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始まり

「とうとう完成した」

 ある男がつぶやく。

 男の前には、透明な液体で満たされたガラスカプセルの中に佇む少女。


 ここは日本のとある田舎の山奥にある屋敷。

 その一室にある研究室。男は遺伝子工学に精通した研究者の一人であり、ほとんど研究室にこもり日夜人のクローンを生み出すための研究をしていた。

 研究室の中には様々な文献や実験器具が雑然と置かれているいかにもな場所となっていた。人クローンは倫理的、法律的には完全にアウトな行為であるが、だからこそ男はその研究に魅了されて取り憑かれたように研究に没頭していた、かれこれ15年余り。


 そしてその成果が目の前にある少女の身体である。自分自身の遺伝子を元に、性別に関わる染色体を書き換え、特殊な培養を施した結果だった。


「それにしても流石は私の作品というか。元になった私の遺伝子が良かったのか。芸術的な美しさがある」


 男がそういうのも無理はない。艶のある黒い髪、そして儚さもありながら白く透き通った可憐な顔。まるで、人形のよう。年は6つぐらいであろうか。そんな美しい存在が目を閉じたまま、透明な液体の中に佇む。


「それにしても完成してしまった。私の目標は人のクローンを作り上げることであったからな。もう特にやることはない。どうしたものか。他に興味のあることもないし、私も若くもないからな」


 そんな男は年は38。名前を水川和樹という。

 大学卒業後、研究所に勤務していた時期もあったが、ここ数年はほとんど祖父母が以前住んでいた屋敷の研究室に篭りっぱなし。いわゆる研究馬鹿というやつである。だからこそこの研究を成し遂げられたのである。

 若い頃はモテた時期もあったのだが本人が研究一筋のため全く興味を持たず今も独身。髪はボサボサで、よれよれの白衣といった格好。ちなみに遺伝子研究ではそこそこ評価されており、パトロンもいたお陰でお金には困っていなかったのが唯一の取り柄であろう。また、男は魔法に関しても祖父から受け継いでおり、自由自在に使いこなすことができた。もっとも、魔術に関してはそこまでのめり込まなかったのだが。


「このまま眺めているのもいいのかもしれないが、あいにく少女趣味もなければ芸術にも興味がないからな。用意しておいた例の術式を使ってみるか」


 そんな風に男はつぶやきながら、少女の入ったカプセルの隣に置かれた大人が入れるほどの大きさのカプセルに服を全て脱いでから入る。すると自動的に蓋が閉じられる。


 先祖が開発した術式に人の魂を別の体に移し替えるという物があった。だが、魂は肉体と不可分な存在であるために、従来であれば魂が入れ物となる肉体に合わず失敗してしまうのだった。それこそ、自分と同じ身体をもう一つ用意しなければ成功しないという実質的には使い物にならない魔法であった。

 それも、元の身体から魂を抜きとるために元の身体の生命活動を停止させるため、今までであれば使ったら最後死んでしまう禁忌魔法となっていたのだ。だが、今回男が開発したクローンによりそれを覆すことができるかもしれなかった。男はクローン開発という自身の唯一かつ最大の目標を成し遂げていたので、もはや人生に未練はない。むしろ嬉々として自身を実験に使おうというのだから、流石と言えるだろう。


「さてさて、上手くいくのかどうか。後のお楽しみだな。ではゆくか」


 男の入ったカプセルに透明な液体が満ちてゆく。液体で満たされると、男の意識が徐々に薄れていき、少女の入ったカプセルと男の入ったカプセルが共に光り輝いていく。その後、カプセルの置かれている場所に幾何学模様の魔法円が現れる。魔法円とカプセルからの光は強くなり部屋全体が白で満たされた。

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