表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/188

23 無双

「慮外者めがぁーっ!」


「やめるのだ、容保殿!」


 ジジイの怒号に、ヨリタネさんのアラートが重なる。


 井伊はびっくりしすぎて放心状態。


 御三家チームは爆発寸前。


 タマリノマクラブ&老中は固唾かたずを飲んで静観。



「外交交渉なるもの、邦と邦との利害がぶつかる真剣勝負の場。刀なき戦にございます。一言一句もおろそかにはできぬかけひきの場にて、相手の言い分もよくわからぬとあらば、わが方にとってまことに不利となりましょう」



 やめろ、っつーーのっ!



「かような折、まさに天の配剤のごとく、メリケンの言葉を解する者がわが国にあらわれたのでございます。この者を用いるなとはただただ恐れ入るばかりの愚見」


 容さんは能面のような顔で過激な言葉を吐きまくる。


 言ってること自体は俺の考えそのものだが、『愚見』とか言葉のチョイスが挑発的すぎだろーが!



 おい、容さん、いい加減にしろっ!


 俺はイジメに関しては多少敏感だけど、基本は平和主義的草食男子なの!


 見境なく人にケンカ吹っかけるタイプじゃないんだっ!


 ……ホントかんべんしてくれよぉ。



 制御不能におちいった着ぐるみになすすべもなし。



「万次郎なる者がメリケンの手先であったら、わが邦は夷狄の思いのままに蹂躙されてしまうではないか!」


 ジジイがめずらしくまともなことを言った。



(……そうなんだよなぁ……)


 俺が心配してるのもまさにそこ。


 この世界、俺の知ってる幕末とはすこしちがってる。


 いい例が容さんで、こっちの松平容保は他家からの養子ではなく、藩祖直系。

 だったらジョン万次郎だって……。


 あっちでは日本のために尽力した万次郎。でも、こっちのは?


 万が一、ブラック万次郎だったらどうする?


 米国工作員として、ペリーに協力してアメリカに有利な条約を結ぶ密命を受けて帰国した男だったら?


 日本完全終了じゃん!



 しかも、世界情勢だって、あっちと同じかさっぱりわからない。


 憑依後確認できたのは、容さんの周辺事情と、大まかな日本・中国・アメリカの近況だけ。

 イギリス、フランス、ロシア、アメリカ、オランダ、プロイセン、中国、朝鮮。

 幕末日本にかかわる国については、とくにくわしく調べておかないと今後判断を誤りかねない。


 とはいえ、時間がなくてまだそこまでは手がまわらないのが実状だ。


 なので、世界史も当然未確認。


 そのへんが不安だから、後半はうかつな発言しないようにしたかったのに。


 容さんが勝手に暴走するなんてっ!


 想定外の事態になっちゃってるしーっ!!



 ………………っ!?



 身体ハードを操っていたもやっとした気配が……………消えた。



 お、まえーーーっっっ!!



 やりたい放題やりまくって、はいサヨナラかーっ???


 あとはヨロシクってか!?


 こら、遊んだあとはちゃんとお片づけしなきゃーっ!!


 容パパーっ! なんとかしてくれっっっ!!!

 あんたの息子、散らかしっぱなしで帰っちゃったんですけどーっ!



 あぁ~~~っ!



 ジジイと一触即発(もう発してる?)状態じゃねぇかっっ!!


 どうやってごまかせばいいんだよ?


 なーんも思いつかねぇ。



 ………………しゃーない。ジジイにあわせて対応しよう。


 やつの言いそうなことはだいたい察しがつくし。



「水戸さまの言にも一理ございますな」


 最初はジジイを支持。これで出方を見る。


「通詞が信用できぬのでは交渉どころではございませぬ。となると、やはり水戸さまのご主張どおり、攘夷戦しかないやもしれませぬなあ」


「だからわしはずっとそのように言っておるではないかっ!」


 傲然と顎をあげ、一座を睥睨へいげい


「いまごろになってそれに気づくとは、このうつけものめが!」



 おお、やっぱ、そう来たか。



「およそ三百年前……」


 罵詈ばりは無視し、唐突にちがう話題をふってみる。


「当時無敵をほこった武田軍が、長篠の合戦において織田徳川連合軍に敗退いたしました」


「なにを言いだすのだ? 気でもふれたか?」


 斉昭の怪しむような目つきはガン無視。


「この戦いはひとえに、刀槍中心の旧式兵器が鉄砲という最新兵器に敗北した好事にございます。いまのわが国は、このときの武田軍同然。攘夷戦を行えばおそらく同じように敗北し、武士は全滅に近い惨状になりましょう」


「なんだ、さきほどから偉そうなことばかりぬかしおるが、やはり死ぬのが怖いと見える」


 勝ち誇ったようにあざ笑うジジイ。


「このような臆病者が精強で鳴らす会津兵の総帥とは。嘆かわしいっ!」


「さよう。わたくしは恐ろしいのです。あとに残された帝以下、堂上とうしょう(公家)・百姓・町人ことごとく異国の奴隷とされるのでは、と」


「な、なんだと?」


「とはいえ、すでに討死しているわれら武家にとってはもはやあずかり知らぬこと」


「バカなことを申すなっ!」


 ガチガチの尊王思想家・徳川斉昭は、『帝が奴隷に』の強烈な未来図に、いまにも飛びかからんばかり。


「はて、バカなことでしょうか? わが国の火器が異人の物にくらべ、はるかに旧式であることはあきらか。真の武人ならばその事実に目をそむけてはならぬのではありませんか?」


 さっきも似たようなやりとり、した気がするけどねぇ。


 おバカちゃんを相手にすると、これだからイヤなんだ。


「武備の差も考慮に入れず、攘夷という精神論だけで戦に勝てると思う【愚鈍】な将のもと、ムダに命を落とす兵たちにとっては、まことに悲惨極まりない最期です」


 ふと、容さん(この着ぐるみ)がひどく冷酷な表情をしているのに気づく。


 容さんは通常モードではただの美形。


 だが、ひとたび戦闘モードで誰かと対峙したとき、凄惨な光輝に彩られた悪相に変身するようだ。


 だって、オッサンたち、すごく怯えたような顔してこっち見てるし。


 そのうえ、論戦重ねるごとにだんだんイキイキしてくるような?


 なんなの、こいつ?


 無双状態(こーゆーの)にあこがれてたとか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ