作戦勝ち
沙理と話しながら寝てしまい、夜を明かしたらしい。
起きると、明るい光が目に飛び込む。
「あ、飛鳥さん…ですよね。おはようございます。」
こちらも起きたばかりなのか、声が少し枯れている沙理に微笑みかけられる。
「ん。沙理。おはよぉ……。」
「なんかまだ眠いです。私達あのまま話しながらずっと寝てたのに。」
「そぉだね、私もまだ眠いよ。」
お互いぼやっとしている頭を押さえる。
他の人達は起きているのか?と周りを見渡すと…
「今起きたのか?水あびして、飯食え。」
低く、腹に響く声で一人の男…いや、海実が近づいてきた。
「あ、海実さん。おはようございます、」
「ん、おはよ。」
嬉しそうな顔で挨拶する沙理。
これが男と女の関係だったら、ずいぶんと微笑ましい光景だろう。
「えぇっっと…瞳…何してますか…?」
頭の中でピースしている瞳が現れる。
慌てて脳内消しゴムで消したが、どこへ行ったか位は聞きたい。
「あ?瞳?あいつはまだ寝てんぞ。三日位眠り続けるかもな。」
「いや、あいつなら五日間はねてられるだろ。」
木の陰から現れた長身の少女。きっとリーダーの楓だろう。
こんがりと焼けた、長い美脚だけで相当スタイルが良い事が分かる。
木の陰から外れ、露になった顔の方へ視線をずらす。
髪は私より少し長く、邪魔臭いのか後ろで束ねている。
鋭そうな目に整った顔のパーツが加わる。確かに、リーダっぽい顔立ちをしているとは思う。
「ん?何?何かうちの顔についてる?」
じろじろと見た私を不審に思ったのか、乱暴に顔をぬぐう楓。
その姿が、小さな子供のように可愛かったので、思わず笑ってしまう。
「なんだよ?」
「なんでもないっ。じゃ、瞳起こしに挑戦してくる♪」
まだ口元に笑みを浮かべたまま、瞳が寝ているらしい木に向かう。
どうやって起こそうかな…?
「〇×■*#▼×※。」
瞳が寝ているらしき木に近づけば近付く程、変梃で、不気味な音が聞こえる。
「▲◎◇※*…」
もしかして…と想像したことを頭を振って否定する。まさか…ね?
「瞳っ!」
変な音が一番良く聞こえる場所で怒鳴る。
ついでに、瞳が寝所として使っている木の根元を蹴飛ばす。
『ドサッ』
つい昨日聞いた音が目の前で響く。
もしや…と思い木の裏側を覗くと、頭を抱えながらもしっかり寝ている瞳が落ちていた。
「●▽※◇」
やはりさっきの不気味の音は、瞳の口から飛び出てきたらしい。
それにしても木から落ちても寝ていられる人間って存在するんだなぁ…。
「瞳っ!起きろっ!」
「とぴっくすぅぽあ…」
「何語はなしてんんだよっ!起きろよっ!」
「らすとないと、いとぅいず、みぃ…」
「いっとけど、英語ってそんな発音じゃないからねっ。
勝手に言葉つくらないのっ!起きろっ!」
あまりにもくだらない会話を繰り返すのは面倒なので、思い切って頬を叩く。
『ベチベチベチベチッ!』
見る見るうちに瞳の頬が膨らんでいくが、気にしてられない。
しかし、何度やっても起きないので作戦を変える事にした。
「瞳っ〜!起きなかったら、あの、美味しい赤い果物全部食べてやるからっ。」
「ん?」
「いいもん。全部食ってやるからねっ!」
「ん…。…いやぁ〜、いい朝だね。こんな日には赤い美味しい果物がぴったりだぁ♪」
腫れ上がった頬を押さえ、ニコニコと起きる瞳。
「え?飛鳥も一緒に行きたい?仕方ないなぁ〜一緒にいこっかぁ♪」
呆れて何も言えなくなった私の手を引いて、るんるんと歩く瞳。
文句を言いかけた口を今回ばかりは閉じる。
「うわっ!」
「あの瞳が起きてるよ…。」
本当に驚いた顔をした海実と楓を尻目に、果物を食べに向かう。
「はい!これ、やるっ♪」
昨日と同じ様にするすると木に登ると、沢山の果物を抱え降りてきた瞳は、両手いっぱいの果物を私に向かって差し出す。
「美味しいっ。」
「なっ♪」
二人でふざけ合いながら食べていると、楓の集合がかかる。
「あいよぉ〜♪」
「今行く。」
お互いに顔を見合わせ、同時に走り出す。
笑いの余韻が残ったまま、集合がかかった場所へと向かった。