第十三話 追跡
「……いつまで走ればいいんだ」
かれこれ一時間以上走っている。その内休憩を取るだろうと高をくくっていたのだが、その気配はまだない。見られない様に、こちらからも視界に一度も馬車を捉えていない。音を頼りになんとか後ろから付いて行っている状態だ。
普段から走っていたから、もう少し走れる。《強化》もあるから、まだ少し余裕はあるが、馬車の速度に付いて行くのは、かなり骨が折れる。足元にも注意しながら走っているため、集中を研ぎらせる事が出来ない。体力以上に精神力を持っていかれていた。
もう少ししたら諦めようかな……。
そんな事を思っていた時、だんだん馬の速度が落ち始めた。馬車の派手な音が鳴りを潜め始めている。
「休憩か……?」
距離を保ちつつ、少しずつ離れる。まずはばれない様にすることが先決だ。減速する馬車と一定の距離を保ち、隠れる。
「何が出る……?」
ふたを開ければかなりマズイ物が出るかもしれない。最低でも顔は見たい。その前に、犯罪行為である確証を得ないといけない。ただ道に迷っただけなら、案内しないと。
「色々制約があるな……」
考える事は多そうだ。その内、馬車の音が完全に無くなって、停止したことが分かった。ここからはマジで気を付けないといけない。一歩踏み出すのすら気を付け、枝の位置を確認して歩く。姿勢を低くして、できるだけ身を晒す面積を減らした。
すると遠くに馬車が一台見えた。馬車の中に何か積んでいるのか……? 匍匐前進一歩手前のような格好になりながら、地面を這うようにして進む。サササッと木から木へと移動し、見つからないように祈って移動する。
もう一度木の陰から馬車を見た。荷台には大きな布がかけられていて、何が積んであるのか全く分からない。布っていうか、幌だな。
「ん……。誰か出てきた」
御者台から二人男が降りて、幌の中からさらに軽装備だが武装した男が出てきた。幌がの入り口の布っぽいのが左右に開かれた。軽武装した男が荷台から降りた。二人の男と何か会話している。流石に聞き取れない。
「んん……?」
待て。幌の中に誰かいる。かなり奥にいるせいで見えにくいが、確実に誰かまだ乗っている。もっと近くに行って確認した方が良い。
男たちが馬の方に行ったことをいいことに、大胆に馬車の後ろに近づく。うぉぉ。怖ぇ。気づかれたら、何してるんだってことになるよな。そうなったら、全速で逃げよう。何もしてないのに、この罪悪感。
結構な距離まで近づいたところで、良い手を思いついた。
「《解析》で見ればいいわ……」
使い慣れていないスキルだったので、存在を忘れてしまう。魔物相手にはいつも使っているのだが、人相手にはめったに使わない。俺のように知られたくないスキルを持っている人が居たら、あまり見られたくないと思ったからだ。自分が嫌がる事はしないように言われているから、俺もあまり人に対しては《解析》を多用しないようにしている。
だが、ある程度緊急事態だ。
見逃してほしいと思いながら、《解析》を使った。
「なっ……!?」
衝撃を受けたというのは、この事か。つい、ちょっと声を出してしまった。慌てた口を押え、ばれていない確認する。
男たちはこっちを気にしていない。前方に集まって話し合いの最中だ。
「マズイな……。これはかなりマズイ……」
ヤバい山だ。見過ごしていたら国が傾くレベルだ。ここから僅かに見えるが、獣人が二人横たわっている。拘束され、猿轡されて声も出せない様子だ。逃げようともしていない事からもうかがえるが、調教でも受けてしまっているか……?
それは無いと信じたい。
「誘拐か……? それとも売り払う気だったか?」
獣人の内訳はここからでは見えにくいが、男女のセットだ。《解析》結果によると男が《ノール》。女の方が《アイラ》という名前らしい。歳はどちらも13歳。まだまだ子供だ。
子供がこうやって拘束され、拉致られている時点でヤバいが、さらにヤバさを増しているのは二人の年齢だ。この国では確かに奴隷制度が認められているが、それは通例15歳以上に限られる。それ未満となると、確実に犯罪になる。バレなければ問題にはならないだろうが、今俺にバレた。
これを警邏隊に通報するか……?
「いや、それじゃ遅い……」
確実にコイツらはこのノールとアイラという子供たちの年齢を知っている。でないとこんな道は通ったりしない。問題は山積みだ。こいつらは常習的にこのようなことをしているのか、それとも今回が初か? 常習的に繰り返しているとなると、こうやって非正規で奴隷を入荷していることになる。
ここまでなら、まだわかる。犯罪の一端だろう。警邏隊の出番だ。今からでは遅いが。
もっとヤバいのは――。
「ここで見逃すなんて、出来るかよ……!」
こいつらは二人の尋常じゃない中身を知っているのか……? 無意識でやっているなら相当なアホだし、意識的にやっているとしたら、確実に超馬鹿な連中だ。どっちにしてもヤバい。
「これに手を出すと、俺の身もかなりまずい事になりそうだな……」
最悪命を狙われることになりかねない事態に発展している。これは、国レベルの事件だ。そんなのがこんな所で繰り広げられている。国は言い過ぎかもしれないが、地域間の軋轢を生んでいる。
「マズイ……。マズイぞ。戦争レベルの出来事だ」
特にアイラ。彼女はヤバい。こんな所に居るべき存在じゃない。俺の《スナッチ》の存在がかすむほどのスキルだ。ノールもかなりヤバいが、アイラは群を抜いてヤバい。国家クラスの戦力だ。
なぜそんな大物がこんな所に居る……?
それも拘束され、抵抗すらさせてもらえず、こんな場所を通っている。
手を出すか、否か。
でも、ヤバいって。これだけは。一義勇兵が手を出していい事ではない。まだ義勇兵じゃないけど。
けど……。
二人とも目を閉じて、逃げようともしない。なんでだよ。チャンスだろ。お前らなら、何とかできないのかよ。才能の塊じゃないか。溢れんばかりのその才能は、この状況を打破できないのかよ?
いや、分かってる。二人に武器が無いのが悪い。それがあれば、二人は逃げおおせている。
「進退窮まったな……。笑うしかねぇ」
でもさ、それは駄目だろ。子供だけはさ。なに、その完全に有無を言わせず連れてきましたって感じ。何も思わないの? なんかさ、無性にむかつくんだよね。止むに止まれない事情がそっちにもあるかもしれない。それでもね。子供だけは駄目だ。それは許されない。どんな事情があっても、子供だけは巻き込んじゃいけない。それをやったら、何でもアリになる。極論、この世は子供のためにある。大人が子供を害した時点で、それは許されざることなんだ。
「まぁ、俺子供好きだし」
退くという選択肢はない。なにより放っておけない。さっきまでゴブリンを虐殺していた男だが、これは話が違う。可哀想だ。勝手に巻き込まれて、酷い目に合っている。それだけで、助ける理由としては充分だろ。それに、今の俺には助けるだけの力がある。
「行くか……!」
時間が経たないうちに実行するに限る。素早く、音を立てない様に、馬車を盾にして移動する。見つかったら、終わりだ。少なくとも良い奴らではない。話し合いで解決するなんて選択肢はないだろう。
よし、いいぞ。来た。着いた。幌の入り口までたどり着いた。連中はまだ話している。
幌の中に入る。ばれていないか不安になるが、さっさと終わらせる。
《ノール》はツンツンした銀髪の獣人の子供だ。簡素な服を着て、後ろ手に手を回され、脚も固定されている。今は気絶しているのか眠っているのかは分からない。
《アイラ》も獣人のようだ。白髪の髪がきれいだ。ピョコンと跳ねているであろう可愛い耳は、今はペタンとしている。白いワンピースを着て肌も白いものだから、本当に全身白色に包まれているようだ。
「二人とも、起きろ……」
起こしたいのは山々だが、さっさと猿轡を外す。離せないと面倒だし、これは顎が痛くなる。サクッと二人の猿轡を外した。続いて、ペシペシと軽く二人の頬を叩く。
先にノールの目が覚めた。パチクリと目を瞬かせている。目があった。
「……誰、兄ちゃん?」
「ん、俺はな、あれだよ、正義のヒーロー」
「マジかよ。初めて見たわ」
「当たり前だろ、ヒーローは俺だけだからな」
ノールはフーン、と頷いてアイラを見た。次いで俺を見る。
「兄ちゃん、ついでに助けてくんない?」
「静かにしてろよ」
「うん」
父さん手製のナイフで手を縛っていたナイフをスパッと切った。足を縛っていたロープも斬った。
ノールは手をグッパグッパ開いたり閉じたりしている。
すると、ガザゴソ外で音が動き始めた。え、やべぇ。戻ってきた。出入り口一か所しかないんですけど。
「ど、どうすんの……!?」
「おおおおお、落ちちゅけ……」
「……あんたが落ち着け」
いや、落ち着け。ノールの言うとおりだ。ここで焦ったらマジで詰む。まだ横になっているアイラを抱き上げた。
「ノール、俺の背中におぶされ」
「カバン邪魔」
もう。我慢してくれよ。仕方がないのでカバンはここに放置する事にした。食料と魔石しか入っていないので、別になくなって困る物でもないが。今日の稼ぎは確実にゼロだと思いながら捨てる。
ノールが開いた背中にピョンと飛び乗った。振動でガタッと馬車が揺れた。アホ。何してくれてんだよ。
すると軽武装した目の下が凄い黒くなっている変な男が中を覗いてきた。不健康そうなくぼんだ目。青白い肌。今すぐ死ぬんじゃないかと思うほどだ。それにガリガリだし。ひょろ長い。髪もぼさぼさで清潔感の欠片も無いような男だ。
男と目が合う。
アイラを抱きかかえ、背中にはノールが乗っている。
「貴様、何を――」
《強化》全開……!
全部言わせる前に男を押しのけ外に飛び出した。ノールが「うぉ、早ぇ」と口から漏らしていた。
地面に着地して、そのまま走り出す。
「じゃーねー」
ノールが俺の背で手を振っている。呆れた奴だ。
男は尻餅をついて、呆然としている。一瞬の間を開け、叫び、走り出した。
「追うぞッ!」
ですよね。ここで追わないなんてことはあり得ないだろう。
男は起き上がり、他の男に名も走り始めた。
「兄ちゃん、アイツらめっちゃ早い! 追いつかれるって!」
「ハァ!?」
バッと振り返った。こちとら《強化》まで使って、走ってるんだぞ。追いつかれる訳が……。
「マジかよ……。人間か、アイツら……」
三人とも俺とほぼ変わらないような速さで追ってきている。むしろ若干俺より早い。ノールとアイラを抱えているせいもあるが、尋常ではないな。
「……《解析》」
全員、筋力強化系の『スキル持ち』かと疑ったが、別にそういうわけではなさそうだ。いや、一人だけスキルを持っている。
「《睡眠》か」
目の下にクマがあるような奴に《睡眠》なんてスキルがあるのはおかしいが、本人の適性に合っているのだろう。つーか、これだな。二人が簡単に捕まっていた理由は。
再び前を見て、全力で駆け抜ける。
「二人ともずっと寝てたのか?」
「そうじゃねーかな。あの体調悪そうな野郎に触られると、めっちゃ眠たくなるんだよね」
「オッケ」
触るとスキルが発動するタイプだ。《スナッチ》と相性が悪い。それと、マズイな。
「追いつかれてるか?」
「……あー、結構来てるわ。兄ちゃん、剣二本持ってる?」
「一本だけだ」
「……ヤバいなぁ。どうすっか……」
ノールが気弱そうな声を出す。心なし怯えている様にも感じた。
すると、腕の中で眠っていたアイラも目を覚ました。ノールと同じように目をパチクリさせて、俺の事を見ている。
ノールが肩越しにアイラを覗く。
「起きた。やべぇぞ。正義のヒーローだ。この兄ちゃん」
「……ヒーロー?」
真に受けてんじゃねぇよ。恥ずかしいだろう、ノール君。
「え、ていうか、なにこれ……。どうなって。この体勢……」
アイラの顔が赤くなる。いわゆるお姫様抱っこされていると気づいて、恥ずかしくなっているのかもしれない。しかし、事態はそんな悠長なことではない。
「ノール、後ろどうなってる」
「ん。あー、近いな。もう少しで追いつかれる。なぁ、その剣とナイフで良いから貸してくんない? 後は俺がどうにかするから」
ノールが俺の頭をペシペシ叩く。気が散るからやめてほしいが。
「剣は貸してやる。でもやるのは俺だ。お前らは逃げてろ」
「いやぁ、兄ちゃん、あいつら勝てんの? 武器なしで?」
「大人の言う事は聞くもんだぞ」
「そこまで歳違わなくね?」
「俺18歳だし」
「五歳差じゃん。変わんないよ」
そう言われると困る。俺も13歳のころは大人ぶっていたかも……。
アイラが俺とノールの事を睨んでくる。
「何でそんなに余裕そうなの……」
本当にそうだ。遊んでいる場合じゃない。
喋っている間にもかなり全力を出しているのだが、それでも三人の男は追いすがってくる。二人を抱えているというハンデがあっても、《強化》有りの俺以上のスピード。強敵だ。
「ノール。アイラを解放してろ。剣は渡す」
すぐにノールが俺の背中から飛び降りた。俺も急停止して、そっとアイラを地面に置いた。アイラは状況が把握できず、「え、え……」と慌てていた。
腰に差していた剣とナイフをノールに放り投げた。
パシッと快音立てて、ノールがそれらをキャッチした。
《睡眠》を持っている《セーノ》という男が剣を抜いた。
「乱入者は殺していい! 絶対に逃がすな!」
他の二人の男にそう命令した。男たちは無手であるが、先ほどの移動速度を考えても相当な力持ちだ。先に男二人が俺に来た。セーノは止まって、機会を伺っている。俺を眠らせてから殺す気だ。
「小僧ッ!」
やけに老け顔の男が飛び蹴りで攻撃してきた。やはり早い。しかしただ単に跳び上がっただけの蹴りではだめだ。それは殺してくださいと言っているようなものである。
サッと身を返して、カウンターを相手の顔面に叩きこむ。拳を振りぬき、鼻っ面を砕くと、もう一人の男が隙アリとばかりに、俺の体に取っ組み合ってきた。
「捕まえたぞ……!」
「それが?」
相手の服を掴み、《体術》でそのまま払い腰。全力で地面に叩きつけた。男が「ガッ……!」と受け身も取らず、地面に叩き伏せられた時、セーノが動いた。
「やるな」
そう言い残し、剣を突き出す。投げた男を盾にして、防御。
「ぎゃっぁぁあ……!!」
剣が突き刺さった男は痛みに寄って気絶から覚醒し、暴れ狂う。セーノは男に剣を突き刺したまま、さらに剣を押し込み、男を串刺しにした。
「なっ……!?」
仲間じゃないのか。まさか剣を押し込んでくるとは。
男を盾にしたは良いが、セーノの予想外の動きに回避が遅れた。男を突き破る剣先が伸びる。そのまま俺の右肩に突き刺さった。
「イッテェ……!」
肉壁を放り捨てる。セーノが何の表情も無く男から剣を引き抜く。
貫かれた男は、肺がやられてしまい満足に呼吸できていない。程なくして動かなくなった。
「使えねぇな。もっとマシな奴連れてこれば良かった」
セーノが死体を足蹴にする。中々にゲス野郎だ。
右肩を押さえて、ノールとアイラのいる前に立つ。ノールが「大丈夫?」と聞いてきた。
「あぁ。余裕だ」
答えているとセーノが口を開く。会話を試みてくるようだ。
「勇ましいね、少年。何でこんなことすんの? つーか、何でこんな所に居る?」
「そりゃこっちのセリフだ、おっさん。子供拉致っておいてその態度は無いな」
「いやいや、こっちも仕事だから。正当なさ」
チラリとノールとアイラを見た。首をぶんぶん横に振っている。
「子供は正直だからな。こっちを信用するよ。まさか今、人をぶっ殺した奴の言うこと聞く馬鹿はいないからな」
「フン。まぁ、そうなるわな」
気絶している男の足を掴み、引きずる。
「何する気だ……?」
セーノが俺の行動に整合性を見いだせていない。
「生憎、武器が無いからな。人間兵器と行かせてもらうかな、と」
怪我を負った右は使わず、左手に持った男を武器にして、セーノへ突貫する。
「少年、なかなか鬼畜だな」
「お前ほどじゃないッ!」
気合を入れて人間を振る。かなりリーチの長い武器だ。ぶらんぶらんになった腕がセーノの顔を叩く。ペシーンみたいな音が響いて、間抜けのようだ。
セーノも防御したいだろうが、人間の体を剣で受け止めるのは難しい。一部分止めたとしても、関節があるため、鞭のようにしなる。防御したと思っても、人間兵器は曲がるのだ。
「あっはっはぁ! 死ねおっさん!」
「クソガキッ……」
セーノが下がる。俺は気絶したおっさんをブンブン振り回す。《強化》した筋力が無ければできない芸当だ。セーノが下がり過ぎて、背中が大木に着いた。
「止めッ!」
「チッ!」
セーノが舌打ちして強引に俺の方に手を伸ばしてきた。《睡眠》の手。振り切る前に一歩離れる。気絶したおっさんを手放し、距離を置く。
「……俺の能力を知ってるみたいだな」
セーノが冷静に分析する。
「触られたら終わりっぽいからな。昏睡までさせようと思えば、長い時間はかかりそうだが」
「《解析》系か? その割にはいい動きすんな。どうなってる?」
「足りない脳みそ使って答えでも出すんだな」
《炎熱魔法》を使って、炎の矢を飛ばす。
セーノはビックリした顔になって、ギリギリで回避を続ける。
「クソが、魔法使いかよ……!」
セーノが吐き捨てる。木を盾に使ったりなど、巧みに攻撃をかわしている。慣れてるな。訓練を積んでいるとみていい。
「気分は乗らねぇが……仕方ねぇか」
セーノが立ち止まった。何をしたいのか分からないが、チャンスだ。そのまま炎矢を集中放火させる。後から話を聞くため、気持ち威力を下げる。ここからまた回避するかと思っていたが、逃げる素振りは無い。
諦めたか……?
油断はしていないつもりだった。攻撃を喰らった様子も無い。だが、倒れたのは俺の方だ。正確に言えば、膝を着いた。立っていられない。
集中力を欠き、《炎熱魔法》も霧散している。
「あーあ、これ、つまんねーんだよな。イマイチ、迫力に欠けるしよぉ」
セーノがボリボリ頭を掻いて接近してきた。あまりにも無防備。しかし、俺は動けない。
「なに、した……?」
「言わねぇよ。後ろのガキ共にも能力がばれたらやりにくくなるだろ?」
膝立ちもできない。頭を差し出すように、両手で体を支える。それも難しい。奴が近づくにつれ、力が入らない。いや、眠い……。やられた。接触型のスキルだと思ったが、範囲型の特殊スキルだ。
「ぐっ……」
《炎熱魔法》で粘ろうとするが、火が出てくれない。最後のあがきもできないか。マズイな。マジか……。俺の負け。これだけスキルを持っていても、俺が負ける。
もう、駄目だ。完全にうつぶせで倒れた。指一本すら動かない。
「お前ら、逃げとけ……」
最後にそれだけ伝えて、セーノは剣で俺の心臓を抉った。




