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修行〔2〕

未だ信じられない私に追い討ちをかけるかのように話は進んでいく。

…ええ、そうですよ。良い方向とは別の方へ。


「俺だって全部の情報を教える訳にはいかねぇよ。

大体、情報っていっても高が知れてんぞ。」 

「そこはお互い様だな。でも出来る限り情報を引き出す。」

「俺も。このまま殺されるよりかは、喜んで同意します。」

坊主男も沙理を熱っぽく見てから小声で言い切る。

「マジ?」

「おう。」

いまさら私なんかに拒否権はなかった。

私以外に反対する者が居なかったからだ。

「誓え。裏切らないと。」

「当たり前。」

リーダー同士で何かを呟き合う。邪魔はしたくないので、数歩下がる。

こんな事になるなんて、全く予想外だった。

生きてるってこうゆう事なんだろうか?

勝手な予想していたり、高を括って居ると、あっさり裏切られる。あっけない程に自分の惨めさを知る。


「飛鳥。」

「ん、何?」

「お前、なんか変な奴に好かれたみたいだぜ。」

「認めたくないけどね。」

「っぶ。ま、これからさ♪」

「なにがだしっ!」


リーダー同士の相談が終ったらしく、縛られていた男二人組の縄を外す。

「楓、こっち、情報聞くの終った。」

「ご苦労、そいつら、逃がしていいけど、アレ誓わせとけ。」

「もう誓わした。んじゃ、離すよ。」

海実と話していた二人の男は、海実に頭を下げ、一瞬で逃げ去った。

「あいつ等、本当に仲間か?」

「……一応そのつもりだった。」

表面では冷静を保っているリーダー。が、仲間に裏切られたショックは小さくないだろう。


仲間と信じ、共に行動をしあい…それがあっさりと裏切られた事実は、深く心に傷を作るだろう。


「飛鳥ぁあ〜♪修行すっぞぉ〜。」

「分かった。今行く。」

「俺も行く。」

「え?は?」

「いいから、いいから♪」

先程とは全く違う顔つきで、こちらの背中を押す男。

「あんた、何?」

「俺?名前かー、何だっけ?ん〜……、あ、思い出したわ。」

名前を忘れていた人を、初めて見た。しかも、こんな近距離でお目に繋れるとはねっ。

「俺の名前は、夜人。夜に人と書いて、ナイト。」

「名前だけはカッコイイんだ。」

「うっせぇよ。」

「本当の事だろ。」


唐突に大声が木々に響く。

「早く〜、俺寝ちゃうよ?しかも、飛鳥、楓の毒舌うつってきてるって!」

「あぁ?なんかうちの事いった?」

「いや、あの、はい!楓様のことは何も言っておりませぬデス!

早く!修行しましょう、飛鳥ちゃん、夜人君。」

どうやらさっきの話、全て聞いていたようだ。

あんなに遠くにいるのに。

私の眼球では、見えるか見えないかどうかの距離にいるのに…。

「行くぞ、飛鳥。」

返事をする気にもなれず、早足で瞳の元へと急ぐ。

辿り着くと、瞳は自分の特殊手袋で一人修行を行っていた。

「瞳?」

「お、そぉりぃ。んじゃ…やるか。」

隣をそっと見ると、何も言わず傍にある木と一対一になり、黙々と修行を始める夜人。

なんだよ‥‥私の後に付いてきた意味ないじゃん…。

「飛鳥、これ、まず復習ねっ!」

さっきの修行よりもハードな内容をこなし、日も落ちてきた頃だった。



「休憩〜、俺、自分の修行するから、そこら辺で休んでて頂戴♪」

荒い息を整えつつ、切り株に腰掛ける。

確かに修行はキツかった。でも、心底疲れたという感じはしない。

隣でも、ゼイゼイと荒い息がしたので見てみると、夜人だった。

「はぁ、腹減った。」

独り言かと無視していると、急に腕を引き寄せられる。


「飛鳥!」

近い!かなり近距離。

夜人の細く、漆黒な髪が額に当ってくすぐったい。

この状況で、私は不覚ながら美形は近くでも見ても美形ということを学んだ。

「何?」

早く離れろよという気持ちを精一杯込める。

いつもよりマイナス五度くらい冷ややかな声が出た。

「あのさ、」

「何ってば。」

 ぐんと距離が又近くなる。

尖った歯が二本、異様なまでに輝く。

この体勢に限界を感じ動こうとするが、夜人の重みでちっとも体は動かない。

いや、重みではなくて、ほぼ叶わない力で抑えられていた。




「俺……、俺……、腹、減った!」


は?

「知らねぇよっ!」

くだらないっ!


バシッと腕を払い、体を押し退ける。

一体何?本当、意味が分からない。



怒りで熱くなった体を癒そうと、沙理の所へ行くとなんだか入ってはいけないムードが漂っていた。

「あの、漢字では…?」

「俺の名前?えっとね、リュウジのリュウが、流れるって字。

んで、リュウジの司は、司会の司って字だよ。君は?」

「あ、えっと、私の名前のサリのサは…」

これ以上居ても存在すら気付いてもらえないだろう。

後で絶対邪魔をしてやろうと誓い、大人しく引き下がると、後ろには修行を終えたのか海実が立っていた。


「お疲れ。」

「そちらこそ。」

 短く、そっけないが、両者とも本当に思っている事をそのまま伝えた、という感じだった。

「沙理、弓向いているの?」

「ん〜…。まぁ、良い線はいってる。

でも、今は人に向けて打つという心の準備が出来ないらしい。

飛鳥見たいに球だと、急所に当っても死亡の確率は低いが、弓の場合、相当死亡率は高いからな。」

「心の準備…。」

「これから頑張るみたいだけど。医療もね。」

「ふぅーん…。」

綺麗事ではないが、私も頑張らなくてはならない。

心の準備…。決意…。まだまだ、足りない事ばかり。

かなりの数の物が、欠けている。


「終ったー!」

少し離れた所で、楓らしき声。重い思考モードになろうとした頭を中断する。

「ご苦労。」

「何が出来たの?」

「通信機。さすがに五人分は疲れた。」

こちらに近付いて来た楓が差し出したもの。


通信機。


想像していたのとは全く違っており、見た目も使いやすそうで良かった。

「最初から全て作ったの?」

「多少は前回の通信機の材料を使った。」

「うわ、すげぇ。俺の分は?」

楓の後から来た夜人の言葉は、楓によって黙殺された。

「すごい!ですね、機会音痴の私、絶対出来ません。」

「俺の分とかあるのかな?」

いつのまにやら集まった、沙理と流司もちろん流司の言葉も楓によって黙殺された。

「これ、海実の分。で、これ飛鳥。こっちは沙理。あれ?一匹いねぇよ。」

「首輪つけてないの?」

「やば。付け忘れた…。」


「ここだって!俺様はここにいま〜す!」

とても人間を探しているとは思えない会話をしていると、頭上から声が降ってきた。

「これ、瞳の。置いとくよ。」

「さんきゅっ♪」

 音もなく飛び降りると、嬉しそうに通信機を抱える瞳。

胸ポケットに入れようとするのを、海実と楓が素早く、そして鋭く睨みつける。

「あ、そっか。今度はちゃんと他の場所入れなくちゃ…。」

「……馬鹿…。はぁ…。まぁこんな馬鹿ほっといて、」

「俺、なんか寂しい人間じゃん…。」

「昨日も言ったとおり、明日出発。それまでに全てを整えておくこと。」

「了解。」 

「今日の修行は終了。あとは適当にやれ。以上。」

「了解。」

「そんじゃ、夜御飯でも作るか。海実、手伝って。」

「おう。」

流司と仲良さげな沙理に気を使ったのか、今回は海実を誘って奥へと消えていく楓と海実。

することが無いので瞳で遊ぼうと思った時だった。


「飛鳥〜。」

「呼び捨てにするなって。」

性格を除けば、容姿も声も完璧な男。

最初にあった棘は今、一日もたたない間に感じられなくなった。

「飛鳥〜。」

特殊手袋を空中に投げて遊んでいる少女。

何人もの人を殺してきたようには見えない姿だ。

「なに?」

少女の方に向かって返事をする。

「俺さ〜、ちょっと、走ってくるわ〜。」

え?

「修行したじゃん?」

「あれじゃ何かまだ足りねぇんだよ〜、いってきます!」

さすがに一緒に行くというまでの体力は残っていなかった。

いくら心底疲れていないとはいえ、修行を終えたばかりの体ではキツいと判断した。


「沙理…。」

夜人と二人は考えたくも無かったから、沙理に助けを求めるように呼ぶ。

流司と良い感じだろうと関係ない。今は自分優先っ!

「はい、何ですか?もし良かったら、飛鳥さんも御一緒に話しませんか?」

ニコッと目を細めて笑う沙理。

少し悔しそうに唇をかむ流司は、彼女の視界に映っていない。

「うん、それがいい!」

肩を落とす流司に残念だったね!と同情サインを送る。

本当ですよー、と訴えかける流司は私の視界に映ってない。

早歩きで沙理の隣に座り込み、息をつく。

「飛鳥ぁ〜」

「呼び捨て禁止。しかもなんであんたまで話に加わる訳?シッシ。」

いつのまにか流司の隣であり、私の正面でもある位置に座っている夜人。

「俺はペットかよー。ってか、おい、りゅ〜。」

小声で不機嫌ながら、流司です。と訂正する彼は、沙理の笑顔によって機嫌が直る。

「えっと、リーダーさんは、何という名前なのですか?」

「夜に人と書いて、ナイト。」

「かっこよい名前ですね。」

「名前だけね。」

「酷いな、飛鳥は。」

「だから、なんで呼び捨てなの…。」

「私はサリと申します。沙翁の沙に、ことわりの理です。」 

「やべ、全く漢字分かんねぇ」

同感でもそれを言わないのは私のプライド。


「リーダー、もっと簡単に言いますと、沙理さんの沙は、さんずいに少ないと書いて、沙理さんの理は、理科の理ですよ。」

「おお、りゅ〜。分かりやすいな。それ。」

「ありがとうございます。」

 その様子を呆れた表情で見る私。

その隣の少女はとても優しい眼差しで二人を見る。

私はこの少女と同じ人間かと問われると、はっきり頷く自信は無かった。

「えっと、さっき流司さんには聞いたんですが、夜人さんは何故忍者になったのですか?」

一体どんな話をするのか疑問を持っていた私は、心底驚いた。

いきなりこんな質問を、あっけからんとして言う沙理は大物だと感心するしかなかった。

「え?は?俺?」

「はい。」

さっきまでのテンションとは違った空気が周りに漂う。

さっと夜人の伏せられた目に、睫毛の影ができる。

「流司は話したのか?」

「はい。沙理さんには言えると思ったし、俺、別に言っても構わない事情ですから。」

「私も聞きたい。」

構わないなら良いだろうと判断して、好奇心を言葉に表す。






一体、この少年はどんな経歴で忍者になったのだろうか。

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