彼女と僕
彼女と二人で映画を鑑賞し、学生に分相応な額のレストランで食事、その後公園を散策した。
辺りも少しずつ暗くなり、西の空がだんだんと橙色に染まってきた頃。胸の奥で温め続けていた言葉を、彼女に伝える。
「あのさ」
「何」
「そ、その、俺、君のこ「ごめんなさい」とが好きです。付き合ってくれませんか?」
「……途中で断ってるのに、よく最後まで言い切れたわね」
彼女がビルの谷間に沈む夕日を見ながら、はぁと一回ため息をつく。憂いを帯びた彼女の横顔は、と神秘的に見えた。まあ彼女が神秘的なのはいつものこととして。
また振られたのか。
「がくっ」
「擬音を口に出さないで」
「また振られた」
「これで何回目? あなたも良く懲りないわね」
「失恋十二回目。一ダース行ったよ」
「おめでとう。目指せグロス」
「つまり君は、あと百三十二回も僕の告白に付き合ってくれるんだね。本当に優しいんだ」
「……あなたの思考回路のがよっぽど易しいわよ」
彼女はぷいとそっぽを向いた。
「よくもまあ、毎回違う告白シーンを思いつくわね」
「そりゃあ、まあ」少女漫画で研究してるからね。
とは、言えない。
「…………あなた、ちょっと」
「なに?」
彼女はこっちを向いてバッグに手を突っ込むと、少しガサゴソやって長方形のリボン付きの紙箱を取り出した。少しためらうようなしぐさを見せた後、
「ん」
ずいっと僕の方に差し出す。
「あげるわ」
「………………あぇ」
思わず変な声が喉から漏れる。
「いつもこうやって町を歩くとき、なんかかんかお金使ってるでしょ? そのお返し」
「………………告白?」
「易しいおつむには言語は少し難易度が高すぎたかしら。…………そんなに嫌ならあげない」
「いやいやいやいや! 欲しい! 欲しいです!」
再び小包をバッグにしまおうとする彼女を必死で止める。怒らせてしまっただろうか。
僕の様子を見た彼女は、くすっと笑って、また小包を差し出してきた。そろりそろりと両腕を出し、彼女からの包みを受け取る。自分の方へ引き寄ると、なんだか涙が出そうだった。
「…………ありがとう」
「お返しよ。他意は無いの、ごめんなさい」
彼女はそう言って、身体を横に向けた。西からの日差しが、彼女を橙色に染めてゆく。
「それでも」
思わず小包をそっと抱きしめる。潰れてしまわぬよう、そっと。
だらしなく頬が緩んでいるのを自覚しつつ、僕は言った。
「それでも、うれしいよ。好きな人がくれた物なんだから」
「……そう」
夕日に隠され、彼女の表情は伺えない。
僕もなんとなく彼女のように夕日を見た。白とオレンジを混ぜたみたいな、明るい円形。一部はビルに隠れて見えないけれど、そんな些末なことで夕日の存在感は消えない。
「僕は君が好きだよ」
「そう」
思わず口からこぼれた気持ちに、彼女が短い答えを返す。
僕は、この気持ちは大切にしようと、そう心に決めた。
いつか彼女も、同じ気持ちになってくれるよう、願いながら。
僕らは今日も、この町で生きる。