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戦乙女の鎮魂歌  作者: 白銀悠一
第一章 再会
3/85

戦う覚悟

 ソラがヴァルキリーとなり、魔術師を撃退し、赤っ恥を掻いた数時間後、彼女たちは手綱基地へと連れて来られていた。

 忙しく軍人たちが走り回る基地の中に混じり、制服姿はよく目立つ。好奇な視線に三人はおどおどとしながらも部屋の中へと通された。そこは何やら作戦立案室のような場所であり、小さな部屋の中にたくさんのディスプレイが存在している。


「今回の部屋はこちらですか? 熱烈な歓迎ですね」

「まぁ、人数も少ないしな。ちょうどいい広さだろう」


 ソラたちを置いてきぼりにして繰り広げられる会話。ソラはゆっくりと手を上げて、相賀とマリに質問をした。


「そろそろ説明してもらってもいいでしょうか。あの、さっきのブリュンなんとかについて」

「ブリュンヒルデだな。北欧神話に出てくる戦乙女ヴァルキリー


 相賀は三人を中央にあるテーブルの上に集める。テーブルには世界地図のようなものが描かれていて、北米と南米が真っ赤に染まっている。ユーラシア大陸などを筆頭に青く染まっている箇所が防衛軍の領地だ。

 相賀がテーブルの横にある端末を切り替えると表示される画像が鎧へと変わった。兜に羽が付いた、白銀の鎧だ。ソラが身に着けたヴァルキリー、ブリュンヒルデ。


「単純に言えば、パワードスーツみたいなものだな」

「パワードスーツ。対魔術師用に開発された装着式アーマーの一つですね」


 優秀なメグミがぽかんとするソラにもわかりやすいような優等生発言をする。


「その通り。君を連れてきて正解だったな」

「あ、ありがとうございます」


 相賀に、正式な防衛軍人に褒められてメグミが照れる。実のところ、あまり賢いとは言えないソラが厄介事を起こした時の面倒係として連れて来られただけなのだが、生真面目なメグミは自分の優秀さを買われたと思っていた。


「メグミちゃんは優秀だからねー。私たちとは大違い」

「パワードスーツなんて授業で習ったっけ……」


 間延びしたホノカと、首を傾げるソラ。まぁ、戦隊ヒーローみたいなもんだよと適当に相賀は解説し、説明を続けていく。


「コイツは、言わば対魔術師用の決戦兵器と言ったところか。冗談を抜きにして、魔術師に唯一対抗できる装備だ。実際に戦ってみてわかったろ? ブリュンヒルデ……ヴァルキリーシステムは、魔術師の戦闘力を遥かに凌駕している」

「素人が戦っても、勝てるぐらいには」


 マリが毒を吐き出す。なぜ彼女に睨まれるのかソラには全くわからない。他ならぬマリがソラにその厄介なシステムを渡したというのに。


「え、えと、そんな重要なモノを何で私が……?」


 ソラは思い切って、訊いてみる。いくら軍学校で勉強していたとはいえ、ソラはまだ正規軍人でもない。

 加えて、成績は今この場にいる人間の中で一番低いと自信を持って言える。それに、学校でのソラの評価は不良扱いなのだ。幸運にも友達が多いため不自由はないが、いくらなんでもおかしくはないか。


「普通だったらあなたにアレを渡したりしない。異例の事態よ」

「その通り。本来だったら君に渡したりはしない」

「う」


 自分で疑問を感じておいてなんだが、そこまではっきり言われるとソラも気が滅入ってくる。さらには、同調するように二人の友人も声を上げ、


「確かに、普通だったら有り得ないな」

「そうだよねー。だって、空好きのソラちゃんだもんねー」


 などと言うものだから、ソラは少しいじけた。


「それでも君にアレを渡したのは、適性があったからだ。アレを使うにはいくつかの審査をクリアしなければならなくてね」

「て、適性。私に?」


 疑問視するソラに割って入って納得の声をメグミが上げる。


「ってことは、運動や健康、学習能力のほかに何か別の適性が必要だということですね」

「その通り。ソラは健康体だが、体力も技術も知能もない」

「ちょっと!」


 公然的な罵倒に、ソラが思わず言い返す。だが、誰も反応せず、庇い立てすることもない。ソラ自身ですら、そうだろうなと薄々感じているので、うぐぐ、と声を詰まらせるしかない。


「だが、ソラは唯一、世界中の人間のほとんどが忘却してしまったモノを持っていた。それが」

「心よ。敵を敵と思わず、話し合いたいとか思っちゃう、気が狂った心理状態」


 マリが忌々しそうに言う。心……とメグミは呆然と呟き、ホノカはなるほどー、と納得したように相槌を打つ。


「それならソラちゃんが適性だよねー。ソラちゃんは魔術師を敵だと思ってないしー」

「私にはどうしても適性者だとは思えないけど」

「とか言いつつ、自分で率先してソラを確保したろ。認めろよ」


 敵意剥き出しのマリを、相賀が窘める。それはあくまで敵の狙いがヴァルキリーシステムだったからです、とつんとするマリ。

 その姿を見ながら、何となく、メグミと似ているなぁ、と他人事のように思うソラ。


「ヴァルキリーシステムには、重大な欠陥がある。それは使い手を選ぶということだ。厄介なことに、ヴァルキリーが認める使い手は、敵を殺したくないと思っている人間のみに限られる。それゆえに軍は強力な戦闘兵器であるヴァルキリーを持て余していた。軍に入る奴は大抵、人殺しの覚悟を済ませている。そんな奴らじゃ、ヴァルキリーの心理適性診断に引っ掛かっちまうのさ」


 まぁ、本当に欠陥かどうかはさておき、と相賀は呟いて、


「つまり、もうブリュンヒルデはソラにしか使えない。他の誰にもブリュンヒルデを扱うことができず、さらには強制的に命令を下すこともできない。そんなことをすれば、ヴァルキリーシステムは起動しないからな。さて、青木空君。君は俺の部隊として戦ってくれるかい?」

「うう、絶対来ると思ってた。考える時間はありますか?」


 質問に質問で返すと、もちろん、と相賀は頷いた。


「言っただろう? これはお願いだ。命令じゃない。ただし、もし軍人になると志願すれば、特務兵の階級は約束される。形式上は俺の部下として遊撃隊に所属してもらうが、基本的に誰かの命令に従う必要はない。自由な立場が保障される」

「とはいえ、一度ヴァルキリーを身に纏ったら、軍の監視は免れないけどね」


 マリの脅しに、ソラがたじろぐ。それを庇うように立つメグミ。


「おい、ソラをいじめんじゃねえ」

「あら、おかしなことを言うわね。あなただって、魔術師を殺さなかったソラに不満を抱いてるんじゃないの?」

「アホか。それだったら、情けなく気絶してないで、自分で殺せばよかったんだ。他人のせいにするなんてガキくせえ真似できるかよ」


 マリが無言でメグミを威圧。メグミも負けじと睨み返す。

 相賀が面白そうに笑い、ホノカもボーッとしながら火花散らしを見つめている。ソラだけが間に入って仲裁しようとした。


「二人とも、喧嘩はいけない……」

「お前のせいだろうが!」「あなたのせいでしょ!」

「なーんで、そこだけ息ぴったり……」


 なぜかソラを同時に怒鳴ると、二人の喧嘩は静まった。色々言いたいことはあったが、ソラは我慢し、一度寮に帰ることにした。整理する時間が必要だった。


「一旦、寮に帰って考えてみます。我儘わがままですみません……」

「いいや、君が謝る必要は全くない。むしろ、俺たちに怒ってもおかしくないぐらいさ。だからこそ、君はヴァルキリーを身に纏えるんだろうな」


 感慨深く呟いて、相賀は分厚い本を手渡した。あまりの分厚さにソラは目眩めまいがしてくる。


「お、重たいお本ですね……」

「ブリュンヒルデの取り扱い説明書。マニュアルにはよく目を通しておいてくれ」

「わ、私が一番嫌いなタイプの本だ……どうせ読むなら……っと」


 いつもの調子で喋ろうとして、ソラが口をつぐむ。ここから先は禁句だ。特に、魔術師相手に命懸けで戦う軍人たちの目の前では。

 しかし、相賀は興味深そうに目を細めて、


「何だ?」

「う、これは、ちょっと……」

「大丈夫だ。俺は魔術に対して多少なりとも理解がある。魔術用語を出したからって無闇に人を怒鳴り散らすような器量の小さい真似はしない」


 そうですか……? と遠慮がちに辺りを見回す。一番気になるのはマリだ。怒ったりしないかな、と眼で様子を窺い、大丈夫そうなのを見て取って、ソラは続きを口にした。


「昔友達に聞いた、魔術師に伝わる伝説です。私がかつて魔術師と友達だったことはもう知ってるんですよね」

「悪いが、調べさせてもらった」

「構いません……。その友達が言ってたんです。世界は一冊の本でできているって」


 とても印象深い、友達の言葉だ。――世界は一冊の本でできている。その本にはこの世の法則が記されており、世界は本の内容に沿って、物語を紡いでいく……。魔術師の間に伝わる、古い伝説らしい。仲良くなった古い魔術師さんから親が聞いたと、友達はソラに言っていた。


「魔術師の間に伝わる伝説か。聞き覚えがあるよ。……そろそろ日が暮れる。早く帰った方がいい。途中まで送るよ」

「はい、わかりました」


 ソラたちは相賀の車で途中まで送ってもらった。道中、生真面目なメグミはどうやれば立派な軍人になれるかと相賀に訊いていたが、相賀が答えたやり方は、最後まで生き残ること。それだけだった。

 メグミは考え込み、ホノカは無意味ににこにこし、ソラは船を漕いでいる。

 移動中、ソラは懐かしい夢を見た。あの子が傍で杖を持ち、笑っている。自分もあの子も、楽しそうに微笑んでいる。いつまでも楽しい時間が過ごせればいいと、ソラはその時思っていた。無限に時間が続けばいいのにと。

 その想いは、今も変わらない。メグミに叩き起こされた後、車から降りたソラは赤く染まりつつある大空を見上げた。

 空は好きだ。あの子と繋がっているような気がするから。



 ※※※



「…………」


 少女は真っ赤な空を意味もなく見上げていた。魔術師が好むとんがり帽子の間から、綺麗な銀髪が見え隠れしている。崖のふちのようなところに座り、足をぶらぶらさせていた。

 腰には、魔術師には珍しい武器であるピストルが提げられていた。魔術師の伝統衣装であるとんがり帽子に、黒衣。そして、近代的武装であるフリントロックピストルの融合だ。銃身には勝利を意味するルーンが刻まれている。


「また、空を見ているのか」

「……夕日は嫌いなんです、マスターアレック。お別れの時間だから」


 少女はふちから立ち上がり、何となく下を見る。遥か真下には、広大な海が広がっていた。そう、少女が座っていたのは崖際ではない。太平洋の真っただ中に浮かぶ浮き島の端っこだった。

 浮き島は魔術師の拠点の一つだ。多数の魔術師が生活し、戦の準備を行う場所。そのため、自分の師であるマスターがただの暇つぶしに自分に声を掛けたりしないことを、少女は知っていた。


「何かあったのですか、マスター」

「リュースがやられた」

「っ!? そんな嘘です!」


 少女は目を見開いて、わかりやすく動揺する。リュースは自然魔術、特に雷を得意とする魔術師だ。

 神話再現のような古代魔術ほど強力ではないものの、防衛軍を壊滅させるには十分すぎるほどの戦闘能力を秘めている。しかも、出撃したのは特に重要拠点でないと思われる区域だった。少女も、マスターアレックも、古代流派による嫌がらせではないか、と疑っていたところである。


「古き魔女たちにハメられたのでは」

「ハメられた、というのは間違いないな。奴らの警告は不十分だった。敵が秘密裏に開発していた新型が、リュースを倒したようだ」

「新型……リュースは殺されたのですか」

「いや、殺されたのならまだ良かった。リュースは死んでいない。生命の灯は消えておらん。幸運でもあるし、不幸でもある。敵は魔術師を殺さずに無力化できる兵器を開発したということだ」

「それは……」


 魔術師を殺せる程度であれば、取るに足らないはずだった。単に、対策を講じれば、如何な兵器と言えども無力化できる。そもそも、まぐれである可能性もゼロではなかった。既存の兵器でも魔術師は殺せる。しかし、リュースを無力化したとなると事情は変わってくる。不殺は偶然で済まされない。

 確かに、リュースは手加減をし、威力の低い術式を使用していた。相手がほとんど民間人だと知っていたからだ。だがそれでも、彼女は十二分に強い。性格に難はあるが、魔術師としては優秀な部類に入るのは間違いない。


「現代流派は威力が低い。しかし、彼女はドルイドの魔術を参考にしている。通常兵器に後れを取ることは有り得ん。すなわち、通常とは一線を画した兵器を敵は使用したということだ」

「詳しく分析する必要がありそうですね。一旦、工房に戻りましょう」


 少女はマスターと共に森の中を歩いて行く。現代流派は魔術教会の中で最も歴史が短い流派であり、忌み嫌う魔術師も多い。ゆえに少女は似たような境遇の仲間たちと、浮き島に広がる都市部から遠く離れた森の中で暮らしている。

 魔術工房はレトロチックな魔術師の館、といった風貌だった。マスターアレックは近代流派上がりだが、現代や古代の術式も巧みに操る技巧派だ。異端者と罵る者も多いが、単純な事実として彼は強いので、魔術評議会への影響も大きい。

 屋敷に戻ると、多数の同志たちが少女とアレックを迎えた。ステレオタイプの魔術師から、アニメキャラクターのコスプレをしたものまでたくさんいる。現代流派は魔術の応用が利くので、自由な発想の元、様々な魔術を行使できるのだ。


「魔法少女きらりちゃんの出番はまだー?」

「きらり、その恰好で街に繰り出してはいないでしょうね?」

「きらりちゃんはみんなの魔法少女だから、外に出たら大騒ぎになっちゃうからね!」


 きらりーん、とピンクのひらひらをはためかせ、無意味な決めポーズ。きらりはアニメのキャラクターをモデルにした模倣が得意だ。少女にとっては意味のないように思えるぶりっ子めいたポーズも、作品再現には欠かせない。どこか手を抜いた瞬間に、術式の威力は極端に低下する。

 きらりを放っておき、少女はアレックの後を追った。皆が集まる大広間から、ランプの灯る廊下を通り、地下室の階段を下る。すると、古めかしい木造テーブルと、大量のフラスコ、魔法陣やルーン文字、ホロスコープなどの魔道具が置かれる工房へと出る。

 テーブルの真ん中には、水晶が飾られている。近くにはたくさんのロウソク。このロウソクは、対応した魔術師の生存を表している。

 リュースと名が彫られたロウソクは、まだ煌々と輝いている。この灯が消えない限り、リュースはまだ存命しているのだ。


「マスター、映像を」

「……残念だが、出力できん」

「どうしてです?」


 普通、魔術師が戦闘をした後は、魔力の残滓によって水晶投影による戦場追憶が可能なはずだった。言わば、戦いの記録だ。軍人たちが戦闘記録バトルログを確認するように、魔術師も戦いをよりリアルに確認できる。

 だが、マスターアレック曰く、何か強力な魔術に干渉されて戦場を再現できないらしい。さらに、戦闘途中、アレックは評議会に呼び出されて席を外してしまっていた。無論、これは連中の嫌がらせである。


「だが、わかることはある」

「また、古代流派の妨害工作、だったと?」


 少女が思いつく限りの考えを述べる。アレックはかぶりを振って否定し、


「敵が、防衛軍が魔術を使用した、ということだ。この不規則な魔力場の乱れはそうとしか考えられん」

「そんな、まさか! 魔術師の裏切り者がいると!?」

「そこまではわからん。裏切りではなく、無理強いされている可能性も否定できんしな。だが、敵が魔術を使ったことだけは確かだ。それが魔術師によるものなのかはさておきな」


 少女は椅子に座って考え込んだ。嫌な予感、最悪な展開が次々と頭をよぎる。捕まったリュースが拷問されてはいないか、苦しんではいないか――。さらには、なぜか昔の友達の顔まで浮かんできて、少女の額を玉の汗が流れていく。


「魔道具は対応した人間にしか効果を発揮しない。お前の忘れ形見は問題ないだろう」


 全てを見抜く魔術師が、少女の肩に手を置く。敵側に、人間側に遺した魔術道具に少女は覚えがある。

 あれは単なるお守りのつもりだったのだが、後に、魔術道具は人に影響を与えると知って少女はショックを受けた。


「ですが、髪と瞳の色に影響は与えます。アミュレットなんて渡すべきじゃなかった。きっと、今頃あの子は迫害されて――」

「今はリュースについてだ、クリスタル。最悪の展開ばかりを考えるな。イメージに影響するぞ」


 ――魔術とは、意思に応じて変化を生じせしめる学であり術である。

 そう定義したのは二十世紀最大の魔術師と言われるアレイスター・クロウリーだった。ただし、彼が口にしたのは前々からわかっていた魔術の根本だ。彼の時代となるまで定義を出せていなかったのは、古代流派の古き者たちが妨害していたからだ。

 クロウリーの定義通り、魔術はイメージによって世界の法則を書き換える術である。形式に従うことで想像力を強化する古代や近代魔術とは違い、現代魔術はとりわけ強いイメージの維持が必要だ。

 全て自分で創り上げる。だから、想像力が乏しいと、創造力が低下する。

 マイナスイメージを抱けば、魔術の威力も下がってしまう。

 ゆえに、少女クリスタルは自分の過ちを顧みることを止めて、捕縛されたリュースについて考え始めた。どうやって彼女を救出するか。彼女を倒した敵は一体どんな奴なのか。

 そして、遠く離れ、だが確実に空の下で繋がっている自分の親友は一体何をしているのだろうか、と。



 ※※※



「オーロラ……どらいぶ? によって、即時装着と空中浮遊、退魔攻撃を可能とし? 一度装着した者は、指輪をしている限り、常に変身することが可能……。ねぇ、メグミ」

「何だよ」


 ソラは自分の部屋で考えごとをしているメグミに声を掛けた。さっきからベッドに寝そべってマニュアルを読んでいるのだが、ちんぷんかんぷんなのだ。


「つまり、どういうこと?」

「だーもう、貸せよ! ……つまり、お前はいつでもその場で変身できるってことだ。その指輪をしている限りな」

「あー、なるほど。なんかよくわからないけど、とにかくわかったよ」


 適当に相槌を打つ。ぜってえわかってねえだろ、とメグミ。


「まぁ、オーロラドライブのくだりは……私もよくわからん。というか詳細が黒塗りで潰されてる。欠陥本じゃねーか、これ」

「メグミもわからないんじゃん。ねーホノカはわかるー?」


 テレビを眺めていたホノカは、顔だけを後ろに向けて、


「んー、二人がわからないなら、私もわからないってことにしといてー」

「テメエらなぁ……」


 メグミが観念したように嘆息。三人はいつもこんな感じである。率先してトラブルを招きよせるソラと、文句を言いながらも手を貸すメグミ、そして、二人がやっているのなら、と後ろを付いてくるのがホノカだ。


「とにかく、服を戻す方法を教えてよ。また全裸とかやだよ」

「ハッ、自分で調べやがれ。また全裸公開したいなら別だがな、この裸女め」

「酷い、友達がこんなに頼んでるのに……」


 泣くふりをするソラだが、メグミには通じない。


「だったらせめてベッドから起き上がれよ。寝そべりながら頼んでんじゃねえ。っていうか……」

「ん、何?」


 ならば起き上がってお願いしよう、と姿勢を正したソラに、メグミは躊躇いがちに質問した。


「もう一度着る気なのか、ソラ」

「うーん、どうしようかなって思ってる。私さ、優柔不断だから、こういう風になるといつも悩んじゃうんだよね」


 参るよねー、と苦笑するソラ。複雑な顔をしているメグミに気付き、真面目な顔となる。


「知っての通り、私、魔術師と戦う気はないんだ。魔術師を殺す覚悟なんて微塵も持ち合わせていない。……きっと、ダメな子なんだよねぇ」

「お前は」

「でもさ、友達が傷つくのは嫌かな。というか、人が傷つくのが嫌。誰かが泣く姿なんて、私はもう見たくない……。変革が起きて、世界に魔術師が現われて……私は自分の友達が魔術師だったことを知った。自分がその子と仲良くなれたように人間と魔術師も仲良くなれると思ったんだ。でも、大人たちは違かった。あの子は魔女狩りに追われて、隔離されて、離ればなれになって……。そういうの、もう二度とごめんだって思ってる」

「だから、魔術師を守るために、戦う?」

「魔術師とか区別つけたくないんだよ、本当は。私にとっては、メグミもホノカも、クリスタルも……人間も魔術師も、全部全部、守りたいし、お話したい。戦争を終わらして、静かに暮らしたいと思ってるんだ。もう嫌だからね。私は学校に通って、友達とおしゃべりして、お家で遊んで……楽しく生活したい」


 ソラはあまり喋らない自分の胸の内を吐露した。ここにいるのはどちらも本音で話し合える友人だ。

 しかし、メグミもホノカも、ソラとは考え方が違う。メグミは、お前の意見には賛成できねえ、と前置きした後にこう答えた。


「でも、一つの意見として尊重する。お前だって、私の考えを認めてはくれてるんだろ」

「うん、悲しいけど、メグミが魔術師さんを憎む理由はわかるよ。そして、魔術師さんが人間を憎む理由も……」


 メグミは魔術師によって引き起こされた大虐殺の時、魔術師によって両親を殺されている。そして、魔術師たちも、魔女狩りの大粛清によって、家族や大事な人を殺されている。だから、両者とも憎み合って、戦争している。

 ソラはそれが嫌だった。友達といっしょに遊びたかった。いつか和平が成立すると漠然と考えていたが、このままではいつまで経っても世界に平和は訪れない。だから、微力でも、世界を平和にするためならとヴァルキリーを身に纏うつもりでいる。

 もっとも、ソラがブリュンヒルデを装着する理由はそれだけではないが……。


「ソラちゃん、本当は空を飛べるからでしょー? いつも空を飛びたいって言ってたしねー」

「あ、ばれちゃった?」

「くっそ、真面目に聞いて損しちまった。結局、自分本位なんじゃねーか」


 呆れながら言うメグミの突っ込みは間違いではない。結局、ソラは自分のために戦うのだ。自分本位だ、自己中だ。でもそれでみんなが笑って暮らせるのなら、それでいい。

 ソラは戦乙女として、ブリュンヒルデとして魔術師と戦うことに決めた。人を殺す戦いではなく、人を殺さない戦いをするために。

 友達とまた出会える日が、訪れて欲しいという願いから。

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