「冗談だって。少し待ってみよ」
「そうだね」
そんなこんなで10分ほど待つと、健也が走ってやってきた。
「ごめん、遅れた。雫、彩花おはよう」
「おそいよ健也。雫ちゃんを待たせるなんてどういうつもり」
「本当にすみませんでした」
「いや、気にしてないから。というか、なんで私基準?」
「雫ちゃんだから」
「うん?(どういうこと・・・)」
「みんな揃ったから行こうよ」
「そうだな。いこうぜ雫」
「わかった。行こうか」
右手に彩花、左手に健也を連れながら映画館へと向かう3人であった。
「映画おもしろかったね」
「そうだな。まさかああなるとは」
「確かに意外と面白かったな」
映画を見終わり、3人で話しながら帰っている途中だった。
道路脇を歩いていると、後ろから車のエンジン音が近づいてくるのが聞こえた。ふと振り返ると、トラックが物凄いスピードでこちらに向かっていているではないか。
「やばい」
雫が叫ぶ。
「えっ」「どうしたんだよ」
彩花と健也が振り返る。
「(このままじゃ3人共トラックの下敷きだ。仕方ない、防御魔法で防ぐか)」
「きゃあああ」
彩花が叫び声を上げて、立ち竦んでしまう。健也は逃げようとしているが間に合わない。
「(やるしかない)」
トラックに向かって両手を前に突き出す。そして、全力で魔力を放出する。
「我らを守り給え。シールド」
「(守れええええ)」
その途端、眩いばかりの白い光とともに、耳をつんざく轟音が辺りに響き渡った。
しばらくすると、光が消え視界が戻ってくる。まずは、二人の無事を確認しなければ。
「二人共無事か?」
「俺は無事だ」
「私もなんとか大丈夫」
「怪我もしてないか?」
「うん」
「大丈夫だぜ」
「本当によかった」
二人は少し怯えた様子だったが、無事なようだ。ぶつかってきたトラックのフロント部分は衝撃を物語るかのように、大きくひしゃげていた。
さて、私達を殺そうとした運転手に会うとしますか。そんなことを考えていたら、運転席から慌てた様子の運転手が飛び出してきた。
「君たち。大丈夫か。怪我とかしてないか」
「運よく無事だが、普通なら死んでるよ。殺す気か、お前は」
殺されかけたが、この程度の経験はいくらでもあったので恐怖はなく、ただ大分怒っていた。今までに経験した戦場での戦いに比べれば、この程度は大したことはない。
「本当にすまない。徹夜明けでうとうとしていたから」
「仕事熱心なのはいいが、人を殺したら元も子もないだろ」
「面目ない」
「この二人にも謝れ」
「本当にすみませんでした」
そう言って頭を下げる運転手。
腹は立っているが一応運転手に尋ねる。
「お前は怪我してないんだな」
「はい、大丈夫です」
「雫ちゃん怒ると怖いんだね」
彩花はちょっと引いている。
「でも、なんかカッコいいな」
健也は憧れた目線を送ってくる。
「ねえ、雫ちゃん。結局どうして私達助かったの?」
「そうだそうだ、なんか雫が事故る直前に言ってたよな」
二人に質問されたが、まあ答えてもいいだろう。
「魔法だよ。魔法で防いだの」
「「魔法?」」
二人共声がハモっている。なお、さっき見てきた映画が魔法少女ものだったのは偶然なのだろうか。
「説明の前に、警察呼んじゃうね。運転手さんはそこにいてくださいね」
そう言うとスマホを取り出して、電話をかける。
数回のコール音の後に、電話が繋がる。
「魔法局です」
電話したのは、警察ではなく魔法局。魔法関連の事故の場合は、警察に連絡するとややこしくなる場合が多いのだ。
「トラックと歩行者3名の衝突事故が発生しました。その際に、防御魔法を使ったので事後処理をお願いします。負傷者はいませんが、トラックの運転手が首を痛めた可能性があるので救急車の派遣をお願いします」
「IDはお持ちですか?」
「6歳のため、IDはまだありません」
「わかりました。現場に救急隊員と警察官を派遣しますので、少々お待ちください」
「よろしくお願いします」
こんな感じで魔法局経由で警察と救急隊員を派遣してもらうのが今は普通になっている。なお、IDというのは12歳以降の魔法師に発行される識別番号のことだ。
2人に簡単に魔法について説明すると、案の定食い付いてきた。
「それじゃあ、雫ちゃんは魔法少女なんだ」
「まあ、そういうことかな」
「すげえな。なあ俺にも魔法ってつかえるのか?」
「私はどうなの?」
「この後行く魔法局でわかるよ」
「「おおー」」
2人は魔法が使えたらやりたいことについていろいろと話している。
「私は空が飛びたい」
「俺はカッコよく炎を飛ばしたりしたいな」
「(盛り上がってるところ悪いが、魔力保有の確率は500人に1人だからなー。多分無理だと思うんだけど。)」
実際に魔術師になれる人間はひと握りしかいない。だからこそ、二人が魔力を持っているとはあまり思っていなかった。
「(何はさておき、事故のショックよりも魔法の驚きの方が上回っていたようでよかった気がする。若いってさすがだな)」
盛り上がっている2人に相槌を打ちながらしばらくすると、救急車とパトカーが到着した。私達は警察官に連れられてパトカーに乗り込んだ。