昼御飯
「ねえ、食料ってあるの?」
ふと心に浮かんだ疑問だった。それに答えてくれたのは、海実だった。
「森は食料の倉庫。調味料などは薬草とか混ぜて使えるし、鍋等は持ち運びしている。」
ふぅーん。そうだったのか。森は…食料の倉庫…ね。
「私、楓さん、の事、手伝ってきます。」
沙理は小声で言うと、小走りで楓の元と向かった。
私も行こうかと数分迷っていると、沙里と楓が巨大な鍋二つを抱えてもってきた。
その鍋の持ち方から、まだ火は通してないという事が分かった。
「お。何作ったん?」
「栗ご飯です。」
「汁物」
「火、焚かしといた。」
「ありがとうございます。ここに、鍋、乗せますね。」
私がまだ一言も喋ってない内にご飯も汁物も火を通し出来上がり、良い匂いが辺りにたちこめる。
「良い匂い〜♪旨そう〜♪」
中を覗くと二十人前はあるだろう、もの凄い量だった。
一つ目の鍋は大粒の栗と、ホカホカ白米が合わさったご飯。
二つ目の鍋の汁物は、体に良さそうな具がたっぷり入っており、どちらも食欲をそそる。
海実が作ったという木の器と、竹の箸を器用に使い昼飯を頂く。
「うんめぇ♪」
「美味しい!」
「腹減ってた事、今気づいた。」
「あ、ち、ちょ!溢すなよぉ!俺の分だぞ。」
「うっせぇな。とっとと食え。」
和気藹々と皆で鍋を減らしてゆく。
一番最初にご馳走様と言ったのは、意外にも海実だった。
「え?もう終わり?まだ残ってるのにぃ…。」
「私も、ご馳走様でした。」
海実に続き、目を一歩線までにも細めて満足気に沙理が言う。
私もふぅ〜と唸り、箸を置く。
手を合わせ、まだ残っている二つの鍋に目を通すと、あと半分以上は残っていた。
「これ、明日の分も余分に作ったの?」
「んな訳ない。こいつら二人、大食いだから全部食い尽くすよ。」
有り得ない‥‥。こんな大量な分を二人で…。
瞳はあともう少しいけそうだけど、あのスタイルの楓まで大食いなのか…。
「今日こそ勝負だっ!楓にゃぁ〜まけねぇ。」
「ふんっ。瞳に負けたら恥だねっ。」
鍋を挟んで睨み合う二人。……きっと毎回勝負しているんだろう。
どうせ全部は完食できないだろうと思い、沙理と話していると
「んんん!ちょ!最後の一口の栗ご飯はもらったぁああ!」
「はぁ?じゃあ最後の分の汁もらったから。」
「駄目ぇ!全部最後は俺が食うのだぁ!」
「遅い!汁は完全にもらった。」
……は?へ?完食ですかい?
「ふぅ〜。いいもん♪最後のご飯はもらったもんねえ。ご馳走さんっ。」
「今日も引き分けかよー。だりぃ。ご馳走さん。」
嘘でしょう、と鍋を再び覗くと、二つの鍋がどちらとも綺麗に輝いていた。
‥‥‥あ、ありえん。
「これ、洗って来る。」
「私も行きます。」
洗い物くらいしなくては、と腰を上げる。沙理も当然の様にしてついて来た。
「洗ってくれるの?有難う。」
土の上に大の字に広がっている瞳。
なんだか妙にいじりたくなった私は、足元に落ちている石をなるべく当らないよに投げた。
しかし今日の特訓を受けたせいか、投げた石は瞳の顔めがけてカーブを描く。
「危ないっ。」
自分で投げといて目を瞑る。
さすがにやばかったと肩を縮めて目をそっと開くと、瞳がいなかった。
‥‥さっき寝ていた場所には。
「危ないって、飛鳥が投げたんじゃないかぁ…。」
眠そうな声が真後ろから聞こえ、驚きつつも後ろを向くと、眼を擦っている瞳が立っていた。
全く、気付かなかった。石を避けた事も。後ろにいた事も…。
この能天気さのどこにそんな能力があるのだろうか。
一体どれ程の修行をつみ、努力をしてきたのだろうか。
――私には、まだ、全く分からない事だらけ。
でも、たった今、近づきたいと思った。今までにない感覚が湧き上がってくる。
近づきたい。少しでも追いつきたい。自分の武器を使いこなしたい‥‥。
自分の欲望の塊。
それが身体に行渡り、感情や行動となって表れる。
「瞳っ、私、洗物したら修行するからっ。」
「分かった。んじゃ、しゃぁ〜ないから起きておくよ〜。」
「沙理、さっきの場所でいいな?」
「はい。」
沙理も修行を早くやりたいのか、自然とお互いに駆け足になっていた。
洗い物を丁寧ながら、素早く終えると、私は瞳の元へと走った。
沙理も、それでは‥。と言うと、海実の元へと駆けて行った。
「おぉ、来たな♪修行はじめよっかぁ。」
「うん。」
案の定、木の上にいた瞳。すごく高くて、丈夫な木だ。
これならあと十人は余裕でいけるな‥‥。
「きゃーーーーーーーーーーーーーっ!」
耳が痛くなる程の悲鳴。……きっと、沙理だ。