敵、仲間
「おま、飛鳥、見た目より全然使えるっ!おもろいわぁ〜♪」
「良い運動になった。」
「あの、怪我まだ治ってないんですけど…。」
「武器拾ってくる。」
「ちょっと、こいつ等まとめんの手伝えよ。」
戦いが終った後、地面に転がっている男達をロープで巻く。
何故かそんな面倒な事をするのか聞くと、宝石についての情報等を聞きだすそうだ。
「え?拷問ですか…?」
「そこまで手荒い事はしねぇよ。ま、相手次第だけどよっ。」
「まだ生きてるし…。」
「こいつ、リーダーっぽいね。」
「あ、飛鳥の初敵じゃなぁい♪」
まだ息のある者、合計四人を全て一本の縄で締め上げ、無理にでも起こす。
私は血で濡れた服を見るのが躊躇われ、少し目を逸らす。
「ん…ぅ。」
「ううぅ…。」
全員が目を覚ますと、早速楓が問う。
「おい、全て正直に答えろ。」
「……。」
「お前等は呪われしき宝石を狙っているものか。」
――呪われた宝石。
今、捜し求めている物‥‥らしい。
詳細は聞いていない。そのうち聞くつもりだが、実は今まで忘れていた。
修行が落ち着いたらじっくり聞こう。そう、思えた。
「おう。」
少しの沈黙の後、そっぽを向きつつ答えたのは私が負け犬とけなしたあの男だった。
やはり、リーダーなんだろう。答え方にも威厳があった。
「んで、手に入れた情報、全て吐いてもらおうか。」
「情報?自分で探すんだな。」
「あぁ?自分達の状況分かってんのか?」
迫力がある海実の声。本気で怖い。
相手はあまり怯んでいないが、もし私があの声で、あの目で凄まれたら―――
いや、考えちゃいけない事だ、きっと。
私は海実が敵じゃなくて良かったと心から感じた瞬間だった。
「あぁ、嫌になるくらい。小娘に仲間も一緒に縛れらて、危ない状況‥‥だろ?」
「あらん♪リーダー君よ、人の事小娘とか言ってるけど、実際俺等と大体歳変わんねぇだろ〜。」
うぐっと息を呑む音。つまり間違ってはいないのだろう。
私よりも年上だが、海実と同い年だろうと推測。
「おい、リーダーこう言ってるけどいいのか?
お前等私達に殺されるかもよ?てか実際仲間三人いないし。」
しばし無言の時が過ぎる。
「俺、全て話すから離してくださいっ!」
「俺もこんな所で死にたくねぇよ…。」
気弱そうに俯き、喉から搾り出したような声で訴えるニ人。
「ふぅん…。じゃ、海実。こいつ等、他の場所で、じっくり話聞いてやって。」
「おう。」
さっき沙理を人質にし、散々私達を馬鹿にした男が、震えながら海実に連行されていた。
―――あれが素なんだろうな。
あーーあ。私、あんな奴に苦戦したのか‥。
そして、残った二人。脅しに怯まずに、立っている男。
その内の一人、リーダーと呼ばれる男は、鋭い目と、軽く開いた唇からは尖った歯。
鼻筋の通った顔を持ち合わす。
首筋まである髪は、闇を溶かして染めあげたかのような漆黒。
荒い息と共に、うなじから血色の良い肌が見え隠れする。
‥‥‥なんか悔しいが、相当な美形をしている。
もう一人は短く刈り込んだ茶髪の男。
髪の毛に合わず、顔はあどけなく可愛い。
リーダーに比べると、筋肉の付き方や身長差が彼を貧弱に見せるが、私に比べると相当な力の差があるだろう。
「残っちゃったね、お二人さん♪」
土の上なのにも構わず胡坐を掻き、ニヤニヤと笑っている瞳。
「俺、情報漏らすわけにはいかねぇ。」
「俺も。リーダーに従います。」
「素晴らしい友情だね。裏切り者の御二人とは違って。」
「うっせぇよ。てか、お前!」
今まで一言も話してなかった私を指差す負け犬いや、リーダー。
「は?負け犬に話す事はねぇよ。」
「俺、どうしたら負け犬卒業できる?」
‥‥‥‥沈黙。
「へ?」
「は?」
あまりにも切なげな表情で、明らかに拗ねている表所を見せる男。
そうゆう仕草が全くもって似合って無いが、妙に艶色がある。
「負け犬って悔しいのかよ…。」
沈黙を破った瞳がぷっと吹き出し、馬鹿にするような眼で男を見る。
「あの、怪我、大丈夫ですか?」
「…はい?えっと、俺?大丈夫だよ。別に。」
自分のリーダーの人格の代わりように、驚きすぎて声も出ない様子だった刈り上げ少年に同情を感じたのか、敵なのにも関わらず心配している沙理。
「俺、真面目に負け犬って嫌だな…。」
おい!さっきまでの鋭い目はどこにやった?
「お前っ!」
「飛鳥。」
「え?飛鳥って言うの?」
「…。」
無言で頷く。名前を教える必要は無いと思ったが、不思議と名乗っていた。
「飛鳥ぁ〜、俺さ…。」
「いきなり呼び捨てかよ、」
「飛鳥!俺、お前に魅かれた!」
……先ほどより冷たく、長い沈黙。重い空気が背中に伝わる。
「何言ってんの?」
「……あら……。」
「まじかよ…。」
……何?この展開。有り得ない。信じられない。
悪夢?魔術?黒魔法?怨念?呪い?自業自得?
私、何かしました?
「今、決めた。俺、仲間になる。んで、負け犬卒業する。」
「無理。」
やっと声がでた。一生声がでないかと思ったから本気でほっとする。
「お願い!飛鳥っ!」
「呼び捨てにすんな。」
「頼むっ!」
「嫌。大体、私が決める事じゃないし。」
楓を横目で縋る。リーダーの楓。主権は彼女にある。
早く断ってほしい。早く目の前からこの男達が消えて欲しい…。
「仲間には出来ない。」
落ち着いたアルト声。いつもより遥かに安心感を与える。
「でも、情報を教えてくれるならば、しばらくは同行を許可する。」
……落ち着いたアルト声。いつもより遥かに不安を感じた。