New Year's Eve
胸元に大きなリボン、オフショルダーの膝上丈のドレスは淡い桜色。ウエストから裾までふわっと広がったデザインのこのドレスは、理奈さんとアダムからのクリスマスプレゼント。
アダムのお仕事は洋服のデザイナー。自分のお店を持ってる凄い人。そのお店のドレスで、日本人にも似合う形でデザインしたんだって。
お化粧はいつもより濃い目にして、髪はすっきり纏めて耳元に小さい白い花飾りを付けた。
靴もドレスに合わせた物で、ヒールが結構高くて緊張する。
「マミ、可愛い!素敵!!」
支度を終えて部屋を出たら、頬を紅潮させたアンナが褒めてくれた。
テイラー一家はのんびりお家での年越しみたい。夕飯は毎年年越しそばを食べるのが恒例なんだって。
ベルが来客を告げるとアダムが玄関へ向かう。
多分イアン。二人で何か会話している声がして、アダムに連れられたイアンが入って来た。ブラックの上下揃いのスーツにネクタイを締めたイアン。いつもと違っててドキンとしちゃう。
「ハイ、マミ、凄い綺麗だ。」
「ありがとう。クリスマスのプレゼントなの。」
熱い眼差しで見つめられて、そわそわする。アダムも格好良いよって伝えたら、嬉しそうににっこり笑ってくれた。
私が手に持ってたコートを受け取って、着るお手伝いをイアンがしてくれる。こんな事、日本人の男の子はしてくれないんじゃないかな?イアンが初めての彼氏だからわからないけど。
「イアン、マミをよろしくね?」
「はい。任せて下さい。」
理奈さんがイアンの肩を叩いて、テイラー家のみんなに見送られて家を出た。
イアンが助手席のドアを開けてくれて、車に乗り込む。
「プロムに出掛けるのって、こんな感じかなぁ?」
運転席にイアンが乗り込んで、私はぽつりと呟いた。
「あー、まぁ似たような感じかも。」
「プロムクイーンとかいるんでしょう?私、プロムに憧れてたんだ。」
昔何かの映画で見たの。プロムは高校卒業のダンスパーティー。本当は高校で交換留学してプロムを生で見たかったんだけど、お父さんの説得が間に合わなかったんだよね。うちのお父さん頭が固いから、日本人なんだから日本の大学行って、就職して、日本人と結婚しろって言い張ってた。でも結局最後は許してくれて、私はこうしてアメリカにいる。両親には感謝だ。
「プロムってさ、人気ないと最悪だぜ?行きたくないってやつもいたな。」
「イアンは?断られたりしなさそう。」
「まぁ、バスケしてたし。」
「だからそんなに背が高いの?手も大きいよね?」
「NBAにはもっとでかいやつゴロゴロいるさ。」
そっかぁって頷いて、私は窓の外を見る。ニューヨークの冬はすんごく寒い。東京で生まれ育った私には衝撃的な寒さ。でもその寒さでさえ、私は一歩を踏み出してるんだって感じがしてわくわくするの。
車から降りて、冷たい空気を吸い込む。雪がチラチラしてて綺麗。
イアンに手を引かれて入ったのはアパートメントの一室。ハッピーニューイヤーの飾り付けがたくさんされてて、キラキラしてる。
部屋の中には音楽が鳴り響いてて、踊ってる人達もいた。
キョロキョロ観察してたらイアンにコートを脱ぐように促されて、主催者のお友達にご挨拶。ラテン系の人で、にこにこ気さくで楽しい人みたい。
「おいで、マミ。ダンスしよう。」
「でも、あの、踊れないよ?」
「適当だよ。楽しめば良いんだ。」
エミリーもだけど、イアンも最近こうやって私にいろんな事をチャレンジさせてくれる。出会いって大切だなって、つくづく思う。
音楽に合わせて適当に動いて、イアンが色々教えてくれる。なんだか段々楽しくなって、私はイアンとしばらく踊った。
「マミ!ハッピーニューイヤー!」
「エレン、ハッピーニューイヤー!あのね、ダンスしたの!楽しかったよ!」
疲れたから休憩しようとしたら、エレンとジェフが来てた。駆け寄ってハグして、ジェフにもご挨拶。
「そのドレス、新しい?似合ってるわね。」
「ありがとう!アダムと理奈さんがくれたの。エレンのドレスも素敵ね!」
エレンのドレスは真紅で、布が体にぴったり沿うタイプ。ナイスバディが強調されて、私には着られない形のドレスだ。
「ニューイヤーズキス、忘れちゃダメよ?」
耳元で囁かれて、私は真っ赤になる。エレンはニヤリと笑って私の鼻を摘まんだ。
「でもそれ、タイムズスクエアのイベントでしょ?」
「関係無いわよ。やるの。」
えーって抗議する私にひらひら手を振って、エレンはジェフの所に帰っちゃった。
「何言われたの?顔赤い。」
「え?!な、なんでもない!」
声が裏返っちゃって、余計顔が熱くなる。そんな私をじっとグレーの瞳が捕らえて、イアンはふーんって呟いてから私を抱き寄せる。
うう、心臓が、壊れそう。
イアンの大きな両手が私の腰で組まれて体は密着してる。手の置き場に困って、私はイアンの胸に両手を置いて軽く握った。
「カウントダウン、屋上行こうぜ?寒いけど、花火が見れる。」
「花火?」
「そう。マンハッタン中で上がるんだ。ここの屋上からよく見える。」
「へー、見たい!」
「なら決まりだな。」
にっこり笑うイアンを見上げて、私も笑う。
好きだなって自覚してから、イアンといるとずっとドキドキして、でもそれは心地良い。
五分前にはコートを着て屋上に上がった。
降った雪が積もってて寒いけど、夜景がとっても綺麗。イアンが持って来たラジオを付けて、カウントダウン前の最後の曲が流れてる。スローな曲で、なんだかロマンチック。
「花火はあっち。あそこら辺がタイムズスクエアで、世界中の人間が寒い中頑張ってる。」
背中から、ふんわりイアンのコートに包まれて抱き締められた。あったかくて、また、心臓がドキドキしてる。
「昼間から場所取りするんでしょう?」
「そう。零時にはみんな一斉にキスするんだぜ。」
耳元で囁くように言われて、寒いのに、耳が熱い。
きゅうって抱き締められて、イアンの胸に背中を預ける。
ラジオからは、曲が終わってもうすぐだって言ってる。パーソナリティのカウントダウンを聞きながら、私とイアンはじっと夜景を眺めてる。
「5、4、」
耳元で、イアンがカウントダウンを始めた。なんだか声が色っぽい。ばくばくする心臓、どうしたら良いんだろう。
「3、2、1…ハッピーニューイヤー、マミ。」
「ハッピーニューイヤー、イアン。」
顔を上げられなくて、夜景をじっと見たままで答えた私の視線の先で花火が上がった。真冬の花火。
「綺麗。」
呟いたら、イアンの手で振り向かされた。温かくて柔らかい、イアンの唇が私の唇を包むようなキス。
唇が離れて、熱を孕んだグレーの瞳が私を覗き込む。
体ごと振り向いて、今度は私から。
両腕をイアンの首に巻き付けて、背伸びする。
大きな掌が腰に当てられて、唇が重なった。
足下にはうっすらと積もった雪。
背中には摩天楼の夜景と花火。
まるで映画のワンシーンみたいなキスに、私の心はとろとろに溶けてしまう。
「好きだよ、マミ。」
「私も、イアンが大好き。」
嬉しそうに笑ったイアンの大きな胸に閉じ込められて、温かい。
心の中まで温かく満たされて、人生初のN.Y.での年越しは、最高に甘くて素敵な日になった。
イアンがデレデレで、毎日イチャイチャラブラブしてそうな二人のお話。ニューヨークって素敵ですよね。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。