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Big Apple  作者: よろず
3/6

Thinking of you.

 感謝祭の後にやって来る期末試験。それが終わればクリスマス休暇だけど、この試験が曲者なんだ。

 ハロウィン以降、イアンと行動する事が増えた。元々グループでの行動は一緒だったけど、苦手意識が原因で私がイアンを避けてた。誤解が解けてからは、いつも気付くと側にいる。


「なぁ、腹減らないか?」


 試験勉強の為に図書館で勉強してたらイアンの提案。いつの間にか外も暗くてお腹が空いた。

 一緒にいた友達数人で、よく行くジャパニーズレストランに向かう事にする。私の提案。ジャンクフードより和食が食べたい。


「ここ、日本人が経営してるんだろ?」


 ジェフに聞かれて、私は頷く。コックが日本人だからちゃんと日本の料理が出て来るお店で、去年見つけてから気に入ってるの。

 素麺、カリフォルニアロール、天ぷらに寿司があって、他にもステーキプレートとかメニューも豊富。


「俺はステーキかな。マミは?」

「私は素麺かな。」


 イアンはガッツリステーキだって。ここのステーキプレートも美味しいけど、試験前ってなんだかピリピリしちゃって、あんまり重い物を食べられなくなっちゃうんだよね。胃がキリキリして来ちゃう。


「それ、箸だろ?よく掴めるな?」


 イアンに感心したように眺められて、私は箸を見せびらかす。そういえばイアンとここに来るのは初めてかも。


「サポートグッズもあるよ。使ってステーキ食べてみたら?」


 箸の間に付けて使い方を練習するプチアイテム。ここの店に常備されてるの。お客さんに箸の使い方を試してもらって、楽しんでもらう趣向みたい。

 イアンに渡してみたら、頑張ってる。


「刺せば食べられるな。」


 ぶすって箸をお肉に突き刺して食べてる。


「でもそれ、米はどうするの?」


 プレートに一緒に盛られてる炒飯を掬おうとして、失敗してる。


「これは無理だろ?」

「郷に入れば郷に従えでしょう?チャレンジを恐れるな!」


 イライラしてフォークを取ろうとしてたイアンに言ってやった。

 マラソンの夜にイアンが言った言葉、そのまま返してにやりって私は笑う。


「良いだろう。チャレンジだ!」


 ムキになって頑張るから、使い方をちゃんと教えてあげた。そしたら他の友達も興味を持って、みんなで箸を使って食事をする。


「箸って、使えると興味深いわよね。」


 エレンとはよくこの店に来る。だからエレンは箸の使い方が上手い。器用にカリフォルニアロールを摘まんで、醤油を付けて口に運んでる。

 他のみんなもなんだかんだと上手くなって、イアンもコツを掴んだのか、最後は得意気に私に見せびらかして来た。


「なぁ、マミは休暇はどうするんだ?」


 ご飯を食べて、みんな家で勉強するって店の前で解散した。

 エレンとジェフとも別れて、イアンが当然のように送ってくれる。最近はなんだか自然の流れでこうなるんだよね。でも、不快じゃない。


「去年は日本に帰ったから、今年はこっちの雰囲気を楽しもうと思ってる。」


 ホストファミリーとクリスマスを過ごして、教会巡りとかもしてみたい。


「ならさ、ニューイヤーパーティー一緒に行かないか?友達の所でやるんだ。」

「こっちの年越し興味ある!エレンとジェフも行くかな?」

「共通の友達だから行くかも。ドレスコードがあるからドレス必要だけど、持ってる?」

「去年一着買ったからある。ね、イアンはタイムズスクエアのミラーボールのやつ、見たことある?」


 ニューヨークの年越しで思い浮かぶのって、やっぱりあれだよねって思う。紙吹雪とか舞って、派手な年越し。


「あれ大変だぜ?行きたいの?」

「興味があるだけ。トイレとか辛そうだし、人混みはそんなに好きじゃないかな。」


 オムツ履いて行く人もいるって聞いた事があるから、そこまで年越しに頑張りたくはないかなって思っちゃう。

 肩を竦めた私に、イアンも頷いてる。


「一見の価値はあるけどな。テレビが楽。」

「やっぱり?私もそう思う。」


 くすくす笑って隣を歩くイアンを見上げたら、グレーの瞳が私を見てた。なんだろ、って首を傾げて見せるとイアンが嬉しそうにニコッと笑う。


「笑ってくれるようになって、嬉しいなって。」

「だって、もう友達だもん。私の中の勝手な誤解は解けた訳だしね。」

「嬉しいけど、男として見てよ?」


 そんな瞳で見つめないで欲しい。どうしたら良いか、わかんなくなる。


「女だなんて、思ってない。」


 ふいって顔を逸らしたら、イアンがぷっと噴き出した。くくくって喉の奥で笑ってる。


「ごめん。エレンがさ、マミは動揺するとすぐに目を逸らすって言ってたの、本当だなって。」

「エレンそんな事言ったの?」

「うん。な、ちょっとこっち向いて、目を合わせてよ?」

「いや。」

「怖いの?出来ないの?」

「怖くなんかない!」


 ムッとして、立ち止まってじっとイアンのグレーの瞳を睨み付けた。だけどなんだろ、これ。心臓が、とくとくしてる。ここで動いてるよって、知らせてくるみたい。

 イアンの瞳って凄く綺麗。眉毛もシュッとしてるし、睫毛長い。やっぱり鼻、高いなぁ。


「そんな顔で見られたら、抱き締めたくなる。」


 囁かれて、ビクっとなる。


「普通の顔だよ。」


 俯いて目を逸らしたけど、長い指が私の(おとがい)に触れて、そっと上向かせられた。グレーの瞳は観察するみたいに私を見てる。

 顔が熱い。

 何故か涙が滲む。

 鼓動が、凄くうるさいよ。

 目だけは逸らしてそのままじっとしてたら目の前が暗くなる。柔らかく、唇の横にキスをされた。

 ぎゅっと目を瞑って、心臓が、痛い。

 嫌じゃない。むしろふわふわして、不思議な感じ。


「I love you, Mami.」


 腰が、抜けた。

 がくんと落ちた私の体を逞しい腕が抱き留める。


「大丈夫か、マミ?」

「だ、いじょうぶ、ではない。」


 女なのに、鼻血が出そう。

 英語の"I love you."って、日本語の"愛してる"よりも柔らかくて甘い気がする。


「抱っこしようか?」

「だ、だめ!今はちょっと、そっとしておいて欲しい…」

「無理。」


 ぎゅって、閉じ込められた。

 背の高いイアンに抱き締められると、覆い被さるみたいになるんだ。大きい。ほんと、身長高い。


「俺を、恋人にしてくれる?」


 口がパクパクして、言葉にならない音が漏れる。あーうー唸ってる私の顔を、体を離したイアンが覗き込む。

 ダメだ。もう。このグレーの瞳が好き。私、イアンが、好きなんだ。

 顔が熱過ぎてクラクラして、声が出なくてこくんと頷いた。

 途端に体が宙に浮いて、子供みたいにイアンに抱き上げられる。


「すっげー嬉しい!最高の日だ!」


 そのままくるくる回られて、怖くて私はイアンの首にかじり付く。顔を見たら本当に鼻血を噴きそうで、私はイアンの肩に顔を埋めた。

 ご機嫌に鼻唄を歌ったイアンは歩き始める。降ろされても私は歩ける自信がないから、黙って運ばれる事を選ぶ。

 家の前に着いたらゆっくり降ろされて、また抱き締められた。


「おやすみのキス、許される?」


 私、喋れない病気にでも掛かったみたい。

 イアンの甘いグレーの瞳を見返して、こくんと頷く。そしたらとろりとイアンが笑って、唇に、優しいキスが降って来た。


「ゆっくり休んで、マミ。」

「イ、イアンも。送ってくれて、ありがとう。お、おやすみ。」


 頬をするりと撫でられて、その手が私の手を握る。そのまま持ち上げて甲にキスをして、イアンは私を離した。

 私が家の中に入るまで、いつもイアンは見守るから、私は小さく手を振ってから家の中へ飛び込む。

 指先で唇に触れて、頬が緩んだ。

 私も、ちゃんと口に出して伝えられるかな。


 "I love you, Ian."

『Thinking of you.』あなたを想う。

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