表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

彼女と僕

 彼女と二人で映画を鑑賞し、学生に分相応な額のレストランで食事、その後公園を散策した。

 辺りも少しずつ暗くなり、西の空がだんだんと橙色に染まってきた頃。胸の奥で温め続けていた言葉を、彼女に伝える。


「あのさ」

「何」

「そ、その、俺、君のこ「ごめんなさい」とが好きです。付き合ってくれませんか?」

「……途中で断ってるのに、よく最後まで言い切れたわね」


 彼女がビルの谷間に沈む夕日を見ながら、はぁと一回ため息をつく。憂いを帯びた彼女の横顔は、と神秘的に見えた。まあ彼女が神秘的なのはいつものこととして。

 また振られたのか。


「がくっ」

「擬音を口に出さないで」

「また振られた」

「これで何回目? あなたも良く懲りないわね」

「失恋十二回目。一ダース行ったよ」

「おめでとう。目指せグロス」

「つまり君は、あと百三十二回も僕の告白に付き合ってくれるんだね。本当に優しいんだ」

「……あなたの思考回路のがよっぽど易しいわよ」


 彼女はぷいとそっぽを向いた。


「よくもまあ、毎回違う告白シーンを思いつくわね」

「そりゃあ、まあ」少女漫画で研究してるからね。


 とは、言えない。


「…………あなた、ちょっと」

「なに?」


 彼女はこっちを向いてバッグに手を突っ込むと、少しガサゴソやって長方形のリボン付きの紙箱を取り出した。少しためらうようなしぐさを見せた後、


「ん」

 

 ずいっと僕の方に差し出す。


「あげるわ」

「………………あぇ」


 思わず変な声が喉から漏れる。


「いつもこうやって町を歩くとき、なんかかんかお金使ってるでしょ? そのお返し」

「………………告白?」

「易しいおつむには言語は少し難易度が高すぎたかしら。…………そんなに嫌ならあげない」

「いやいやいやいや! 欲しい! 欲しいです!」


 再び小包をバッグにしまおうとする彼女を必死で止める。怒らせてしまっただろうか。

 僕の様子を見た彼女は、くすっと笑って、また小包を差し出してきた。そろりそろりと両腕を出し、彼女からの包みを受け取る。自分の方へ引き寄ると、なんだか涙が出そうだった。


「…………ありがとう」

「お返しよ。他意は無いの、ごめんなさい」


 彼女はそう言って、身体を横に向けた。西からの日差しが、彼女を橙色に染めてゆく。


「それでも」


 思わず小包をそっと抱きしめる。潰れてしまわぬよう、そっと。

 だらしなく頬が緩んでいるのを自覚しつつ、僕は言った。


「それでも、うれしいよ。好きな人がくれた物なんだから」

「……そう」


 夕日に隠され、彼女の表情は伺えない。

 僕もなんとなく彼女のように夕日を見た。白とオレンジを混ぜたみたいな、明るい円形。一部はビルに隠れて見えないけれど、そんな些末なことで夕日の存在感は消えない。


「僕は君が好きだよ」

「そう」


 思わず口からこぼれた気持ちに、彼女が短い答えを返す。

 僕は、この気持ちは大切にしようと、そう心に決めた。

 いつか彼女も、同じ気持ちになってくれるよう、願いながら。


 僕らは今日も、この町で生きる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ