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マギアマグス~西中怪談~  作者: ネルミ
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一章 肝だめししましょ

『 報告書 一年A組 栗森日向-(くりもりひなた)


 敬愛する黄龍雷矢-(きりゅうらいや)教官。

 いま僕は喫茶店Jにいます。クラスメイトの茜坂夕華-(あかねざかゆうか)と藍染朔夜-(あいぜんさくや)も一緒です。夕華のバイト仲間と、彼女のお友達二人も一緒です。

 三人ともとてもかわいらしく、僕の胸はときめいています。僕だけでなく、となりで無表情にホットコーヒーをすすっている朔夜も、絶対に、内心では喜んでいるに違いありません。朔夜はむっつりすけべですからね。

 とまあそんな風に、僕たち六人は、楽しくも穏やかに、平和な午後のひとときを過ごしていました。ところがその事件は、いや、事故は、夕華がお手洗いに立ってすぐに起こったのです。

 乱暴にドアがひらいたかと思うと、見るからにガラの悪そうな男子生徒が三人、あらあらしく店内に入ってきたのです。三人とも学ランをだらしなく着崩し、品のないアクセサリー類をちゃらちゃらとさせた、見るからにガラと頭の悪そうな男たちでした。ほんと、親と教師の顔が見てみたいものです。

 おとなしく席について、おとなしく飲み食いして、おとなしく金を払って出て行けばいいものを、あろうことか男たちは、僕たちの席に近づいてきたのです。狙いはもちろん女の子たちです。ほんと、他人に迷惑をかけることしかできないダニのような奴らです。

 女の子たちはもちろん嫌がりました。しかし、さすがは頭も顔も性格も悪いモテない男たち。女の子たちの意見など考慮するはずもなく、逃げようとする彼女たちの腕をつかんで、むりやり外に連れ出そうとしたのです。

 これはもう立派な犯罪ですよ。未成年だからといって許されるものではありません。本来なら警察を呼ぶべきなのでしょうが、しかし、警察を呼んでいる時間はありません。僕と朔夜で女の子たちを守らなければ。

 最初に動いたのは朔夜でした。さすがは文武両道な優等生。やはり違います。彼は無言で立ちあがると、男たちの前に静かに歩み出ました。

 朔夜と三人のヤンキーたち。並べて見ると、とても同じ人類とは思えません。眉目秀麗な朔夜にくらべると、くらべるのもおこがましいですが、男たちは三人が三人ともゴリラ……いや、さすがにそれはゴリラに失礼ですね。一部の国では天然記念物として保護されている動物ですから。こんな絶滅してくれたほうがありがたいような男たちと同類にしてはいけません。

 ゴリラにも劣る容貌の持ち主であるヤンキートリオと、モデル並みに顔もスタイルもいい朔夜。その差は歴然です。それゆえに男たちの怒りに火がついたのでしょう。ほんと、ブサイクの嫉妬って怖いですね。

 つまり、なにが言いたいのかというと、最初に手を出してきたのは先方なのですよ。向こうは三人。こっちは一人。僕は女の子たちを守っていたので朔夜にはいっさい手を貸していません。

 だから、本当に、三対一だったのです。

 いきがったヤンキーどもが、女の子たちにちょっかいをかけ、嫌がる彼女たちをいかがわしい場所に連れて行こうとし、それを止めようとした朔夜に三人がかりで暴力をふるおうとしたのです。

 悪いのは向こうなのです。僕たちに非はありません。僕たちは被害者なのです。あるいは被災者なのです。

 敬愛する黄龍雷矢教官。

 信じてください。くりかえしますが、僕たちは悪くなく、僕たちに非はなく、僕たちは被害者であり、被災者なのです。

 だからこれは完全に正当防衛なのです!』


「……で、言い訳はそれだけ?」

 真っ二つに割れたテーブルの上に器用に大学ノートを広げ、なにやらわけのわからない言い訳を書きなぐっているクラスメイトを、赤毛の少女は冷やかなまなざしで見おろした。

 艶やかなワインレッドの髪を後頭部で一束ねにした、凛とした長身の少女だ。意志の強そうな眉の下できらめいているのは、勝ち気そうなガーネットの瞳。グラマラスなボディを包んでいるのは、喪服かと思うほど黒いブレザーの学生服。

 魔術師養成学校マギアマグス学園一年A組に在籍中の女子生徒、茜坂夕華である。

「これのどこが言い訳なんだよ!」

 顔をあげると、日向は涙声で抗議の声をあげた。

 童顔である。二ヶ月前に十六歳の誕生日を迎えたとは思えないほど幼げな顔をしている。あわく、やわらかそうな、ちょっとクセのある栗色の髪。タレ目がちな瞳は、木漏れ日を思わせる明るいペリドットグリーン。しかしその目はいま、涙で濡れている。A組男子の中でいちばん小柄な体躯を包んでいるのは、喪服かと思うほど黒いブレザーの学生服。

 魔術師養成学校マギアマグス学園一年A組に在籍中の男子生徒、栗森日向である。

「僕はただ、事実を事実として書き記しているだけじゃないか。これは事故なんだ。僕たちは巻きこまれただけの被害者なんだ。悪いのは一方的に向こうであり、これはれっきとした正当防衛なんだ」

「れっきとした過剰防衛です。見てみなさいよ、このありさまを」

 夕華が指さした先には地震のあとみたいにめちゃくちゃになった店内が広がっていた。

 どんな圧力がくわえられたのかは知らないが、イスとテーブルが見事にひしゃげており、そのすきまから人間の手足がのぞき、ぴくぴくと痙攣している。ケーキが乗っていた皿はこなごなに砕け、アイスコーヒーが入っていたグラスの破片は床一面に散らばり、かたむきかけた陽光を浴びてきらきらときらめいている。

「やりすぎよ、あんたたち。手加減ってものを知らないの?」

「僕は関係ない。なにもしてない。やったのは全部、あの優等生づらした問題児だ!」

 日向は窓際の席を指さした。

 窓際に置いてある、ゆいいつ原形をとどめているイスに、長身細身の少年が腰かけていた。

 うなじにかかる桔梗色の髪と、通った鼻筋。切れ長の双眸は、星降る夜を思わせるラピスラズリ。着ているのはやはり、喪服かと思うほど黒いブレザーの学生服。

 魔術師養成学校マギアマグス学園一年A組に在籍中の男子生徒、藍染朔夜である。

 朔夜は、やはりゆいいつ無事だったテーブルの上に魔法円が描かれた教科書を広げ、何事もなかったかのような顔でさらさらと、大学ノートになにやら幾何学的な模様を描いている。

 おそらく今日の授業の復習をしているのだろう。さすがは学年一の成績をほこる優等生。こんな状況でも勉強を優先させるとは。

『……………………』

 その光景を、日向と夕華は半眼で眺めていたが、しかし、このまま見ていてもとくになにも得るものはないと悟り、その半眼を、今度はカウンターのほうへと向けた。

 カウンターの向こうに女の子たちはいた。三人とも、たがいに身を寄せ合って震えている。その顔には一様に恐怖の色が浮かんでいた。そういえば、先ほどまで皿を拭いていたマスターがいない。おそらく警察を呼びに行っているのだろう。客をほっぽり出してひどい店主である。ま、その元凶が客なのだからしかたないのかもしれないが。

 それより、店主が居ないうちに、警察が来ないうちに、

「みんな、ずらかるわよ!」

 夕華は声をはりあげた。


「ごめんなさいね。怖い思いさせちゃって」

 胸の前で手を合わせ、夕華はバイト仲間の少女に頭をさげた。

 ここは茜色に染まった商店街の入り口。

 夕華を先頭に、喫茶店からここまで全力疾走で逃げてきたのだ。

「いいのよ。悪いのは本当にあのヤンキー連中だったんだし。朔夜さんがいなかったらわたしたちいまごろどうなっていたか」

 朔夜を横目で見つつそう言ったのは、短く切った髪と腫れぼったい一重の双眸が特徴の少女。

 少女の名前は松平桜子-(まつだいらさくらこ)。夕華のバイト仲間である。

「そーそー。悪いのはあのゴリラどもよ。あたしたちは被害者なんだから、気にすることないわ。ね、朔夜さん」

 朔夜を見あげながら甘い声でそう言ったのは、長い髪を両サイドで結んだ童顔小柄な少女。

 少女の名前は竹宮桃花-(たけみやももか)。桜子の同級生である。

「そうよ。それに、魔術師の実力を目の前で見れたんですもの。まさに怪我の功名だわ」

 朔夜に視線を送りながらそう言ったのは、黒いボブカットヘアと黒縁眼鏡が特徴の少女。

 少女の名前は梅田小梅-(うめだこうめ)。桜子の同級生である。

 三人が着ているのは、中央高校の制服である、白いリボンを胸もとにあしらった、紺ブレザーの学生服。

 ちなみに、女子高生三人から熱いまなざしを一身に受けている朔夜はというと、彼女たちの視線……いや、存在にすら気づいていないかのように、その青紫の双眸を、明後日の方向へと向けていた。

「そーそー」桃花はにこにこしながら言った。

「朔夜さんや日向さんみたいなボディガードがいてくれれば、これから行く肝だめしも安心よね」

「肝だめし?」日向は若葉色の目をぱちくりとさせた。

「なにそれ? 僕たちそんな話、聞いてないんだけど」

「あ、ごめんなさい」夕華はしれっとした顔で言った。

「言い忘れていたけど、いまからあたしたち、中西中学校に肝だめしに行く予定なのよ」


「わたしたちの母校である西中は、けっこう古い学校で、それゆえに怪談話の数も尋常ではないんですよ」

 夕闇せまる商店街を歩きながら、桜子は言葉を紡ぐ。

「普通学校の怪談は、七つ目の不思議を知ったら呪われる、というくらい数がすくないはずなんですが、西中の怪談は、七つ目を知ったら呪われるのなら西中の生徒全員呪われている、というくらい数が多いんです」

「別にそんなのおかしくないよ」と、日向。

「僕たちの学校は、小・中・高一貫だからかなり広いんだけど」

「知ってます」小梅が口をはさんだ。

「マギアマグス学園は虹橋町の半分の面積を所有している、といわれるくらい広大なんですよね」

「うん。だからうちもかなりの数の怪談話が生徒たちのあいだで語り継がれているんだ。もっとも、僕はまだ幽霊とやらにはお目にかかったことはないけどね」

「そうだ」ぱん、と桃花は手をうった。

「ねえ、西中に着くまでのあいだ怪談大会しない? 一人一話ずつ、学校にまつわる怖い話を語ってゆくの」

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