呪われしき宝石頂戴グループ
「かぁえぇえでぇえ〜。久しぶりに会えたのに、そんな手荒い再か‥」
「うっせぇっ!」
全く理解が出来ない状況。
「『呪われしき宝石頂戴グループ』隊長、楓〈カエデ〉。楓って呼べ。」
「同じく、隊員、海実〈ウミ〉。そのまんま呼んでもらえれば結構。」
「えぇっと‥私は‥‥沙理〈サリ〉です‥‥。」
『バッ』という音と共に現れたのは、忍者服とでもいうのだろうか?瞳と似たような服を着た二人と、所々破れながらも美しいドレスを着た、一人の華奢な少女だった。
‥‥ここは私が住んでいた所と同じ世界か?
「‥‥おいっ!瞳っ!てんめぇはよ!一人行動はうちが許してから行えって何度いったらわかんだよっ!
しかも通信機どっかに落としやがって‥馬鹿!」
「え?俺一人行動したっけ?」
「は?お前は記憶までなくしたのかっ!低脳野郎っ!」
目の前で繰り広げられる信じがたい光景。‥‥だって‥忍者と忍者が‥‥?
「あのぉ‥‥‥。」
私が頭を抱えて考えていると、ドレスを着た少女が話しかけてきた。
確か名を沙理と言った。
「え?何?」
「あなたも‥‥そう‥なんですか‥‥?」
「何が?」
「女忍者の仲間と、なってしま…たのです……か?」
仲間?
「違う。女忍者なんかじゃ、ない。私は、戻るの。」
「どこへ……です?」
「そりゃぁ、もちろん元のとこ…」
言いかけていた言葉が止まる。
元の場所?あの城の事か?躊躇っている。間違えなく戸惑っている。
だから、最後まで言えなかった。元の城に帰るという一言が言えなかった。
本当に戻りたいのかと、問う。
――――分からない……。
しかし、自分がさほど戻りたいと願ってはいないことは確かだ。
感情がない沢山ロボットと、表情が全く分からない仮面を被った家来。
外の世界を覗くこともなければ、歩きたいという事も思ったことがなかった。
儀式等になるとストレスや苛々は倍に積み重なってゆく。それに比べ、今は……
「自由?楽しい、なの、かな。」
「えっ、あっ、の、何がです?」
「つうかさ、あなたも仲間に入れられた訳?」
「はい。」
「どんな風に?」
「……私は、小さな小さな島の、姫として教育を受けてきました。」
やはりドレスを着ているからには、どこかの島の姫らしい。
話し始めた少女に、目を凝らす。十三才位だろうか?私よりも一つか二つ歳が小さそうだ。
顔も、どこかあどけない。小顔に、小さな目、鼻、口。
腰の終わりの所まである、長く、かすかに茶色が混じっている細い髪。
「ところが、いつものように庭に水を撒いている時に……」
「さらわれたの?」
少し押し黙ってしまった沙理がじれったく感じ、先を促す。
「はい。急に頭に思い衝撃がきて、気を失ってしまったんです。
気が付いて目を開けると、知らない人が目の前に立っていたんです。
後に、海実さんと分かったんですけど。」
ちらりと横目で海実を見る。瞳よりも短い髪の毛。
図体は相当大きい。しかし、脂肪なんて物は一切無いだろう。
盛り上がった筋肉と、太い骨。
顔は、とても印象に強く残るものがあった。
―――左目のまぶたから、口元までにも及ぶ痛々しく、とても長い傷跡。
その姿は、誰もが男と間違える程の迫力さえあった。だって、私も女忍者グループの中の一人と聞いていなければ、絶対間違えていただろう。
「…やっぱり、あの、最初はすごく、すごく恐かったんです。
両親を思ったりすると涙が止まらなかったり。」
両親……。私に両親という存在はいなかった。言葉の意味は知っている。
どうやら、両親という存在は、私を生み出したものだという。
もちろん会ったこともないし、興味も無い。
生まれた時からお世話なら家来達がしていたし、今の私にとって必要はないものだろうと思っていた。
「でも…今は海実さんはとても優しいです。
リーダーの楓さんも、口は悪いかもしれませんが、とっても良い人です。
私がこんな偉そうな事いえませんけどっ。」
目を線になるまで細め、照れくさそうに笑う沙理。
私にはとうてい出来ない笑い方だった。
「あんたは…」
「あっ、あの。」
「ん?何?」
「さ・りです。」
質問を投げかけようとした私に訂正を求める沙理。
私は自然と笑みが零れる。言い方が、誰かさんにそっくりだったからだ。
「沙理は、今、楽しい?」
少し悩んだ後、ふんわりと笑って沙理は答えた。
「楽しいです。」