少女の恋
少女は恋をしていた。
入学式の日、一目見た瞬間から恋に落ちたのだ。
――春が過ぎ
――夏が終わり
――そして秋が来ても彼女の心は変わらなかった
「好き」
好きというのは何だろう。
少女は少年の目を見ることが好きだった。
彼の目は少年のように輝いていて、いつも何かを追い続けていた。
文化祭当日、ついに少女は少年に声をかける決心をした。
少女は少年の姿を探した。
校庭を抜け
校舎の窓から外を眺め
――そして屋上の扉を開けた。
――いた。
「やぁ、気持ちのいい天気だね。」
少年は陽だまりのような笑顔で少女に笑いかけた。
「う、うん。少年は、ここで何をしているのかな? 」
少女は緊張した面持ちで、少年の質問に答える。
「ああ、うん。僕は空を見ていたんだ。
見てごらんよ少女。あの澄み渡る空を。
あの空の果てにはいったい何があるのか想像したことがあるかな。」
今日も少年の目は輝いていた。
彼はきっと目の前の光景に目を奪われているわけじゃない。
彼はその先の、ずっとその先の想像した景色を視ているんだ。
「少年、隣に座ってもいいかな?
私も、私も少年が見ているものを一緒に見てみたいの。」
少年は答える。
「もちろん、いいとも。
さっきの質問の答えは、その後だっていい。
僕はきっと、この気持ちを他の誰かと共有していたいんだ。」
「――共有? 」
「ははは。少しかっこつけすぎかな。
僕は少女と話がしてみたい。――きっと、きっとただそれだけなんだと思う。」
少女は、朱色に染めた頬を少年に見せないように顔を伏せると
少年の隣に腰を下ろした。
「少年はかっこいいね。
何か他の人とは違う感じがするよ。」
「そんなことはないさ。僕はただの空想好きな一人の少年に過ぎない。
少女がそんな風に僕を感じてくれているのなら、きっとそれは少女が僕と同じだからだよ。」
「同じ? 」
少女は少し顔を上げて、少年の目を見た。
彼はいつの間にか空ではなく、少女のほうを見ていた。
「!?」
少年と目が合う。
それだけで、少女はこの場から逃げ出したくなるくらい動揺した。
「あっ、あの、私は。」
「私はっ、私なんかが少年と同じだなんて考えたこともなかった。」
「少年は、私なんかとは違くて、太陽みたいに輝いててっ。
私は、ただ少年を見るのが好きだっただけで。」
少年はゆっくりとした動作で首を横に振り、笑顔で答える。
「君は、もう少し君自身を評価してもいいと思うよ。」
「君が君のことをどう感じていたとしても、
僕は、僕と同じモノを見ようとしてくれる君のことを素敵だと感じている。
それじゃだめかい? 」
今度は少女が首を勢いよく横に振った。
「そんな、駄目じゃないっ。駄目なわけないよ。
少年にそう言ってもらえて、私はすごく嬉しい、嬉しいのっ。」
――ありがとう。そう声が聞こえた気がした。
少女は少年に恋をしていた。
彼と出会い、彼と話をして、
彼の目を、彼の笑顔を見ることが大好きだった。
そして、今日も少女と少年はここにいる。
青い空と、白い雲と、二人の笑顔がそこにあった。