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第六話 恨み

 物事が順調に行くことなんて、そうはない。この時ばかりは、俺は浮かれていたのだと悟った。

 帰り道、足元が覚束なくなっていた。凄まじい頭痛もする。視界が捻じ曲がっているかのような錯覚にも襲われていた。マズイ。非常にマズイ。


 まだ家路の半分程度しか進んでいないのに、さっきからゴブリン達がウロつているせいで、一向に前に進む事が出来ない。


 駄目だ……。完全に見誤っていた。《スナッチ》のデメリットだ。こんなもんで済むだけましだが、それでも今現在非常に悪い方へ転がり始めている。

 連続使用か、それとも回数上限が決められている。《スナッチ》を使い過ぎれば、体調不良が待っているという事だ。スキルが盗めるんだ。これくらいのデメリットは甘んじて受けよう。


「帰れるかな……」


 大人しく町の外で掃討戦が終わるのを待っていればよかった。こんなにフラフラになる事が分かっていれば、無理に帰ろうとしなかった。

 最大限周りを気にしながら、一歩ずつ確実に家へと近づく。

 だが、前方に一体ゴブリンが居た。まだこっちには気づいていない。慌てて曲がり角を曲がった。どんどん家から遠くなっている。このままだと、いつか倒れてしまう。リスクを背負って、行進するしかない。


 ゴブリンの姿が見えないから、割と早足で進む。左右の確認もせず曲がると、通行人と肩がぶつかってしまった。しまった。そこまで慌てていたつもりもなかったが。


「ゴフッ」

「あ、すんません」


 ていうか。ゴブリンだし。全然足音に気を付けてなかった。まさか同時に曲がり角でぶつかるなんて思わないだろ。

 ゴブリンは一歩離れて自分の武器を手に取った。棍棒だ。木製だがそこら中に釘のようなものが刺さっていて、途轍もなく凶悪改造されている。


「マジかよ……!」


 ゴブリンが棍棒片手に殺しにかかる。長剣を持った瞬間、妙な違和感に襲われた。しっくり来るというか、もはや剣が体の一部のようにすら感じられる。剣の長さだけ体の感覚が延長されているかのようだ。これなら自由自在に剣を操る事が出来る。たとえ、体がフラフラでも大丈夫だ。


「ゴッファァァ!!」


 ゴブリンが凶悪棍棒を俺の頭めがけて振り下ろした。それをパーンと剣で弾いた。《強化》も相まって、簡単にゴブリンの手から棍棒を弾き飛ばす事が出来た。


「ァ……!?」


 ゴブリンはびっくりし過ぎて、飛んで行った棍棒と俺を何度も見ている。それほど、困惑する事じゃない。


「《剣術》まで手に入ったんだ。もはや俺に敵はいねぇよ」


 片手で剣をゴブリンの肩口にぶち込んだ。鎖骨のあたりまでバッサリと剣が侵入した。ゴブリンはビクビクと痙攣している。そのゴブリンを蹴倒し、頭を踏み抜く。それでゴブリンは動かなくなった。


「すげぇな。かなりスムーズに殺せた。《剣術》様々だ」


 だが、激しく動きすぎた。さっきまでフラフラだったのを思い出して、もっとやりようがあったんじゃないかと後悔した。


 そこからは、隠れたり、やり過ごしたりしながら、確実に進んだ。足音を限界ギリギリまで頼りにして、ゴブリンの気配を探る。かなり集中力のいる作業だったが、それを完遂する程度には、まだ体力が残っていた。


 家に着くと、すぐに両親が出迎えてくれたが、それに応対している程俺には余裕がない。「また明日ね……」とか言いながら、二階の自分の部屋へ。中に入って、着替えもせずそのままベッドの倒れ込んだ。

 ズキズキと頭が痛む。何も考えたくない。考えるべきことはたくさんありそうなのに。


「……もう明日でいいや」


 まだ時間は残されている。明日は少し忙しくなるだろう。そのためにも英気を養わないといけない。寝るか。



 翌日。ランニングなどの日課をこなし、朝食を食べ、学校に向かった。

 教室に入ると、一斉に俺に視線が向いた。


「アイツかよ。何で生きてんだ……」


 とか普通に言われた。ここまで来ると清々しい物がある。絡んでくるサウロ達を適当にあしらい、自分の席に着いた。


 少し待っていると教師が入ってきて、今日の予定を告げた。


「今日は遺体の回収とゴブリンの死体を焼却する。各自、持ち場を決めて、仕事をはじめろ」


 死体を放置してはいられないだろう。俺は率先して最前線での遺体回収に手を挙げた。ゴブリンに触りたいとも思わないし。それでも学友が死んでいる場所に行きたいという奇特な奴は俺以外にいなかった。冷たい視線が突き刺さる。

 目的があれば、こういうのも耐えられるな。


 遺体回収班とゴブリン回収班に分かれて、それぞれ散った。


 昨日最前線で戦っていた人物たちが、そこら辺に散らばっていた。ぐちゃぐちゃになっている者もいれば、原形をほとんど崩していない者もいる。学生たちは惨状を見て、吐き気を催していた。人間と魔物が入り乱れて死んでいる。


 そんな中、俺は適当に仕事をしながら実験を開始した。


 死体でも《スナッチ》は有効であるか。そうなれば、さらに適用範囲が増えるので、いいのだが……。


「やっぱだめだな」


 想定はしていたが、死んだ者から発動条件が満たされることはない。

 恐らくだが、《スナッチ》の発動条件は二つ。たった二つ。軽い。対象者に触れる事と、目を合わせるだけで良い。死体に触り、目を見ても、発動条件が整った感じが全くしない。

 昨日の感じが無いなら、これはもう無理だろう。

 《スナッチ》は生者にしか効かない。


 実験を終えたことで満足したため、その後は怪しまれない様に働いた。


 街の掃除を済ませるだけで一日を消費してしまった。騎士団も駆り出され、結構な大規模だ。ゴブリンは一か所に集められ、火葬されている。埋めるなんてしていたら、どんだけデカイ穴を掘らなきゃいけないんだ。火葬だ。火葬。


 キャンプファイヤーのような火を見ながら、今後を考えた。

 今日は流石にサウロ達の呼び出しを食らう事はなかったが、明日からはそうもいかない。

 サウロ、モス、リックのスキルは必ず奪う。《スナッチ》の発動条件を考えれば、そこまで難しい事はない。難点は接触する事なのだから、いじめられている時にでも触ればいい。


 だが、サウロ。テメーだけは特別にまだ奪わないでやる。

 卒業時に養成校では今後の事も視野に入れ、それぞれの実力を測るため模擬戦闘が行われる。それぞれ相手の命を奪わない範囲で武装していい。

 そこで、サウロを俺の手で倒す。奴にとってそれほど屈辱的なことはないだろう。試合終了時に、奴の《剣術》も奪う。それでいい。

 問題はアイツが俺と戦うか、という事だが、大丈夫だろう。

 試合の勝者はそれなりに優遇されるし、誰もが弱い相手と戦いたいはずだ。つまり、俺と模擬戦闘を組みたいはずである。

 高確率でサウロは俺と戦いたがる。そこで六年間の恨みを放ってやる。


「実に楽しみだよ」


 抑えきる事が出来ない笑みを俯いて隠した。

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